新聞の未来:「グーグル」にかみつく「グーグル的思考」

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09/30/2013 by kaztaira

グーグルのチーフエコノミスト、ハル・バリアンさんが先週、ミラノで開かれたジャーナリズム賞「エ・ジョルナリスモ」の受賞式でおこなった講演が話題になっている。新聞ビジネスの課題とソリューションを論じているのだが、人気ブロガーのジェフ・ジャービスさんがこれに対して、全くグーグル的じゃない、と真っ向から反論しているのだ。

Hal Varian: the economics of the newspaper business (International Journalism Festival)

Google’s chief economist understands media better than some industry executives do (PaidContent Mathew Ingram)

Exif_JPEG_PICTUREバリアンさんといえば、「ネットワーク外部性」などを論じた名著『「ネットワーク経済」の法則』で知られる経済学者で、カリフォルニア大学バークレー校名誉教授。2010年からグーグルのチーフエコノミストを務めている。

『「ネットワーク経済」の法則』は邦訳が1999年6月で、もはやこの分野の古典の一つだが、改めてページをめくっても得るところはある。

講演でのバリアンさんのポイントは8つ。

1.紙の新聞の部数はこの50年減少を続けている
これはいわずもがなの現実。

2.インターネットはニュースの配信と閲読のための優れた方法
ニュース配信コストの劇的な低下と、ウェブによるリッチなニュース体験。

3.ニュースが直面する経済問題の根本は、増加するアテンション競争
アテンション・エコノミーを、新聞がどう生き残るのか、ということ。

4.新聞はニュースで稼いだことはない
これは、とくに米国の新聞がファイナンス、ガーデニング、自動車、旅行、ファッション、エンターテインメント、クラシファイドといったページの広告収入に依存してきた点をさす。ストレートニュースは金になったためしがない、と。ただ今では、各分野の専門サイトが登場し、やはり新聞がアテンション競争にさらされている、と。

5.紙のニュース接触は余暇時間の行動、ネットのニュース接触は労働時間の行動
ニュースへの接触スタイルが、朝晩は紙、日中はネット、という仕分け。

6.広告収入は読者のエンゲージメントに依存する
紙の新聞の読者は1日の閲読時間が約25分に対し、米英のニュースサイトの滞在時間は2~4分で、約8分の1。米国では、広告収入のうちネット広告の割合がやはり8分の1。滞在時間の向上が収入増のカギになる。

7.タブレットは新聞が失った読者を取り戻す手段に
タブレット所有者の64%は、タブレットからニュースにアクセスしている。携帯電話からのニュース接触は1日中まんべんなく行われているが、タブレット経由は朝晩に集中する。これは携帯やパソコンと違って、タブレットはもっぱら余暇時間に利用される傾向にあるからだ。このようにデバイスを渡り歩く読者に対して、どのように継続性とコンタクトを保っていくか。新聞はそのための戦略が必要だ。

バリアンさんは、ここで、こんなエピソード(というかネタ)を紹介する。

数週間前、ジェフ・ベゾスがアマゾンの自分のアカウントにログインした。すると彼はこんなメッセージを目にした。「最近の購入履歴から、こんな商品をおすすめします:ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズ、シカゴ・トリビューン」。ワシントン・ポストの全購読者がキンドルを手にするのにどれぐらいかかるだろうか。私は1年以内と見ている(今、キンドルの値段は100ドル以下、ポストの紙の年間購読料は350ドルだ)。

8.新聞が直面する根本的な課題は、読者がコンテンツに使う時間をいかに増やすか
新聞社のコンテンツがもっと長い時間読まれるようになれば、それだけ広告増収が見込める。そのためには2つのことが必要だ:日中は鮮度のいい、面白いニュースで読者をつかみ、さらに後で時間のある時には、深掘りの分析をじっくり読み込むように読者をうながす。

読者の利用シーンにあわせたデバイス間の連携、コンテンツの階層間の連携とエンゲージメント。それはそれで聞くべき点もある。

だがこれに対して、『グーグル的思考』の著書もあるニューヨーク市立大ジャーナリズムスクール教授で、起業家ジャーナリズムセンター所長のジェフ・ジャービスさんが猛然とかみついた。

Attention v. relationship economy (BuzzMachine)

バリアンさんの論点は、アテンションのマーケティングにもとづいた、まさに旧メディア型の視点であり、ユーザーとの関係と関心から広告モデルをつくり変えてしまった〝グーグル的〟な発想ではない、と断じるのだ。グーグルのチーフエコノミストを相手に。

すべての読者はすべての広告を見る、だからすべての広告主にすべての読者分の広告費を払ってもらう――1世紀も続いたそんなマスメディアの神話の息の根を止めたのが、まさにグーグルだとジャービスさんは言う。

検索、ロケーション、コンテクスト、行動、そして消費したコンテンツ――それらのデータからユーザーに関連があり、関心に沿った情報を届ける、それがグーグルだと。

広告枠を広告主に売る。古いスタイルのコンテンツをタブレット風につくりかえる。読者との関係をページビューや滞在時間で計る。主要な価値はコンテンツ制作にあると考える――そういう発想はやめなさい、と言う。

ではどうすればいいのか。

新聞やその他の従来型メディアは、まさにグーグルのように、〝サービス〟になれ、とジャービスさん。情報を伝えるのは同じでも、データを使うことで、読者をマスではなく個人として、コミュニティーとして理解し、適切な関連情報をわたすことができる、と。

「ピザ」を検索すると、グーグルは「ピザ」を含むあらゆる記事を表示するのではなく、マップの利用履歴などから、近所のピザ屋を教えてくれるだろう。新聞は? もし新聞が自分の住所や職場のデータを持っていれば(読者がそれを開示するインセンティブがあればの話)、ターゲット広告のような自分にターゲットした記事を配信できる。

読者に関連のあるニュースを優先的に配信することができるのに、なぜあらゆる新聞社がホームページを万人向けの新聞紙面と同じ扱いをし続けるのか、とジャービスさん――それは、新聞がなおマスメディアの神話を信じているから。時間さえあれば、読者はすべてのページと、そして広告に目を通してくれると思いたい。それこそバリアンさんが薦める、アテンションをベースにした旧式のメディアモデルなんだ、と。

新聞は、アテンションではなく、読者との関係(リレーション)を築くところから始める必要がある、というのがジャービスさんの結論だ。それこそがグーグルの教えだ、と。

頭の整理に役立つ、なかなか面白い議論だ。

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新聞の未来:「グーグル」にかみつく「グーグル的思考」」への3件のフィードバック

  1. 島田範正 より:

    グーグルはジャービス教授絶賛の「Waze」を買収していますよね。にもかかわらず、バリアン氏がWaze的な発想がないというのは、うまくいってないのでしょうか? http://www.kddi-ri.jp/blog/srf/2013/06/25/jarvis/

    • kaztaira より:

      ジャービス氏お得意のポジショントークのだしに、バリアン氏を引き合いに出したというところなんじゃないかと。

      • kaztaira より:

        バリアン氏もタイムリーなニュースとレレバントな広告を、と言っているのですが、ジャービス氏は、広告枠ではなくて、ユーザーとの関係、レレバンシーなんだということを強調したかったんでしょうね。

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