「トロン」と「レガシー」の間に

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12/25/2010 by kaztaira

その間、28年。「サイバースペース」からやってきた「ハッカー映画」の話だ。

 17日公開のディズニー映画「トロン:レガシー」を、川崎のIMAX3Dで、初日と、さらに天皇誕生日の23日に改めて見た。前作の「トロン」公開が1982年。この28年間は、そのまま「サイバースペース」の歴史でもあった。
 「サイバースペース」という言葉の名付け親はSF作家のウイリアム・ギブスンさん。1982年7月に雑誌に発表した短編「クローム襲撃」が初出とされる。サイバーパンクの代表作と言われる1984年の長編「ニューロマンサー」の翻訳で、訳者の黒丸尚さんは、「電脳空間」という訳語をあてている。

 

 

tron

「トロン」の公開も同じ82年7月。だから、「トロン」の中で「サイバースペース」という言葉こそ登場しないが、主人公の「ハッカー」が「グリッド」「マトリックス」を舞台に活躍するという世界観は見事に共通する。「トロン」は、そのデジタルな世界観を、CGとアニメーションと実写を組み合わせて映像化した先駆的作品だ。

 アップルのパーソナルコンピューター、初代マッキントッシュが発売され、日本のインターネットの源流となったJUNETが始まるのは、それから2年後、1984年のことだ。「トロン」も「ニューロマンサー」もコンピューター・ハッカーが主人公だが、ハッカー文化を描いたスティーブン・レビーさんの「ハッカーズ」が出版されたのもこの84年。同年開かれた「第1回ハッカー会議」で、デジタルのビジョナリー、スチュアート・ブランドさんが表明したのが「情報はフリーになりたがる」というテーゼだった。ブランドさんは、翌85年には、ソーシャルメディアの始原とも言える電子掲示板「WELL」を開設している。

 ブランドさんはまた、「パーソナル・コンピューター」という言葉をメディアで初めて使った人物とされるが、そもそもその言葉を生み出したのは「ダイナブック構想」などで知られるコンピューター科学者のアラン・ケイさんだ。

 そしてアップルの「マッキントッシュ」は、ゼロックス・パロアルト研究所(PARC)にいたアラン・ケイさんの「ダイナブック」の取り組みを見学、発想を得たアップルのスティーブ・ジョブスさんが開発につなげたというエピソードは有名だ。
 「トロン」の登場人物のひとり、「アラン」の名前はこのアラン・ケイさんから来ているというのは、雑誌「ワイアード」の特集「サイバースペースへの帰還」で知った。「トロン」と「サイバースペース」の歴史がぎっしりの特集だ。
 それによると、「トロン」のストーリー原案づくりに、監督のスティーブン・リズバーガーとともに携わったボニー・マクバードさんが、アラン・ケイさんにアドバイスを求め、映画の舞台となるハイテク企業「エニコム」の研究施設はPARCなどをモデルにしていたらしい。リズバーガー+マクバードは、「レガシー」でも、キャラクター設定でクレジットされている。マクバードさんとケイさんは、「トロン」がきっかけになって、結婚したという。
 82年の「トロン」は、ディズニーらしく「不思議の国のアリス」のサイバー版のような趣もある映画だ(隠れキャラで、ミッキーマウスのシルエットが瞬間、姿を見せたりもする)。一方で、蛍光色を多用した美術は、サイケデリックでもあり、不思議なアンダーグラウンド感を醸し出している。コンセプチュアルアートでは、シド・ミードさん(グリッドを駆け抜けるバイク「ライトサイクル」のデザインなど)やジャン・ジロー(メビウス)さんも参加しており、今から見れば、ある種レトロ・フューチャーな世界観ができあがっている。
 だが、スティーブン・スピルバーグ監督の「ET」、リドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演の「ブレードランナー」、「スタートレックII カーンの逆襲」と、SF映画目白押しの同時期公開。ニッチなマーケットになったであろうことは想像もつく。
 そして「トロン:レガシー」。続編の体裁ながら、物語の骨格や細部の場面は「トロン」を丁寧に踏まえている。28年という時間の流れは、「ライトサイクル」の描写一つとっても、そのCGのレベルを十分堪能できる。「2001年宇宙の旅」(ジェフ・ブリッジス演じるケビンの隠れ家のデザイン)や「ブレードランナー」(のオリジナル版<ディレクターズカットの最終版ではカットされているエンディング>など)といった作品へのオマージュを思わせる場面もあり、色々な読み取り方もできるだろう。フランスのエレクトロ・ユニット「ダフトパンク」のサウンドも、この世界観をうまく盛り上げている(クラブのシーンでご本人たちも出演している)。
 だが「マトリックス」など、「トロン」が提示した世界観を発展させた系譜の作品がすでにある中で、「レガシー」はどちらかというと「トロン」への先祖返りとバージョンアップに主眼が置かれていた。まさにワイアードの特集タイトル通り、82年の「サーバースペース」に回帰した「ハッカー映画」だ。その分、2010年の現在から見た「次の未来」が、希薄だったような気もする。たとえばこの28年は、現実空間とネット空間の境目が消失していった時間の流れでもあった。今のクラウド環境は、ネットが現実にしみ出している、とも見て取れる。
 「レガシー」のさらに続編があるのかどうかしらないが、あるのなら、そんな「次の未来」を見てみたい。
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