米の情報監視とEUの100倍返し、そしてシリコンバレーが笑う

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10/28/2013 by kaztaira

「情報監視」をめぐるこの1週間の欧州連合(EU)の動きは目が離せなかった。

シリコンバレーからのロビー活動と米国家安全保障局(NSA)による情報監視へのEUの〝100倍返し〟に始まり、ドイツのメルケル首相の携帯電話の盗聴、35カ国の首脳への盗聴、そして山場のEU首脳会議。そこで最後に笑ったのは、どうもシリコンバレーのネット企業だった、というオチのようだ。

メルケル●EU個人データ保護規則強化の可決

まずは21日月曜日、欧州議会の市民権委員会。ここで、ネット時代に合わせた個人データ保護の強化策、EUデータ保護規則案が可決された。

Civil Liberties MEPs pave the way for stronger data protection in the EU (European Parliament)

忘れられる権利、まとめられる情報」でも取り上げた、「忘れられる権利」などを含む大幅な制度改正案が、欧州委員会による提案から1年9カ月ぶりに、ようやく議会の委員会を通過したのだ。

特にネット上の個人データの取り扱いをこれまで以上に強化するということは、グーグルやフェイスブックといったネット企業から見れば大きな負担となる。当然のように、規制を骨抜きにすべく激しいロビー活動が展開され、委員会採決まで2年9カ月もかかったのも、そのあたりが原因のようだ。

5章91条の当初の提案に対し、3999件もの修正提案があり、これを104カ所の修正条文にとりまとめた、という。

議会の委員会通過を受けて、欧州委員会でこの問題を担当するビビアン・レディング副委員長はこんな声明を出している。

「欧州議会は、行きすぎたロビー活動が非生産的になりうることを証明した。議会は、EUデータ保護改正の核心部分の一つである『忘れられる権利』を、守っただけでなく、さらに強化したのだ」

「忘れられる権利(Right to be forgotten)」とは、ネット上に公開した個人データが、時間の経過によって公開にそぐわなくなった場合などに、データを管理するネット企業に削除を求めることができるという権利だ。EUデータ保護規則案の中に盛り込まれている。

レディング副委員長が言っている「強化」が端的にあらわれているのが、違反者に対する罰金の金額だ。

当初案では、罰金は最高100万ユーロ(1億3500万円)もしくはグローバルな売上高の2%、とされていた。これが、議会の修正案では、最高1億ユーロ(135億円)もしくはグローバルな売上高の5%となったのだ。

100万ユーロが1億ユーロ、つまり100倍になったのだ。これがロビー活動への〝100倍返し〟。

売上高の2%から5%への引き上げは、もっと恐ろしい。グーグルの例で言えば、2012年の年間売上高は501億7500万ドル。当初案2%でも10億ドル(1000億円)だが、5%なら25億ドル(2500億円)だ。

ジェフ・ベゾスさんがワシントン・ポストを買収した金額が2億5000万ドル。つまり、ワシントン・ポスト10社分にあたる罰金が科せられることになる。

「忘れられる権利」を規定した条文の当初案のタイトルは「忘れられ、削除する権利(Right to be forgotten and to erasure)」だったが、修正案では「削除権(Right to erasure)」とシンプルになった。議会のプレスリリースには、「削除権」は「忘れられる権利」を包含する、と説明されている。

修正案にはさらに、こんな条項も盛り込まれたと議会のリリースは述べている。

「第三国が企業(例:サーチエンジン、ソーシャルネットワークないしクラウドプロバイダー)に対してEU域内で処理されている個人情報の開示を要請した場合、当該企業はデータ移転に先立ち、政府のデータ保護当局の承認を求めなければならない。また企業は、開示要請のあった当該個人に、その旨を通知しなければならない」

そして、こう続く。「この条項は2013年6月のメディア報道によって明らかになった大規模監視活動への対応である」

つまり、NSAがネット企業から大量の個人情報を収集していた、とのガーディアンなどによるスクープのことを指しているのだ。それに対する対抗措置だと。

米ネット企業のロビー活動で停滞していた議論を、NSAによる監視活動問題が、結果的に後押しした形になったというわけだ。

当初案と修正案についての概要は、欧州委員会のサイトに説明が掲載されている。

LIBE Committee vote backs new EU data protection rules (European Commission)

●フランス、ドイツ、そして35カ国への監視

同じ21日、ルモンド紙に掲載されたのが、NSAのフランスにおける盗聴だ。ガーディアンを今月いっぱいで退職するグレン・グリーンワルドさんが共同筆者になっている。

France in the NSA’s crosshair : phone networks under surveillance (Le Monde)

2012年12月から2013年1月までの30日間で7000万件のフランス市民の通話データがNSAによって収集されていた、などの事実がこの記事で明らかにされた。

そして、シュピーゲルの取材に端を発したドイツのメルケル首相の携帯電話への盗聴疑惑が明らかになり、首相は23日、オバマ大統領に抗議の電話を入れる。

Berlin Complains: Did US Tap Chancellor Merkel’s Mobile Phone? (Spiegel)

さらに24日、ガーディアンによって明らかにされたのが、NSAの35カ国首脳に対する盗聴問題だ。

NSA monitored calls of 35 world leaders after US official handed over contacts (Guardian)

そんな矢継ぎ早のNSA問題の拡大とEUにおけるプライバシー問題の関心の高まりの中で、24、25の両日、ブリュッセルでEU首脳会議が開かれた。

●2014年から2015年への延期とシリコンバレーの〝勝利〟

5年ごとに行われる欧州議会の議員選挙が2014年5月に予定されている。このため、欧州委員会のバローゾ委員長は、その選挙前までにデータ保護規則を成立させることを目指していた

ビッグデータやクラウドコンピューティングの分野でのEU「データ単一市場」の実現を主要テーマとしたEU首脳会議。この場で、データ保護規則の取り扱いも協議されたが、当初の合意案では「2014年春までに」となっていたのに、最終的には「2015年までに」と延期されることになった。

Data protection rules delayed at EU summit talks (EurActive)

フィナンシャル・タイムズによると、これにはそもそも期限を書き込むことへの、イギリスのキャメロン首相の強硬な反対があったようだ。グーグルのエリック・シュミット会長は、キャメロン首相のビジネス諮問委員会のメンバーを務めているようだが、首相の側近は「それとは関係ない」と話したという。

同じ記事で米国の大手IT企業の幹部の面白い発言を紹介している。

「我々が勝利したようだ」「メルケル首相や35カ国の首脳への盗聴の記事を見たときには、私たちの負けだなと思ったが・・・イギリスの常識が勝った」

今は、NSAの問題でプライバシー保護への追い風があるが、この延期によってほとぼりをさまし、再びロビー活動で骨抜きにできる、との見立てのようだ。

Victory for tech giants on EU data laws (Financial Times)

Merkel and Hollande to change intelligence ties with US (Financial Times)

いずれにしても、日本が蚊帳の外であることに、変わりはない。

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