「あまった知力」が変える社会

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08/23/2012 by kaztaira

個人的に夏休みの課題図書にしていたクレイ・シャーキーさんの『Cognitive Surplus: Creativity and Generosity in a Connected Age』をようやく読了した。タイトルの日本語のニュアンスが難しいが、『あまった知力 つながる時代の創造力と持ち寄る力』といった感じか。

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2年も前に出た本でさほどボリュームがあるわけでもないのに、そのうち翻訳が出るかなと放っておいたら、読むのがこんなタイミングになってしまった。シャーキーさんは私が翻訳・解説を担当したダン・ギルモアさんの『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』(邦訳は2011年7月)に序文を寄せていて、本当ならその時に読んでおくべき本だった。

 シャーキーさんは著名ブロガー、ライターで、ニューヨーク大学でソーシャルメディアについての教鞭もとる。『あまった知力』についてはTEDでもプレゼンをしていて、NHKの「スーパープレゼンテーション」でも5月に放映していたので、見た方もいるかもしれない。
 シャーキーさんは、2008年に『みんな集まれ! ネットワークが世界を動かす(Here Comes Everybody: The Power of Organizing Without Organizations )』(邦訳は2010年)という本も出している。
 これはソーシャルメディアの登場と社会変化、特にオンラインの組織化の力と特質を俯瞰した内容で、おすすめの一冊でもある。
 本書はその続編にあたる。キーワードはまさにタイトルの「あまった知力」。これまではテレビを見たりして受動的に消費してきた自由時間が、世界で20億人を超す利用者がネットでつながることで、「年間1兆時間を超す」資源としての「あまった知力」が登場してきた、とシャーキーさんは説く。

 「私の前作『みんな集まれ!』は、ソーシャルメディアの台頭を歴史的視点で捉え、それによって生じた集団活動の環境変化を描いていた。本書は、前作では扱わないでいたテーマを取り上げている。つまり、人々がネットワークでつながることで、自分たちの自由時間をグローバルな共有資源として扱うようになり、その資源をうまく利用できるような新しい参加と共有の形をデザインするようになる、という議論だ。ただ、私たちの”あまった知力”は可能性にすぎない。それ自体は何の意味もないし、なにかをするわけでもない。この新たな資源で何ができるのかを理解するには、どんな活動ができるようになるかに加え、そのための方法論や方向性についてまで見当しておくことが必要だ」

 「知力」の使い方は様々だ。lolcatsと呼ばれる猫のお笑い写真サイトから、東日本大震災の被災・復興情報アグリゲーションサイト「震災インフォ」で活用されたアフリカ発のオープンソース「ウシャヒディ」、さらにBSE問題で中断していた米国産牛肉の韓国への輸入再開に対する反対運動の舞台となった韓流アイドル、東方神起のファンサイト。

さまざまなレベルで様々な価値と力を生み出すメカニズムを、シャーキーさんは手際よく説き明かしていく。特に注目するのは、コミュニティーの参加者のモチベーションのあり方だ。

 TEDのビデオでも紹介されているイスラエルの保育園での実験が象徴的だ。保護者のお迎えが遅れがちな保育園で、遅刻に罰金を科したところ、逆に遅刻が増えた、というもの。しかも、罰金をとりやめても、いったん増えた遅刻は減らなかったという。

自由意思と規律、さらには報酬との微妙なバランス。これは、ソーシャルなコミュニティーの運営とビジネスとの兼ね合いを考える上での切実なテーマでもある。

シャーキーさんの議論はさらに、「あまった知力」の価値と力を、個人的なレベルからコミュニティーレベル、さらには社会を変えていくレベルにと高めていくための具体的な方法論にまで議論は及ぶ。

 その方法論の指針が端的にまとめられているので紹介しておく。

-小さく始める:大規模に広がることで初めて機能するようなプロジェクトは、だいたい大規模には広がらない。

-「なぜ?」をつきつめる:ほかにも時間の使い方はいくらでもある利用者が、このプロジェクトに目を向けてくれる理由は何か?

-行動には機会が必要:利用者が理解できて、関心が持てるように参加の機会を提供すべきだ。

-デフォルトでソーシャル:プラットフォームはソーシャルを前提に。

-100人の扱いは10人より1000人より難しい:コミュニティーがスケールする過渡期の難しさ。

-十人十色。人が増えればさらに多彩:参加型のシステムでは放送型のような「平均的」といった考え方はほとんど無意味。

-親密さはスケールしない

-支え合うカルチャーをサポートせよ

-ソーシャルメディアを通じて素早く学ぶことで、利用者の反応をすぐに取り入れることができる

-失敗すれば終わりだが、成功はさらなる問題を引き起こす:成功は期待値を上げ、より多くの人々を引きつけるのだから。

-明確であることは暴力だ:ルールはあらかじめ明確に決めても機能しない。必要に応じて。

-何でも試せ。すべて試せ。

 シャーキーさんの議論は、頭を整理するのにすごく役に立つ。
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朝日新聞記者のネット情報活用術

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