デモとしてのDDoS攻撃、表現の自由、そしてIT富豪のメディア

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12/08/2013 by kaztaira

2億5000万ドルのニュースベンチャー立ち上げで、メディア界の台風の目として急浮上したイーベイ会長、ピエール・オミディアさんが、批判の声にさらされている。

ウィキリークスとアノニマス、それにスノーデン事件とニュースベンチャーを立ち上げるイーベイ会長の話が絡み合って、ちょっとややこしい感じのニュースになっている。

イーベイ会長のピエール・オミディアさんは〝メディア〟として信頼できるのか、とウィキリークスのジャーナリストが批判しているというのだ。

●スノーデン氏の付添人

しかもこのジャーナリスト、サラ・ハリソンさんは、米安全保障局(NSA)の極秘ファイル事件を暴露したエドワード・スノーデンさんが、香港からモスクワに身柄を移す際の付添人だった人物だ。

スノーデン事件をスクープした前ガーディアン紙コラムニストのグレン・グリーンワルドさんと、ドキュメンタリー作家のローラ・ポイトラスさんは、オミディアさんのニュースベンチャーの中核メンバー。

スノーデンさんをはさんで、同じような立ち位置の人物だけに、話がややこしい。

ひっかかっているのは、シリコンバレーの中心、サンノゼの連邦地裁で行われている国際グループ「アノニマス」のメンバーたちに対する裁判だ。

オミディアさんのイーベイ傘下のペイパルに、分散型サービス妨害(DDoS)攻撃をかけた罪に問われているのだ。

●ペイパル14と「オペレーション・ペイバック」

メンバーたちが問われているのは、2010年に起きた一連のDDoS攻撃「オペレーション・ペイバック」の一つとして、ペイパルのコンピューターにダメージを与えたという、コンピューター詐欺及び濫用法(CFAA)違反の罪だ。

当時、ウィキリークスは25万件に及ぶ米外交公電を暴露。これを受け、ビザ、マスター、ペイパルなどが、ウィキリークスへの送金の扱いを停止したことに対する、報復として行われた攻撃とされる。

これに関わったとして起訴された14人は「ペイパル14」と呼ばれているようだ。

5日にサンノゼで開かれた公判の罪状認否では、うち11人がペイパル攻撃への関与を全面的に認め、2人は一部否認しているという。判決は来年。残る1人は別件と合わせ、バージニアの連邦地裁で公判中という。

PayPal DDoS attackers plead guilty, some may walk free (IDG News Service)

●送金停止への批判

「ウィキリークスへの送金ボイコットに加担した人物の言うことを、どうしたらまともに受け取れると言うの」

ウィキリークスのハリソンさんの批判の矛先は、まさにこの点だ。

wikileaks

「あの時点で自分にできることは何もなかったとか言い訳をするんでしょう」「でも彼は取締役会の一員。その責任を簡単にごまかすことはできない」

ロンドンを拠点とするNPO「調査報道ジャーナリスト協会(The Bureau of Investigative Journalism)」からウィキリークスに参加したハリソンさんは、アフガン戦争の機密文書や米外交公電の暴露に携わったという。

「新しいメディアの組織を立ち上げて、報道の自由のために全力を尽くすという、その一方で他のメディアに対する封鎖に加担しているのでは、まともに取り合うのは難しいでしょう。その公約を果たしてほしいとは思うけれど」

WikiLeaks’ Sarah Harrison: ‘How can you take Pierre Omidyar seriously?’ (Guardian)

●イーベイ会長の立場、メディアの立ち位置

問われているのは、オミディアさんのイーベイ会長としての立場と、メディアとしての立ち位置だ。

傘下のペイパルがウィキリークスへの送金停止を行った件は、イーベイ会長としては直接の当事者となる。一方でオミディアさんは当時、ホノルルのニュースサイト「シビルビート」のCEO兼発行人でもあった。メディアとしては、報道の自由についての立ち位置を問われる。

omidyar

オミディアさんは、この公判に先立って、ハフィントン・ポストに「ウィキリークス、デジタル時代の報道の自由と表現の自由」と題した投稿を掲載した。

WikiLeaks, Press Freedom and Free Expression in the Digital Age (Huffington Post/ Pierre Omidyar)

「2010年の彼らの事件は、ペイパルの対応とともに、報道の自由とオンラインの抗議行動のあり方に重大な疑問を提起した」とオミディアさんは書く。そして、「ペイパルの親会社であるイーベイの会長として、慈善活動家として、さらに政府の透明性、報道の自由、表現の自由に深く関わる発行人となる身として、この件は私にとっての難しい問題でもある」と率直に述べてもいる。

当時、ペイパルによる送金停止措置について、オミディアさんは経営陣に対し、自身の懸念を伝えた、という。さらにシビルビートの社説でも、政府の圧力によりペイパルなどが送金停止をおこなったことは、報道の自由に対する重大な懸念を呼び起こした、と指摘したのだと。

●デモとしてのDDoS攻撃

だが、ペイパルへのDDoS攻撃については、疑問も投げかける。「DDoS攻撃は抗議行動として適切なのか」と。

オミディアさんは、DDoS攻撃はペイパルに損害を与えただけでなく、サービス障害によって、ペイパルのユーザーにも被害が及んだ、と指摘する。

オンラインのデモによって抗議の意志を示すという、表現の自由の権利は認める……だが、DDoS用攻撃ツールを使えば、1000人が1秒間にそれぞれ100のアクセスを発生させ、1分間で600万ものアクセスを標的に送りつけることができる。1000人が600万人分のデモを行うのは、過剰ではないか――それがオミディアさんの主張だ。

一方で、1000人が攻撃に参加したとして、1000人分の責任を14人に負わせるのは適切ではない、と被告側を擁護する。さらに攻撃による損害額の算定についても、直接の損害に加えて、将来の攻撃に備えるための設備増強分の費用まで盛り込むのは行きすぎだ、とも。

そして、本人たちはあくまでオンラインのデモに参加したという意識であり、DDoS攻撃ツールの威力がどれほどのものか、というリアリティーを理解できていなかった点は、酌量してほしい、とオミディアさんは述べている。

実際に、アノニマス側の弁護人を務めるジェイ・レイダーマンさんは、DDoS攻撃は表現の自由だ、との主張をしており、そのことへの配慮も見せたということだろう。

Justice for the PayPal WikiLeaks protesters: why DDoS is free speech (Guardian)

●メディアとしての顔

ネットでは、オミディアさんが自己正当化をしているだけだ、との批判もあるようだ。

EBay chairman weighs in on ‘PayPal 14’ trial (Al Jazeera America)

アマゾンのジェフ・ベゾスさんがワシントン・ポストを買ったケースでも、同じ問題をはらんでいる。巨大IT企業のトップの顔と、メディアの顔が衝突する場面は、少なからずあるだろう。

そして、メディアとしての責任が問われるのは、IT富豪だけでなく、だれもが、だ。

すばらしい新世界、である。

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Twitter:@kaztaira

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