情報監視はインターネットをどのように壊しているか(追記あり)

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01/12/2014 by kaztaira

米国家安全保障局(NSA)によるグローバルな情報監視の実態は、インターネットのセキュリティやプライバシーに対するこれまでの考え方が、すいぶんと呑気なものだったことを、よくわからせてくれた。

steven_levy

グーグルへの中国からのサイバー攻撃や、アラブの春の動きを受け、当時のクリントン国務長官が「インターネットの自由」を訴えたのは、2011年1月のことだった。

「米国民、さらにインターネットを監視する国々は、米国政府がインターネットの自由の促進に取り組んでいることを理解すべきだ」

clinton

あれから3年たって、世界はかなり違う風景になった。

呑気だったのはしょうがないとして、では現実を直視すると、何が見えてくるのか。

この世界を長く見てきたウオッチャーたちは、情報監視がインターネットを破壊していく、と相次いで指摘している。

●インターネットを殺す方法

ハッカーズ』などの著書で知られるワイアードのシニアライター、スティーブン・レビーさんは7日付で、「NSAはいかにしてインターネットを瀕死に追いやったか」という長文の検証記事を掲載している。

How the NSA Almost Killed the Internet (Wired/ Steven Levy)

レビーさんの記事で目を引くのは、これまであまり表に出てこなかった、グーグルやフェイスブックなど「当事者」としてのシリコンバレー企業の視点からみた、この事件の推移を描いている点だ。

ガーディアンやワシントン・ポストによる一連の「スノーデン事件」報道の、口火を切る形で暴露されたNSAの情報監視プログラムの一つ「プリズム」では、これらの企業は「プロバイダー」、つまり情報提供元として位置づけられていた。

NSAのパワーポイントでは、ご丁寧に各企業が情報提供元になった時系列を示したグラフもあった。

prism

これらの企業は、ユーザーのプライバシー保護に関して、様々な軋轢を起こしてきた経緯もある。今回の件をユーザーから見れば、明らかなNSAの情報監視への加担、つまり〝裏切り〟だ。

だが、レビーさんによれば、グーグルやフェイスブックにとって、これは「米政府との戦い」だったのだという。

●公表できない「情報提供」

ワシントン・ポスト、そしてガーディアンによるプリズム報道の当初、協力したとされるシリコンバレー企業は、それが何のことか、正確には理解できていなかったようだ。

プリズムという名前がNSA内部の呼び方で、シリコンバレー企業側は聞いたことがなかったのだという。

また状況が判明してからも、これが対外情報監視法(FISA)に基づく極秘の情報収集であり、情報を提供したことについても公表できないという法のしばりがあるため、シリコンバレー企業側は釈明らしい釈明ができなかった、という事情もある。

〝裏切り〟との非難に応えぬまま、ユーザーの信頼を失うことは、ネットビジネスの土台を失うことにつながる。

ダメージは、それだけではない、とレビーさんは指摘する。

「問題は収益のことだけではなかった。インターネットは国防総省のプロジェクトから、相互接続されたグローバルなウェブへと急拡大し、国際協調の新時代を促進していった。このテクノロジーの世界を支えてきた、理想そのものが危機にさらされていた。スノーデン事件は、表現の自由とエンパワーメントの象徴としてのインターネットの役割に、疑問を投げかけたのだ」

●政府にハッキングされる

一連のスノーデン事件の報道の中で、FISAに基づく情報提供だけではなく、シリコンバレー企業の知らないところで、一方的に情報が抜き取られていたケースも発覚する。

まずは、電子メールなどのアドレス帳データの大規模収集だ。ヤフーやホットメール、フェイスブック、Gメールなど、合わせて1日あたり70万件近いデータを取り込んでいたという。

「マスキュラー」というプログラムでは、グーグルとヤフーの、データセンター間を結ぶクローズドな光ファイバー網が、NSAと英政府通信本部(GCHQ)によって盗聴されていた。

つまり米政府が、シリコンバレー企業にハッキングをかけていたのだ。

海外の政府レベルも含めた様々なサイバー攻撃にさらされるシリコンバレー企業だが、最強の〝ボスキャラ〟は中国などではなく、米政府、NSAだっということになる。

●分断されるネット

そして、スノーデン事件の影響は、「スプリンターネット(分断されるネット)」、あるいは「インターネットのバルカン化」の問題も引き起こしている、とレビーさんは言う。

国境を越えたデータの流通を制限する、ということだ。

これはスノーデン事件が表面化する以前からある動きで、よく知られているのが中国の「グレート・ファイヤーウォール(ネットの万里の長城)」だ。

この他にも、EUでは一定水準以上のプライバシー保護措置を講じていない国に対して、域内のパーソナルデータ移転を禁じている。ちなみに現状では、日本は「保護措置を講じていない国」と見なされており、EUからのデータ移転が禁じられている。

スノーデン事件を契機として、このデータの越境問題がクローズアップされ、NSAの監視対象とされたブラジルのルセフ大統領が、自国民のパーソナルデータについて国内での保管を義務づける法整備を検討するなど、具体的な動きも現れてきている。

「米国はこの問題の解決を後押しすべきだ」。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグさんはそう話しているという。

●シリコンバレーとNSAの相似形

「ある意味、テクノロジー企業は、自分たちが考えている以上に、NSAに似ている。いずれもコンピューター、通信、ストレージの進化をうまく捉えて、それぞれのミッションを押し進めてきた(それを考えれば、「世界中の情報を整理する」というグーグルの社是は、NSAの活動にも当てはまるかもしれない)」

ワイアードの記事の中で、レビーさんはそう指摘する。ユーザーの膨大なデータをビジネスに利用するか、国家安全保障に利用するか、という違いはあるが。

そして、スノーデン事件で改めてはっきりしたことは、グローバルなインターネット空間を席巻すると見られてきたシリコンバレー企業よりも、米政府の方がはるかに強力だ、というあからさまな事実だ。

「多くの人々は、自分たちの買った物、いる場所、何を話し、検索したかを、リトルブラザー(企業)が知っていることを心配するのにも、慣れてきた。そして今、ビッグブラザーもそれらのデータにアクセスできることが明らかになった」

ユーラシア・グループのイアン・ブレマーさんは2010年末、雑誌「フォーリン・アフェアーズ」の中で、すでにこう言い切っている。

「要するに、近代的なコミュニケーションツールは、それに先立つ技術革新同様に、さまざまな野心や欲望を満たす手段でしかなく、そうした欲望の多くは、民主主義とは何の関係もない」

インターネットは自由も統制も促進する ―― 政治的諸刃の剣としてのインターネット(2010年12月10日発売号)

あれから3年あまりがたち、ブレマーさんは、レビーさんと同様の認識をよりドライな言葉遣いで示している。

時代の風:当局の情報管理、新局面=米ユーラシア・グループ社長、イアン・ブレマー(毎日新聞、要登録)

「インターネットの運営が、ボトムアップの開放型からトップダウンの『戦略型』に急速、そして劇的に移行しているのだ。14年の大きな変化は、データ革命における最も強力な当事者として、政府が企業を急速に抜き去りつつあることだ」

●セキュリティそのものを脅かす

インターネットセキュリティの専門家であるブルース・シュナイアーさんは、スノーデン事件の問題点を、「攻撃への脆弱性を放置する危険」という観点から指摘している。

How the NSA Threatens National Security (Atlantic/ Bruce Schneier)

schneier

NSAは極秘の情報収集のために、暗号を含むインターネットのセキュリティに「穴」をあけている。

だが、その「穴」は海外の攻撃者も突いてくる可能性がある。一方で、NSAの情報収集によって、米国がより安全になったという十分な証明はない、と。

そして、こう述べている。

「NSAレベルの監視は、第二次世界大戦前の(難攻不落といわれながらドイツ軍のフランス侵攻では役にたたなかった)マジノ線のようなもの:効果がなく、ムダだ。現在行われている監視活動がどんなもので、それによるセキュリティ上の問題は何かを、オープンに開示する必要がある。我々はセキュリティに向けて邁進していくべきだ。たとえ中国などの他国が、インタネットを巨大な監視のプラットフォームとして利用しつづけるとしても」

いずれにしても、日本からは手も足も出ない状態は、なお続いていく。

【追記】下記シンポジウムに登壇します(事前申し込み必要なし、入場無料)。

JOURNALISM SYMPOSIUM 2014
「ジャーナリズムに何ができるか:特定秘密保護法×データ・ジャーナリズム」
http://www.npo-iasia.org/journalism-symposium-2014.html

第一部 特定秘密保護法下の調査報道はどうなる?
第二部 データ・ジャーナリズムとは何か、可能性は?

【パネリスト】
青木理(フリージャーナリスト、元共同通信記者)
平和博(朝日新聞記者 デジタルウオッチャー)
花田達朗(早稲田大学ジャーナリズム教育研究所所長)
益田美樹(フリージャーナリスト、元読売新聞記者) 他
*司会
石丸次郎(アイ・アジア/アジアプレス共同代表)

機密指定の範囲の曖昧さや独立した検証機関の欠如を理由に、政府による情報統制の過度な強化につながると問題視されてきた特定秘密保護法が2013年12月、成立しました。これによって、本来明らかにされるべき事実まで隠蔽されかねないとの懸念が出ています。こうした中で、ジャーナリズムはどう戦うべきなのかを考えます。その方法の一つとして注目したいのが、欧米で広く活用されているデータを駆使したデータ・ジャーナリズム。気鋭のジャーナリストと研究者がその可能性について徹底討論します。

日時: 1月18日(土) 午後1時半~午後4時
場所: 早稲田大学14号館403号室
主催: 早稲田大学ジャーナリズム教育研究所、調査報道NPO「アイ・アジア」
対象: ジャーナリズムに関心のある全ての人(定員120人)

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Twitter:@kaztaira

『朝日新聞記者のネット情報活用術』

電子書籍版がキンドルiブックストア楽天koboなどで配信中

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