「圧力釜の検索で警察が来た!」タイムリーな記事の波紋

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08/04/2013 by kaztaira

ネットで「圧力釜」と「バックパック」と検索したら、自宅に警察がやってきた――先週、米NSAの情報収集と絡めて日本でも瞬間風速的に広まったこのニュースも、一応の決着がついたかと思っていたら、ちょっと種火が残っていたので、おさらいしておく。

medium最初のニュースは、8月1日にアップされたこのブログ投稿だった。「圧力釜、バックパック、そしてキノア、大変!(pressure cookers, backpacks and quinoa, oh my!)」

筆者は米ロングアイランド在住のライター、ミッシェル・カタラーノさんだ。

「事件」が起きたのは前日朝9時。「対テロ合同捜査チーム」の6人の捜査官が、黒のSUV3台でカタラーノさんの自宅に乗り付けたという。カタラーノさん自身は不在で、対応したのは夫。

思い当たるのは、カタラーノさんが「圧力釜」をネットで探し、夫は「バックパック」を探していたこと、そして20歳になるニュース好きの息子は、ネットでボストン爆破事件のニュースを見ていただろうということ。ボストンの事件で使われたのは、バックパックに入った圧力釜爆弾だったとされる。

そんなネットの利用履歴が、「対テロチーム」の目に止まってしまったようだ、とカタラーノさんは言う。

捜査員らは「家の中を見せてもらっていいですか?」と居間などを見て回り、こんな質問をしたという。「爆弾を所持していますか?」「圧力釜を持っていますか?」「圧力釜爆弾のつくりかたを調べたことはありますか?」

だが、テロリストではなさそうだと分かると、自宅のパソコンも調べなかったようだ。捜査員らは週に100件ものこうした訪問を繰り返し、99件は無駄足に終わる、と話していたという。45分ほどいて、捜査員らは引き上げた、と。

カタラーノさんがネット監視を疑ったのも、無理はない。

捜査員の訪問があったその日、英ガーディアンのグレン・グリーンワールドさんが、NSAのデータ検索システム「エックス・キースコア(XKS)」の中身を詳報していた。メールだろうがソーシャルメディアの書き込みだろうが、ブラウザの閲覧履歴だろうが、なんでも自在に検索し、引き出すことができるというシステムだ。

XKeyscore: NSA tool collects ‘nearly everything a user does on the internet’ (Guardian)

カタラーノさんのブログは、まさにそのガーディアンの目にとまり、同紙のサイトに転載される。

My family’s Google searching got us a visit from counterterrorism police (Guardian)

これこそ、「エックス・キースコア」の威力か、と大騒ぎになる。

ところが同日夕、その騒動を受けて地元のサフォーク郡警察は声明を発表する。捜索は、夫の元勤務先からの「元従業員が使っていた職場のパソコンに、〝圧力釜爆弾〟と〝バックパック〟という検索履歴が残っていた」という通報によるものだった、と。そして担当したのは「対テロ合同捜査チーム」ではなく、郡警察の犯罪情報捜査班だったと。

Suffolk County police say pressure cooker home search due to tipoff (Guardian)

確かに検索履歴はブラウザに残る。気にする人はそういうものは削除してから退去するだろうが、カタラーノさんの夫はそのまま残していたようだ。サフォーク郡警察の説明が事実だとすると、ネット監視ではなく職場の従業員管理の問題だった、ということになる。

カタラーノさんの無理からぬ思い違いによる〝誤報〟で大騒ぎに、ということで、転載したガーディアンはばつの悪い思いをしただろうが、一応の決着となる。

だが、その余波で、そもそものブログサイト側の〝誤報〟の扱いに問題はなかったのか、という指摘が、米のウオッチャー界隈でちょっとした議論になった。「プラットホームかメディアか」問題だ。

カタラーノさんが投稿したのは、ブログサイト「メディアム」。ツイッターの共同創業者、エバン・ウイリアムズさんとビズ・ストーンさんが立ち上げた話題のブログサイトだ

最初にツイッターで指摘したのはCNETのライター、デクラン・マッカラグさん。「『メディアム』は当初の臆測の投稿を更新せず、(雇用主が警察に通報したという)重要なディテールを反映させていない」(※注:現在はカタラーノさんによる釈明が追記されている)

「私がメディアムの性格を誤解してなければ、そもそも誰かの個人ブログをアップデートするのは彼らの仕事だろうか」とコンデネットなどを率いたクロシュ・カリムカニーさん。

これに私の友人でもある古参ブロガーでジャーナリストのダン・ギルモアさんが、「メディアムは自分たちがプラットホーム企業なのかメディア企業なのか決める必要がある。もし後者なら、何らかの責任を取るべきだろう」と指摘。

これを受けてメディアムの公式アカウントが「我々はプラットホーム。記事へ変更を加えるかどうかは筆者次第だ」と回答した。

だが、そうとも言いきれないのは、メディアムがブロガーに原稿料を支払っているケースがあるからだ。

オライリーメディアのライター、アレックス・ハワードさんは、「〝プラットホーム〟がコンテンツに金を払っているなら、そのコンテンツが事実であることに対して、責任が発生するんじゃないか」と応じる。

ブログサイト「ギガオム」のシニアライター、マシュー・イングラムさんは、「プラットホームとしてのツイッターは、ツイートが事実であるかどうかに何らかの責任を追っているか?」。

「私の知る限り、ツイッターはツイートに金を払ってない。これで考え変わった?」とハワードさん。

テッククランチのライター、アレックス・ウィルヘルムさんも「コンテンツに金を払えば、関係も変わる」。これにはイングラムさんも「その通りだ」。

これはこれで話題を呼び、「パンドデイリー」が記事にまとめている。

Medium isn’t the message: Be careful how you read what’s published on platforms (Pandodaily)

メディアムには、ワイアード・コムの編集長だったエバン・ハンセンさんがシニアエディターの職を務めており、そもそも編集機能も持っている。〝プラットホーム〟とは言いづらい部分もあるのだ。

ハンセンさんはパンドデイリーに寄せたコメントでこう述べ、試行錯誤の中にあることを説明している。「原稿料ありの記事をオープンなプラットホームに掲載するための、様々なモデルを試す一連の実験を行っているところなんだ」

メディアが多様化すると、こういう〝クレバス〟が時折発生する。自戒を込めて。

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