「未来のジャーナリズム」ガーディアンの回答

コメントする

06/09/2013 by kaztaira

英ガーディアンが先月23日に公開したマルチメディア特集「ファイヤーストーム」は、ニューヨーク・タイムズのピュリツァー賞受賞作「スノーフォール」へのある種の回答だ。

――著名ブロガー、ニューヨーク大のジェイ・ローゼンさんは、ツイッターでそう指摘している

これぞジャーナリズムの未来、とはいわない。オリジナル、でもない。ただ、ガーディアンのファイヤーストームは、今あるあらゆるツールを駆使したストーリーテリングだ

Exif_JPEG_PICTURE玄人筋に受けがいい。ニューヨーク・タイムズの編集局次長からロイターデジタル編集長に移籍したジム・ロバーツさんも「素晴らしいマルチメディア作品」と評価する。

「ファイヤーストーム」は、今年1月初めにあった「過去50年で最悪」という豪タスマニア州の大規模山林火災の模様を、同州ダンオーリーに住むホルムズ夫妻と5人の孫たちを軸に、テキスト、音声、写真、動画で再構成するマルチメディアドキュメンタリーだ。

山火事から逃れ、桟橋の下に避難する妻と5人の孫を、携帯電話で撮影したティム・ホルムズさんの写真をきっかけに、マルチメディア企画を模索していたガーディアンのプロジェクトは動き出す。

ジョン・ヘンリー記者に加え、ビデオカメラマン1人、デザイナー1人、グラフィックス1人、マルチメディアプロデューサー2人、インタラクティブディベロッパー3人、音響2人など計23人のチームが3カ月がかりで制作したという。

ローゼンさんが言うように、昨年末に公開されたニューヨーク・タイムズの「スノーフォール」の成功は、当然、チームの念頭にある。

6章構成の長行スタイル、インタビュー動画の挿入、ループするタイトル動画、さらにはタイトルそのもの。「ファイヤーストーム」には、「スノーフォール」を研究し尽くした跡が随所に見られる。そして、取り込んでいる手法はそれだけではない。

例えば米音楽サイト「ピッチフォーク」が昨年10月に公開したアーティスト、バット・フォー・ラッシェズ(ナターシャ・カーン)のインタビュー記事だ。

Glitter in the Dark (Pitchfork)

雑誌の記事のように、インタビュー写真の上にテキストを配置するレイアウトだが、画面をスクロールしていくと、ナターシャ・カーンの表情やしぐさの連続写真が、パラパラマンガのように動き出す。記事を読み進むと、背景のナターシャ・カーンの写真が切り替わり、再び動き、踊る。

「スノーフォール」では、あくまでテキストを主体として、豊富なインタビュー動画やCGはストーリーの補完として配置されていた。一方、「ファイヤーストーム」では、画像の上にテキストを配置し、スクロールとともに場面が切り替わる「ピッチフォーク」型のデザインを採用している。

背景画像のほとんどは、それ自体が動画だ。しかも、テキストの邪魔にならないように樹々や水面がそよぐ様子をループ映像で繰り返す。

そして音。このプロジェクトのエディターの1人、フランチェスカ・パネッタさんはラジオの経験があるらしく、背景画像の現場の自然音などを効果的に流している。ループ映像とあいまって、環境ビデオの上にテキストが流れていくようなユーザー体験になる。音の重要性は、やはりエディターのジョナサン・リチャーズさんがこのプロジェクトの10の教訓をまとめたブログでも指摘している。

10 things we learned during the making of Firestorm (Guardian)

ポインターのインタビューでパネッタさんとリチャーズさんが口をそろえているのは「イマーシブ(没入)」という言葉だ。読者が現場にいるかのような当事者体験ができる、といった意味合いだ。

How ongoing teamwork fueled The Guardian’s Firestorm interactive (Poynter)

3Dのバーチャルリアリティの技術を使い、ニュースの現場を追体験させるという「イマーシブ(没入型)ジャーナリズム」という分野もあるが、「ファイヤーストーム」は、それを環境ビデオ的なアプローチで実現したということだろう。

さらにパネッタさんは、「サトルティ(繊細さ)」ということも話している。読者のユーザー体験を邪魔しないバランス、といった意味だろう。

ガーディアンといえば、データジャーナリズムの本家のようなメディアだ。ビッグデータ駆動型の大仕掛けなCGやアニメーションを組み込もうと思えば、いくらでもノウハウはある。だが、今回採用しているのは山火事の発生場所の地図と風向を示したシンプルなインフォグラフ3枚だけだ。

前述のリチャーズさんの10の教訓の3番目には「機能の削除を厭わない」とある。ユーザー体験を邪魔しない、という原則から、今回は派手な持ち技は採用しないということだろう。

さらに「スノーフォール」と違う点は、構成のシンプルさだ。テキストが比較的短い。事前のユーザーテストで、読み切るのに30分以上かかる長文を、読者は望んでいない、との判断をしたようだ。映像がストーリーを雄弁に語ったために、逆にテキストの方を削り込むことになり、最終的に使ったのは当初の3分の1以下だったと、筆者のヘンリーさんは、Journalism.co.ukのインタビューで述べている。

How the Guardian built multimedia interactive Firestorm (Journalism.co.uk)

ただ、「ファイヤーストーム」は電子書籍も発売していて、そこには”完全版”のテキストも収録されているという。

ナビゲーションにも細かい設計がある。右カラムに配置したナビゲーションバーの各章をクリックすると、全部で25ある素材ブロックが本文、解説サイド、動画、スチール写真、と種別ごとにアイコン・見出しとともに表示され、読者が迷子にならない工夫も施されている。

ジャーナリズムの表現方法が、さらに先に進んだ感じがする。

————————–
朝日新聞記者のネット情報活用術
※6月10日から、キンドルiブックストア楽天koboなどの電子書籍の配信も始まります。
cover3

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

アーカイブ

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。