データジャーナリズムは調査報道にどんな可能性を示せるのか

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01/19/2014 by kaztaira

週末、ちょっとこわもてなタイトルのイベントに、おそるおそる登壇してきた。

ジャーナリズムシンポジウム2014|ジャーナリズムに何ができるか:特定秘密保護法×データ・ジャーナリズム」(主催:早稲田大学ジャーナリズム教育研究所、調査報道NPO「アイ・アジア」)

登壇したのは他に元共同通信記者でフリージャーナリストの青木理さん、早稲田大学ジャーナリズム教育研究所所長の花田達朗さん、元読売新聞記者でフリージャーナリストの益田美樹さん、NHKの立岩陽一郎さん、そして司会はアイ・アジア/アジアプレス共同代表の石丸次郎さん。

データジャーナリズムは調査報道にどんな可能性を示せるのか、といった話を軸に、私からは簡単なツールの使い方や、いくつかの実践例を紹介させてもらった。

会場にはメディア関係者も多かったが、学生服姿の高校3年生(受験生!)まで興味をもってくれてたのは、ちょっと驚きだった。

IWJにネット中継のアーカイブも公開されている(1カ月ぐらい公開されるらしい)。

アイアジア

●セキュリティとプライバシーの蒸発

まず、私からはスノーデン事件をめぐるグローバルな状況と、特定秘密保護法の制定という日本のベクトルについて、簡単に説明させてもらった。

NSAがインターネットを丸ごと盗聴している――スノーデン事件で明らかになった事実によって、セキュリティやプライバシーへの幻想は、完全に蒸発してしまった。これは「情報監視はインターネットをどのように壊しているか」で紹介した通りだ。

米の情報監視とEUの100倍返し、そしてシリコンバレーが笑う」でも取り上げたように、今や議論のベクトルは自国民のプライバシー保護、セキュリティ保護。さらに、米国の情報監視に対する透明性の要求だ。

この議論の右斜め下をいく秘密保護法の制定とは、一体なんだったのか。素人っぽい疑問を述べた。「これは〝誰得〟の法律かよくわからない」と。

青木さんのお答えが明解だった。「警察です」。なるほど。

●調査報道のコンテンツ力

このシンポジウムの議論の中心にあったのは、マスメディアが急速に縮小していく中で、調査報道をどう担っていけるのか、という問題意識だ。

特に既存メディアからネットメディアへ、というシフトの中で、調査報道のコストはどうまかなえばいいのか。
一つの動きとして紹介したのは、ネットメディアが調査報道に投資をし始めているという米国の動きだ。

例えば、ペット写真コンテンツのソーシャルメディアへの拡散などで知られ、月間ユニークユーザー1.3億人のバイラルメディア「バズフィード」は、昨年10月、調査報道NPO「プロパブリカ」からピュリツァー受賞者を招き、調査報道チームを立ち上げると発表した。

月間ユニークユーザー1億人、月間ページビュー5億のハフィントンポストも、2012年に調査報道でピュリツァー賞を受賞している。

この動きは、ネットのトラフィックを集め続けるビジネスが、調査報道にコンテンツ競争力がある、と判断したことを示している。

調査報道は、既存メディアの凋落の中で、コスト削減のやり玉に挙がって久しい。それが、ぐるりと一周し、ネットメディアの最前線で再び注目を集めているのだ。

ワシントン・ポストを買う金でニュースベンチャーをつくる」でも紹介した、イーベイ創業者、ピエール・オミディアさんが2億5000万ドルを投じ、スノーデン事件をスクープしたジャーナリズト、クレン・クリーンワルド氏らとともに立ち上げるメディアベンチャー「ファーストルックメディア」。このケースは、テクノロジーベンチャーと調査報道NPOを組み合わせた複合体だ。

ビジネスモデルとしては他に課金モデルもあり、人気ブログ「ザ・ディッシュ」のアンドリュー・サリバンさんは、年19・99ドルの購読料で読者は3万4000人程度。収入は約85万ドルに達しているという

持続可能なビジネスモデルとともにメディアの立ち上げに取り組む「起業家ジャーナリズム」は、すでに大学のコースにも組み込まれている。

友人でもあるジャーナリストのダン・ギルモアさんは、アリゾナ州立大デジタルメディア起業家センター所長として、その実践をしている。

それに加えて、ギルモアさんは、同大スクリップス・ハワード起業家ジャーナリズム研究所所長として、「起業家ジャーナリズム」を教える大学教員向けの養成講座も行っている。

●ビジュアル化の事例

データジャーナリズムの歴史や実例については、益田さんがプレゼンテーションで概観してくれた。

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私からは、「データサイエンティストとデータジャーナリスト」でも取り上げた、昨夏受講したテキサス大学オースティン校のナイトジャーナリズムセンターの大規模公開オンライン講座(MOOC)「データドリブン・ジャーナリズム:基礎(Data-Driven Journalism: The Basics)」の国別参加者のデータを元に、グーグル・フュージョンテーブルの使い方を簡単に紹介した。

このMOOCには143カ国3668人が参加し、データジャーナリズムへのグローバルな関心の高さを示していた。それを、フュージョンテーブルでグーグルマップ上に表示することで、関心の広がりを視覚的に表現し、ユーザーに一目で理解してもらうことができる。

フュージョンテーブル

この他に、昨年3月に朝日新聞グローブの特集「メディアで動かす」の担当記者のツイッターやユーチューブによる取材経過報告を、フュージョンテーブルでグーグルマップ上にまとめた「取材マップ」も紹介。

MITメディアラボ所長、伊藤穰一さんが立ち上げた放射線データの測定・共有プロジェクト「セーフキャスト」が公開している線量データの、フュージョンテーブルによるマップ化なども説明した。

フュージョンテーブル2

ビジュアル化ツールとしては、先週水曜日に東京大学の福武ホールで講演したカロリンスカ大学教授、ハンス・ロスリングさんのビジュアル化ツール「ギャップマインダー」も動かしてみた。

●調査報道としてのデータジャーナリズム

データジャーナリズムの実践例としては、「データジャーナリズム賞を受賞した7作品」でも取り上げたアルゼンチンの大手メディア「ラ・ナシオン」による議会の不正経費追及キャンペーンを紹介した。

3万を超す膨大な上院の経費報告書の地道な分析だ。PDFを一つひとつ生データに変換し、解析を加えていった結果、副大統領でもあったボウドウ上院議長の350万ドルにも及ぶ巨額の出張経費をあぶり出すなど、特ダネをものにしている。

伝統的な調査報道の手法とデータジャーナリズムも組み合わせた好例だ。

トムソン・ロイターが中国指導部の人脈の複雑なつながりをインタラクティブに見せた「コネクテッド・チャイナ」も、マルチメディアなつくり込みとして見事だ。

シンポジウムでは紹介しきれなかったが、最近の例ではガーディアンによるスノーデン事件の特集ページが、「スノーフォール」タイプのつくり込みとして、秀逸だった。

●データと権力監視

議論の中で、花田さんからは、データジャーナリズムやオープンデータが、ジャーナリズムが担ってきた権力監視の機能を迂回してしまうことにつながらないか、との問題提起があった。

また、青木さんからは、権力が隠そうとする情報を取るのは、従来の取材手法で取り組む以外にないだろうが、データジャナリズムはそれと対立するものではなく、むしろ補完するツールとして使えるのではないか、との言及もあった。

花田さんの懸念は、まったくその通りだ。「オープンデータと監視社会が同じ顔してやってくる」でも取り上げたように、オープンデータ先進国は、同時に情報監視大国でもある。何をオープンにしているかに加えて、何を隠しているのかを検証し続けることが重要になる。

青木さんの指摘も、まさに重要なポイントだ。

無人機(ドローン)と人工知能(AI)が進化したようなアンドロイドや、ネットワークを縦横無尽に駆け巡るサイバーパンクの未来なら、そんなことも起きるのかもしれない。ただし、不正アクセス禁止法などいくつかの法令違反になるが。

現実問題としては、データをめぐる環境の変化が、青木さん指摘を際立たせてくれる。

1971年、ダニエル・エルズバーグ博士がニューヨーク・タイムズに持ち込んだベトナム戦争の秘密報告書「ペンタゴンペーパーズ」は全部で7000ページ。紙の山を手分けして一枚一枚コピーし、持ち運ぶ必要があった。

現在は米政府がPDFの形ですべてネット公開している。そのデータ量は6.3ギガバイト。今なら、無料のグーグル・ドライブ(容量15ギガバイト)や、1000円もしないUSBメモリーで簡単に受け渡しができる。

2010年、ウィキリークスが暴露したイラク戦争に関する機密文書は39万件というボリュームだ。このうち、ガーディアンは死亡した市民6万人分のデータを、フュージョンテーブルを使ってマップ化した。

コンピューターの処理能力の倍増の連鎖を見通した「ムーアの法則」により、そんな変化が起きている。

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●やってはいけないこと

パネルではうっかり、データジャーナリズムの課題部分の説明を失念してしまっていた。会場からの質問にも、データジャーナリズムには、プライバシー侵害の危険はないのか、との指摘もあった。

ビッグデータには位置データなど、プライバシーにかかわるパーソナルデータが含まれることもある。データの内容によっては、まさにプライバシー侵害の危険もある。

ニューヨーク州の新聞、ジャーナル・ニュースは2012年末、コネチカット州ニュータウンの小学校で起きた銃乱射事件を契機に、公開情報である地元の銃所持許可証の登録者の住所を、グーグルマップ上に公開し、賛否をめぐる激しい議論を呼び起こした。

すると今後は銃所持擁護のブロガーが、同紙のジャーナリストたちの住所をグーグルマップで公開するという報復に出た末、同紙はマップを削除することとなった

データジャーナリズムでやってはいけないこと」でも紹介したように、バーミンガム・シティ大学の准教授、ポール・ブラッドショーさんによれば、データジャーナリズムを実践する上では、この他にも気をつけるべき点がいくつかある。

・元データの精度の検証を(提供元が精度を担保しているか/バイアスはかかっていないか)

・正しい文脈を与える(グラフの起点はゼロに/相関関係と因果関係は違う)

・予測報道は慎重に

・データへの編集判断は必要(情報源の安全確保/安全保障上の問題の考慮)

●データジャーナリズムのトレーニング

ピュリツァー受賞者らが手ほどきするデータジャーナリズム講座」でも取り上げたように、まだ時期は未定だが、データジャーナリズムのトッププレーヤーたちによる大規模オンライン公開講座(MOOC)の開講が予定されている。

また、2月から3月にかけて、朝日新聞の「データジャーナリズム・ハッカソン」も予定されている。

今後も実践の場は増えてくるだろうと思う。

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Twitter:@kaztaira

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データジャーナリズムは調査報道にどんな可能性を示せるのか」への1件のフィードバック

  1. 立岩陽一郎 より:

    再度、勉強をさせていただきました。いやはや凄い世界ですが、ちょっとは身近に感じています。Gフュージョン、まずは使ってみます。

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