「死刑」に向かってジャーナリズムを定義する

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07/14/2013 by kaztaira

みんながメディア、ではジャーナリストはだれ?」でも取り上げたジャーナリストとジャーナリズムの定義は、先週、スノーデン事件とは別の所で注目を集めた。

Exif_JPEG_PICTURE米メリーランド州フォートミード基地。ここで10日、告発サイト「ウィキリークス」に米軍の機密情報を漏洩したとして訴追されているブラッドリー・マニング陸軍上等兵に対する軍事法廷が開かれた。この日行われたのが、「ネット時代のジャーナリズムの定義」をめぐる議論だった。

弁護側証人として出廷したのがハーバード大ロースクール教授でバークマンセンター共同所長のヨハイ・ベンクラーさんだ。分散ネットワークによるオープンソース開発を研究した『コースのペンギン』などで知られ、近著に『協力がつくる社会―ペンギンとリヴァイアサン』がある、ネットワーク論の専門家だ。

この日の焦点は、マニング上等兵がウィキリークスに機密情報を渡した行為が、「利敵行為(aiding the enemy)」に当たるかどうか、だった。敵、すなわちテロリストに機密情報を流出させた、と認定されれば死刑もあり得る、それが「利敵行為」だ。

そこで問題になるのが、機密情報を受け取ったウィキリークスは、ジャーナリズムの組織なのか、だ。

ベンクラーさんは、ウィキリークスをめぐる報道を詳細に分析。ウィキリークスとジャーナリズムの位置付けの変化とネット時代のジャーナリズムのあり方を下記の論文にまとめている。

A FREE IRRESPONSIBLE PRESS: WIKILEAKS AND THE BATTLE OVER THE SOUL OF THE NETWORKED
FOURTH ESTATE(自由で責任なき報道:ウィキリークスとネットワーク第4階級の精神をめぐる論争)

ここで示されたキーワードが「ネットワーク第4階級」。第4階級とは国王、貴族、市民の3階級に対する新聞、つまりジャーナリズムを指す。

軍事法廷で、ベンクラーさんは、こう説明している。

「ネットワーク第4階級とは、21世紀型のネットワーク情報づくりの役割をになう実践とテクノロジーと組織の集合(クラスター)だ」

さらにこうも説明する。

「ネットワーク構造で重要なのは、誰がどのリソースを使い、どの人手を使うことができるかという許諾の仕組みだ。そして今や私たちは、従来の組織とリソースと権限の壁を超えるネットワークを手にした。それによって、物理的なネットワーク上に多層的に広がる、様々な資産の垣根を取り払うことができたのだ」

かつてのIBMやマイクロソフトに代表される一極集中型開発から、リナックス開発でとられたような分散型の協業ネットワークへの移行は、ジャーナリズムでも起き始めているとベンクラーさんは指摘する。

「既存メディアの編集局は縮小を続け、多くの報道機関で、調査報道が訴訟になっても耐えられるしっかりした体勢もとれていない。そんな中で、ウィキリークスが示したのは、ネットワークジャーナリズムが内部告発型の調査報道ジャーナリズムを支えることができるというモデルだ」

かつてなら情報の収集、検証、編集、発信までを一つの報道機関がカバーした。そして、ウィキリークスは内部告発の窓口という特化した役割を担う。では既存メディアは?

「彼らは資料を受け取り、さらなる文脈を加え、分析を行い、それらを総合的にまとめる。ウィキリークスよりもずっと幅広い役割だ。(中略)ジャーナリズムの機能とは、社会的関心に即した情報の収集を行い、社会に向けて情報を発信することだとすると、多くの報道機関はこの二つの機能のために時間を費やしているが、ウィキリークスは、まさに情報を集め、それが本物であるかどうか、報道機関によるさらなる分析に回す価値があるかどうかを選別するだけだ」

このような既存メディアとネットワークジャーナリズムとの協業は、ウィキリークスに限らず、すでに営利・非営利の様々な小規模メディアやブロガーとの間で実現していると指摘する。

ジャーナリズムにおけるウィキリークスの位置付けが問題になるのは、その評価がある時点から大きく変化したため、とベンクラーさんは言う。それは2010年4月だという。

それまでウィキリークスは、たとえば2007年にはケニアのモイ元大統領の汚職情報、2008年にスイスの金融機関ジュリアス・ベアのケイマン諸島での脱税疑惑などの暴露を通じ、新興のネットジャーナリズム組織としての評価が広がっていたという。だが、2010年4月のイラク戦争による民間人殺傷の動画公開、さらにアフガン戦争、イラク戦争の機密文書公開、さらに米外交公電の公開を通じて、バイデン米副大統領がテレビインタビューで「アサンジュはペンタゴン・ペーパーズというよりはハイテクテロリストだ」と語るなど、ジャーナリズムの枠組みから引き離す評価が強まったと指摘する。

ウィキリークスのこの位置付けが、マニング上等兵の情報漏洩はテロリストに情報を流した「利敵行為」との訴追につながったというのが、ベンクラーさんの読み解きだ。

ここでも、「ジャーナリズム」と「アクティビズム」をめぐる議論があった。この二つに違いはあるのか?

「アクティビズムとジャーナリズムは違う、と思う。ただ、ジャーナリズムを行うアクティビストはいるし、ジャーナリズムを実践している限り、それはジャーナリズムだ。アクティビズムを行うジャーナリストもいる。アクティビズムを実践している時、彼らはアクディビストだ。これは組織や個人に固有のアイデンティティーを指すものではない。これはその行為を指す言葉だ」

そして、「ウィキリークスはネットワーク第4階級に含まれますか」との問いかけには「確実に」とベンクラーさんは答えている。

この証人尋問のやりとりは、ウィキリークスなどを支援する報道の自由財団のサイトで公開(午前中分午後分)されている。前回も紹介したが同財団はペンタゴン・ペーパーズのダニエル・エルズバーグさんやスノーデン・ファイルのグレン・グリーンワールドさんらが理事を務めている。

この問題をめぐっては、ベンクラーさんは以前にもこんな記事を書いている。

The Dangerous Logic of the Bradley Manning Case

また、前回紹介したジェフ・ジャービスさんもこの証人尋問を取り上げている。

Who is a journalist? Manning trial poses question of vital public interest

頭の体操では済まない、切実な問いである。

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