熱心な読者ほど報道機関を見放していく

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03/24/2013 by kaztaira

米国のピューリサーチセンターがジャーナリズムの現況をまとめる年次報告「ステート・オブ・ザ・ニュースメディア」が今年も公開された。

Exif_JPEG_PICTUREちょうど10回目になる今回の報告書は、関係者にとってはかなり恐ろしいことが書いてあった。

熱心なニュースの読者・視聴者ほど、報道機関を見放している、というのだ。

若い層のメディア離れが続いているとは言っても、これまで新聞(テレビ)に親しんできた人たちは、なお根強い読者層でありつづける...というある種の安定剤のような前提というか、認識があった(と思う)。

その前提が崩れ始めている、そしてその原因は報道機関によるニュースの質(と量)の低下だ、というのが今回の報告書の指摘だ。恐ろしい。

報告書を見ていこう。

数字はいずれも、今年1月末から2月初めにかけて米国の成人2009人を対象に行った電話調査に基づいているという。

この調査によると、「これまで慣れ親しんできたニュースや情報を提供しなくなったと感じて、特定の報道機関を見なくなったことはありますか」という質問に対して、実に31%が「イエス」と答えている。

問題はその内訳だ。

調査ではニュース産業が財政的な問題を抱えていることについて聞いたことがあるかという質問をしていて、最も多いのが「全く知らない」の36%。「少し」24%、「ある程度」22%、「よく」17%、とそれぞれニュース産業への関心の度合いを示している。

このうち最も関心の高い「よく」知っていると答えた人々のうち、4割以上(43%)が、ニュースの内容に不満で「見なくなったことがある」としているのだ。関心度が低くなるにつれ、「見なくなった」の割合いも下がり、ニュース産業の財政問題を「全く知らない」層では、「見なくなった」は2割止まりだ。

報道機関を「見捨てた」層のデモグラフィーを見ると、年齢層は高く(65歳以上で36%、18-29歳では27%)、男性の方が顕著(男性で34%、女性で28%)、党派では共和党支持・無党派が3割以上(33%と34%)と民主党支持(26%)を上回る。

ちなみに報道機関への関心の高い層(財政問題を「よく知っている」「ある程度知っている」と答えた人)のデモグラフィーは、やはり65歳以上(で46%)、高学歴(大卒で54%)、高収入(年収75,000ドル以上で50%)となっている。

そして、この質問。「ニュースの量が減った」と「ニュースの質が下がった」、より気になっているのはどちら――報道機関を「見捨てた」層は、圧倒的に「質が下がった」(61%、「量が減った」は24%)を挙げた。全体の回答でも「質が下がった」(48%)が「量が減った」(31%)を上回っている。

背景にある報道機関の財政問題は数字にもはっきり表れている
–報道機関の従業員数ピーク時の2001年に比べて約3割(28%)減で、2012年にはその数は初めて4万人を切った。
–1998年から2010年の間に18の新聞社と2つの新聞チェーンがすべての海外支局を閉鎖した。
–2003年と2010年との比較で、国防総省を担当する記者は23人から10人に、国務省を担当する記者は15人から9人に減っている。
–ローカル局では、ニュースコンテンツの放送時間が短くなり、政治・行政ニュースの扱いは半減、スポーツ・天気・交通情報が4割を占めるまでに。
–ケーブル局ではクルーと記者の現場派遣が必要になる生中継は、2012年には2007年比で3割減。代わりにスタジオでつくりおきがきくインタビューものが3割増に。

コスト削減とリソースの再配置は、生き残り戦略としてメディアに限らずどの企業も直面する問題だが、それが「質」に影響すると、関心の高い読者・視聴者ほど敏感に気づき、そして現実に見捨て始めている。

生き残り戦略が、実は死のらせん(デススパイラル)に陥っているということだ。

ピューの年次報告書は、これまでの公開分もすべてネットで閲覧できる。

第1回目は2004年。サマリーを見ると、ウェブ2.0の胎動と、発信者としての読者・視聴者の登場、ジャーナリズムの変化の兆しなど、今につながる動きをうまくまとめている。

この年、友人のダン・ギルモアさんが著書『We the Media』で、まさにその潮流を描き、私の拙訳で『ブログ 世界を変える個人メディア』として翌年、日本でも出版した(現在は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで全文を無料公開している)。

この時すでにギルモアさんは、メディア企業の利益至上主義、つまり取材コストの圧縮で利幅を出すという傾向と、ジャーナリズムに空白が生じる問題に警鐘を鳴らしていた。そしてブログなどの情報発信ツールによって個人が「メディア化」する中で、ジャーナリズムの空白を埋める、市民ジャーナリズムの重要性を訴えていた。

リーマンショックに続くメディア界の激変を経て、それが現実の危機として、データで突きつけられているということだろう。

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『朝日新聞記者のネット情報活用術』

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