買い手主導の「スモールデータ」

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07/23/2012 by kaztaira

また、なかなか面白い本を読み終わった。

 リナックス・ジャーナルの編集委員で著名ブロガーでもあるドク・サールズさんの話題の新刊「インテンション・エコノミー」(未邦訳)だ。
先週紹介した「大きすぎてわからない(トゥー・ビッグ・トゥー・ノウ)」の筆者、デビッド・ワインバーガーさんと同様、サールズさんも、ネット時代のビジネス書の名著『これまでのビジネスのやり方は終わりだ―あなたの会社を絶滅恐竜にしない95の法則(クルートレイン宣言 The Cluetrain Manifesto: The End of Business As Usual)』の共著者の一人だ。
 「アテンション・エコノミー(関心経済)」という言葉がある。情報洪水の中で、稀少化する人々の関心を得ることがビジネス上重要な意味を持つ、という考え方だ。
 サールズさんの「インテンション・エコノミー」は「意思経済」とでも訳せばいいだろうか。言葉は似ているが、考え方は180度違う。本書の副題は「買い手が主導権を握る時」。テーマは、買い手の意思を中心に据えた、買い手主導のビジネスへの大転換だ。
 関心経済の基本的な枠組みは、CRM(顧客<カスタマー>関係管理)システムで顧客情報を管理し、ビッグデータを解析して顧客の関心や行動を描き出し、購買に結びつけるというものだ。あらゆる視点が売り手にある。
 たが、ビッグデータの収集に買い手側の意思が介在することはほとんどない。
 あらゆるサービスや商品の利用条件も、多くの場合は一読すらされない「利用規約」によって、売り手が一方的に決め、そこに買い手からの交渉の余地はない。
 これに対してサールズさんが提唱するのは、VRM(業者<ベンダー>関係管理)システム。買い手側で、購買の際の条件、売り手に渡す個人データ、その利用条件などを管理し、データの受け渡しが可能なシステムだ。
 ユーザーに代わって様々な取引作業を行うエージェントプログラムの開発や、ユーザー側が価格を設定する逆オークションの「プライスライン」といったサービスは以前からあるが、それをさらに個人データ流通の管理まで組み合わせて買い手がハンドリングするというイメージのようだ。
 そして、ビッグデータに対して、個人がコントロールする自分自身についてのデータ「スモールデータ」を提唱する。
 「あなた自身の”スモールデータ”は、当て推量のマーケティングの背後にある”ビッグデータ”などよりずっと重要だ」
 「クルートレイン宣言」で掲げた「市場は会話だ」というテーゼの通り、どこまでいっても当て推量の枠を越えられないビッグデータの解析ではなく、買い手本人との会話によって成り立つビジネス。それこそ、買い手、売り手双方のメリットになると、サールズさんは説く。
 サールズさんは、ハーバード大学バークマンセンターを拠点に「プロジェクトVRM」という実際の開発にも取り組んでいる。
 このような、当事者の意思表示と合意をベースにした許諾システムの原型は、著作権者が著作物の利用条件をあらかじめ提示することで、幅広い活用を可能にする「クリエイティブ・コモンズ」の仕組みだという。
 個人データを本人主導でコントロールし、それをビジネスのあり方にも反映する。かなり先進的にも見えるが、この考え方は、まさに「EU個人データ保護規則案」や英国の「マイデータ・プロジェクト」、米国の「消費者プライバシー権利章典」などの潮流の背景にある問題意識と同じだ。
 プライバシーを守った上で活用するというグランドデザイン。プライバシーからビッグデータ界隈に関心があるならば、一読をおすすめしたい。
 目次を簡単にみておこう。
 プロローグ:インテンション<意思>にアテンション<注目>を向ける
 イントロダクション:自由市場は自由な買い手を求める
  1 約束の市場
 パート1 捕らわれの買い手
  2 広告バブル
  3 人質犯を選ぶ
  4 一方的な法律
  5 非対称の関係
  6 ロイヤルティ不全
  7 ビッグデータ
  8 複雑化要因
 パート2 ネットワーク化した市場
  9 ネットの苦悩
  10 ライブウェブ
  11 エージェンシー
  12 フリーとオープン
  13 ビットはビジネス
  14 垂直展開と水平展開
  15 コモンズの礼譲
 パート3 解放された買い手
  16 個人の自由
  17 VRM
  18 開発
  19 第4者システム
  20 われらの手にある法
  21 スモールデータ
  22 API
  23 解放された支払い
  24 VRM+CRM
 パート4 解放された売り手
  25 ダンス
  26 コモンズの理念
  27 なすべきこと
 エピローグ あと一歩
 ※ウォールストリート・ジャーナルのオンライン版でも、サールズさんの動画インタビューが掲載されていた。

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

※GQ JAPANのウェブサイトに、「ジャーナリズムの伝統と流行」というテーマで、筆者のインタビュー記事が掲載されています。「ジャーナリズムが得た新たな表現方法──平和博よろしければどうぞ。

Twitter:@kaztaira

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