メディアの正しい課金の仕方

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12/01/2013 by kaztaira

この数週間、メディアのネット課金(ペイウォール)の話題が、改めてネットウォッチャーの間で注目を集めている――メディアの正しい課金の仕方は、どうあるべきか、と。

ネット課金懐疑派の筆頭格デジタル・ファースト・メディアが、11月になってついに参入を表明。その一方で課金の先頭を走りながら、伸び悩みも指摘されるニューヨーク・タイムズは、新サービス開発で収入上積みを目指す。

メーター制の課金モデルに加え、プレミアム・コンテンツ課金、メンバー制、そして〝逆メーター制〟まで、正しい打ち手はどれか? 「次の一手」をめぐる議論が広がっている。

●懐疑派の課金表明

注目の一つのきっかけは、これまでネット課金に懐疑的だった、全米2位の新聞チェーンを抱えるデジタル・ファースト・メディアが、傘下の日刊紙75紙すべてでネット課金に踏み切ると表明したことだ。

digital_first

デジタル・ファーストの参入で、実に全米の日刊紙の41%がネット課金をすることになる、とアナリストのケン・ドクターさんは試算している。

As Digital First Media Announces Its Paywalls, 41% of US Dailies Will Soon Have Them (Newsonomics/ Ken Doctor)

デジタル・ファーストを率いるCEOのジョン・ペイトンさんは、社名が示す通りに、新聞のデジタル移行を推進する「デジタル・ファースト」の提唱者で、課金懐疑派の代表格の一人だ。

制作費ゼロの新聞、2日で作る雑誌」「ジャーナリズムの『新世界』」などでもその革新的な取り組みを紹介してきた。

そのペイトンさんが、「タンクにつめるガソリンを買うには、紙とデジタルを合わせた購読の取り組みが必要だ」と述べたのだ。

ただ、ペイトンさんはこれがあくまで過渡的な施策だと強調する。

「有料のデジタル購読は、長期的な戦略ではない。(紙からデジタルへと)何らかの転換を行うようなものではなく、微調整にすぎない。せいぜいが、短期的な戦術だ」

デジタルへの根本的な転換が伴わなければ、ネット課金は紙のモデルを引きづった弥縫策だ。ただ、今はそんな金でも必要だ――言っているわけだ。

The Subscription Project – An Update (Digital First/ John Paton)

●ニューヨーク・タイムズのペイウォール2.0

ニューヨーク・タイムズが来年第2四半期の公開を目指して準備を進めている三つの新たなサービスを、ドクターさんは「ペイウォール2.0」と名づけて紹介している。

The newsonomics of The New York Times’ Paywalls 2.0 (Nieman Journalism Lab/ Ken Doctor)

ニューヨーク・タイムズは今年7~9月期決算で、デジタル版の有料購読者が72万7000人となり、初めてネットの購読料収入(3770万ドル、前年同期比29%増)がネット広告収入(3280万ドル、前年比3.4%減)を上回った。

nytimes

ただ、伸び率は鈍化しており、有料購読者数の伸びは4~6月期比(69万9000人)で4%どまり。タイムズのトラウマともなった2007年終了の前回の課金サービス「タイムズセレクト」の78万7400人にも届いていない。(「NYタイムズ『課金』の背景」)

タイムズは、新たな収入源を模索している。

The NYT paywall don’t get no respect (Clumbia Journalism Review)

そこで取り組むのが「ペイウォール2.0」。ニッチ、若者、オピニオン、の三つの基軸が紹介されている。

・フード&ダイニング:ニュースサイトの定番コーナーをよりリッチに展開するイメージのようだ。ただ、当然ながらこの分野は、様々なプレーヤーがしのぎを削るレッドオーシャンで、課金のハードルを越えるのは、そう簡単ではなさそうだ。

・ニード・トゥ・ノウ:スマートフォン利用者を想定した低価格の、ニュースのアグリゲーションを取り込んだ新サービス。若者向けの設計だ。

・オピニオン:「タイムズセレクト」でも課金メニューの目玉にしたオピニオン。タイムズの売りの一つであることは間違いないが、具体的にどのようなサービスに落とし込むのかは不明。

さらに新施策として出てきたのが「プレミアム」サービスだ。

「プレミアム」は、すでにフィナンシャル・タイムズがメニューとして実装している。「スタンダード」が週あたり6.25ドルなのに対し、「プレミアム」は8.59ドル。

この追加課金で、過去5年分の記事データベースが使えたり、同紙を代表する人気コラム「LEX」が読めたり、といった特典がついてくる。

タイムズのケースでも、イベント招待や「スノーフォール」のようなリッチな電子書籍の提供などが想定されるようだ。

●エンゲージメントと音楽業界モデル

タイムズは「プレミアム」という言葉は使うが、「会員制(メンバーシップ)」という表現は避けているようだ。

人気ブログ「ギガオム」のマシュー・イングラムさんは、「それは間違っていだ」と指摘する。

ユーザーはますますソーシャルメディア経由、つまり人のつながりの中でニュースに接触するようになってきているのに、タイムズは「プロダクト」の発想だからだ、と――「プロダクトではなく、人だ」。

だが、タイムズの姿勢はそれとは逆に、読者との距離感をとろうとする「よそよそしさ」を感じさせる、と。

イングラムさんは、個々のライターと読者とのつながりを基盤に、ペイウォールを設定すべきだ、と言う。そのモデルは音楽業界にある、と。

CD売り上げの落ち込みの中で、音楽という「プロダクト」から、ミュージシャンとファンの関係(エンゲージメント)へと基盤をシフトさせ、ライブや関連商品、豪華ボックスセットなどで収益をあげていくモデルだ。

新聞などのメディア業界も、このモデルを活用できるはずだ、とイングラムさんは言う。

Why the New York Times needs to think less about products and more about relationships (GigaOm/ Mathew Ingram)

イングラムさんは、同様の主張をこれまでも繰り返し述べていて、今年2月にも、その具体的な提案をブログで示している。

Five ways media companies can build paywalls around people instead of content (paidContent/ Mathew Ingram)

その中で、人気ブロガー、ジェフ・ジャービスさんと、ニューズ・コポレーションの上席副社長、ラジュ・ナリセッティさんが提唱する「逆メーター制」を紹介している。

Why not a reverse meter? (BuzzMachine/ Jeff Jarvis)

一定数の記事を無料で閲読したら、あとは有料、となるのがメーター制。

一方、読者とメディアとの関係の中で、クラウドソーシングに協力してくれるとか、記者の質問に答えてくれるとか、記事の間違いを指摘してくれるとか、といった読者からのアプローチや貢献があるごとに、ポイントを加算し、その分、購読料を差し引いていく、という仕組みだ。

メディアの価値の源泉である、読者との関係を強めることができて、読者の側もメディアに積極的にかかわるインセンティブになる、というのがジャービスさんの趣旨だ。

ユーザーとのエンゲージメントを基盤にした新たな収益、というモデルは、確かに苦境の中で音楽業界がつかみ取った活路だ。

そして、ブログメディアでの最近の成功例もある。今年初めにニュースサイト「デイリー・ビースト」から独立した人気ブロガー、アンドリュー・サリバンさんだ。

dish

長年のブロガーであるサリバンさんには、熱心なファンのコミュニティーがある。このため、課金制(月額1ドル99セント、年額19ドル99セント)のブログ「ザ・ディッシュ」は、すでに今年の売り上げが80万ドルを超えたという。

$800K! (THE DISH/ Andrew Sullivan)

このモデル、見習うべきポイントは多々あるだろう。

●フリーミアム回帰?

一方で、この数年のうちにペイウォール型課金からの撤退の動きが顕在化するだろう、と見るのはメディアコンサルタントのスティーブ・アウティングさんだ。

Paywalls in my back yard: A forecast for newspaper business models (Media Disruptus/ Steve Outing)

例えばサンフランシスコ・クロニクルは3月、無料サイト「SFゲート」のコンテンツを限定し、プレミアム課金サイト「SFクロニクル」をへの移行を目指した。だが、わずか5カ月足らずで、SFゲートのコンテンツ限定を終了した。

SFクロニクルもなお存続はしているが、事実上のペイウォール型課金からの撤退だ。

SF Chronicle Releases Statement Confirming That All Chron Content Is No Longer Behind A Paywall (The San Francisco Appeal)

ダラス・モーニング・ニュースも同様に、プレミアム課金サイトは残しながら、ペイウォールからは撤退した。

Dallas Morning News to drop paywall Oct. 1 (Poynter)

ペイウォール型の課金は、当然ながら広告費の減少を伴う。広告の目減りと課金の積み増しとの神経戦でもある。ニューヨーク・タイムズにして、ようやく課金3年目で四半期(7~9月決算)の課金収入が広告収入を上回ったばかりだ。

体力的に耐えられない地方紙も少なくないだろう。

ソーシャルメディア経由のアクセスは無料にするといった「多孔型(ポーラス)」を組み合わせることで、アクセスや広告の目減りを抑える、といった対策も、長期的な支えとなるモデルではないだろう、とアウティングさんは言う。

ペイウォールを外し、無料サイトとプレミアム課金の組み合わせとは、すなわち「フリーミアム」モデルだ。

アウティングさんは、サンフランシスコ・クロニクルやダラス・モーニング・ニュースのようなプリーミアム回帰の動きを、一つのトレンドとして指摘している。

●リニューアルとネイティブ広告

ニューヨーク・タイムズの施策はこれだけではない。

年明けには、かねて準備してきたサイトデザインのリニューアルも控えている。また、数カ月内には、構築中のネイティブ広告のプラットホームもお目見えする、という。

New York Times offers a glimpse at the homepage of the future (Nieman Journalism Lab)

New York Times’ Native Ads Take Shape, Include a ‘Full Content Studio’ (Ad Age)

様々な「次の一手」がどう実を結ぶのかが、2014年の大きなポイントだ。

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Twitter:@kaztaira

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