NYT:ウェブで「体験」する物語

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12/30/2012 by kaztaira

このところ、関係方面でしきりと話題になっているのがニューヨーク・タイムズの「Snow Fall: The Avalanche at Tunnel Creek」だ。同紙のスポーツライター、ジョン・ブランチ記者によるかなりの長尺コンテンツで、6章構成。私程度(英検3旧程度)の英語力だと、とばし読みでもゆうに2時間以上はかかった。

snowfall話題のポイントは、「記事」というよりも「コンテンツ」としか呼びようのない、目を見張るようなウェブ表現にある。動画、CGアニメーション、音声、そしてテキストが一体になって、文字通り「マルチメディア」としてストーリーを体験させてくれるデザインになっている。

筆者はブランチ記者1人だが、加えてグラフィックスとデザインのチームが11人、カメラマン1人、動画チーム3人、リサーチャー1人という総勢16人が背後に控え、公開までに半年をかけたプロジェクト。

その成果はあったようで、メディアブロガーのジム・ロメネスコさんが公開しているニューヨーク・タイムズのジム・ラブラムソン編集主幹の社内向けメールによると、12月20日の公開から1週間で290万人が訪れ、ページビューは390万。ピーク時には2万2000人がアクセス、その3分の1から4分の1は新規ユーザーだという。そして滞在時間は12分程度とかなり長い。(MORE THAN 3.5 MILLION PAGE VIEWS FOR NEW YORK TIMES’ ‘SNOW FALL’ FEATURE

アトランティックのレベッカ・グリーンフィールドさんが、このチームのデザイナー2人にインタビューした記事がある。(What the New York Times’s ‘Snow Fall’ Means to Online Journalism’s Future)

これを読むと、今回のプロジェクトが突然変異的に出来上がったわけではなく、すでに様々な実験的取り組みの先行例があり、その下敷きの上で、展開されていることがよくわかる。

また、同様の革新的取り組みは、他メディアでも行われていて、有名なESPN.comの「The Long, Strange Trip of Dock Ellis」 など、先進的なウェブ表現にも刺激されながら、今回のプロジェクトを進めていったようだ。

ストーリーは、今年2月に米ワシントン州で起きた雪崩事故と、その雪崩に遭遇した16人のグループを巡って展開していく。それぞれがプロ筋のスキーヤーやスノーボーダーだ。

当事者たちのインタビュー、現場の空撮に3Dの地図情報を重ねた動画、グループのメンバーがヘッドカメラで撮影した当日の現場の動画、気象衛星による当時の大気の動きと地図を重ね合わせた動画、雪崩発生の仕組みを解説したCGや、雪崩が起きた様子をシミュレーションで再現したCG。

膨大な手間がかかっていることはそれぞれの作り込みからも明らかだ。

ただ、すごいな、と思うのは技術力というよりも、むしろそれを抑え気味にすらしている点だ。

ニューヨーク・タイムズには、データジャーナリズムなど数々のマルチメディアの取り組みの実績があり、技術的な先進性は群を抜いている。だが、むしろこのコンテンツでは、

アトランティックのインタビューでも、デザインチームのスティーブ・デューンさんは、「フロントエンドのコーディングは、私たちが過去2年間にやってきたインタラクティブな特集記事の取り組みを、大きく超えるようなものじゃない」と。「テキストににぎやかしとしてのビジュアル付け足しただけ、というのではなく、それらが一体になる組み立てにした」と話している。

ウェブの先進的な表現技術なら、アートや広告の世界ではるかに高度なものが存在している。

だがここでのコンセプトはあくまでジャーナリズムであり、ストーリーを伝える、という点を優先させて、そのために最適なマルチメディアの表現、配置を行っているように見える。それはビジュアル化の要諦でもある。

テキストを読みながら、動画やCGが邪魔にならない。目線や頭の中のストーリーの流れがあらぬ方向に脱線したりしない。そして、ストーリーの現場を「体験」しているような感覚になる。そこがすごい、と思う。

ただ、このプロジェクトへの反応も様々なようだ。ニューヨーク・タイムズのパブリック・エディター、マーガレット・サリバンさんがまとめているが、「すごくよく書けているが、それで? (中略)半年がかりの14ページもの詳細な報道を、(コネティカット州)ニュータウンの小学校でおきた銃乱射事件でやってくれていたら、と考えてしまう」といった痛烈な反応もあったようだ。(‘Snow Fall’ Tells a Story About an Avalanche and a Newspaper’s Digital Progress

さらに、アトランティックのデレク・トンプソンさんは、これだけの時間と手間をかけたものは、そうそうできるものではない、として、「これをジャーナリズムの未来とは呼べない」と書く。(‘Snow Fall’ Isn’t the Future of Journalism

サイトにはバナー広告もついているし、電子書籍としても2ドル99セント(キンドルは2ドル97セント)で販売している

ただ、半年という時間と記者を含めた17人のチームのコストをまかなえるモデルか、という指摘は指摘として、なるほどな感じだ。

ただ、ニューヨーク・タイムズの課金制自体は好調なようで、ブルームバーグがアナリストの推計値として、今年のデジタル購読料は9100万ドル(約78億円)で、購読料全体(7億6830万ドル)の12%を占め、広告料収入を5000万ドル以上上回っているとのこと。ちなみに、デジタル購読者はインターナショナル・ヘラルエド・トリビューンとあわせて56万6000人とのことだ。(The New York Times Paywall Is Working Better Than Anyone Had Guessed

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cover3

『朝日新聞記者のネット情報活用術』

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