クリステンセン教授がジャーナリズムのイノベーションを改めて語る

コメントする

01/25/2014 by kaztaira

ちょうど1年前に「ジャーナリズムが破壊的イノベーションに立ち向かうには」でも紹介した『イノベーションのジレンマ』のクレイトン・クリステンセン・ハーバード大教授による、ジャーナリズムのイノベーション論。

このテーマをめぐる、クリステンセン教授の最新のインタビュー記事が、米報道研究所(API)のサイトに掲載されている。

Revisiting disruption: 8 good questions with Clayton Christensen

???????????????????????????????????????????????????????????????

アマゾンCEO、ジェフ・ベゾスさんによるワシントン・ポストの買収、イーベイ創業者、ピエール・オミディアさんによるメディアベンチャーの立ち上げ、そしてモバイルの広がり……。メディアを取り巻く新たな動きにも、クリステンセンさんのアドバイスは、簡潔でぶれがない。

「破壊的イノベーションが問題なのではない。破壊は常にやってくる。そしてそれへの対策を取ることは可能だ。だがもし、重力はだれにでも作用するとわかっているのに、自分に関する限り、その影響は及ばないと思うなら……それこそが問題だ」

???????????????????????????????????????????????????????????????

●解決されるべき課題

まずは、新たなプレイヤーの参入について。

クリステンセン2

クリステンセンさんは、ベゾスさんが3つの破壊的イノベーションを手がけたと評価する(具体的に説明をしていないが、アマゾン、クラウド、キンドル、の3つだろうか)。

そのなかで、環境変化をめぐる問題には対処してきた実績がある、と。ただ、オミディアさんにしろ、そのような実績から、メディアにおける「正解」を導き出すことはできないだろう、と見る。

「彼らが持ち込めるのは〝質問〟だ。その経験は、〝正解〟はもたらさない」

その理由は、クリステンセンさんの中核的なコンセプトである「解決されるべき課題」の問題だ。イノベーションはユーザーの「課題」をどう解決するかが起点になる。

アマゾンやイーベイの顧客の「課題」は、新聞社の顧客、つまり読者の「課題」ではないからだ。

バイラルメディアのバズフィード、モバイル用ニュースキュレーションのサーカなどの台頭についても、ユーザーの「解決されるべき課題」の視点から見通す。

バズフィードなどの新しいメディアは、ユーザーのどんな「課題」を解決しようとしているのか、と。

「人々は忙しすぎる。だがその中でも、今の出来事や知識に通じているように、他人から見られたいのだ」

そこに「解決すべき課題」を見て取る。

●完全にわかりきったこと

かつてはメディア業界の周縁にいたブログメディアのハフィントン・ポストも、今や存在感をもつメディアとなった。今はメディア変革の、どのあたりの地点まできているのか。

クリステンセンさんの回答は歯切れよい。

「それはもう完全にわかりきったことだろう」

破壊的イノベーションは、周縁や下端から始まる。ハフィントン・ポストがそうだったし、かつてはブルームバーグだってそうだった。

だがやがて市場はより高いクオリティ、より多くの利益をもたらすの商品やサービスへと移行することを予測できる。そして、今あるサービスを押しやる、もっと簡単でポテンシャルのあるサービスをつくりだすようになる。それもまた予測できる成り行きだ。

「あなたが今いるのは、まさに理論通りに、そうなるはずだった世界だ」

●退場しないプレーヤー

ただ、既存のプレーヤーが「解決すべき課題」をしっかりと把握できている場合、そう簡単には退場しない。

「ある製品を、破壊的イノベーションの製品によって破壊することはたやすい。だが(既存プレーヤーとして)、ユーザーの課題解決のために必要な手立てを購入し、利用し、それまでのあらゆる経験を統合することができるなら、それを破壊することは、現実には極めて難しい」

そしてこうも言う。

「メディアビジネスでは、そのような統合の事例は見たことがない。だが、そこには理解し、取り込むだけの価値のあるインサイトがあると思う」

その例としてクリステンセンさんが挙げるのが、スウェーデン発祥の家具販売大手、イケアだ。価格や配送など、商品そのものに加えて、それをとりまくサービスが総合的に顧客の「解決すべき課題」に貢献するモデルだ。

●メディアにおける解決すべき課題

では、ニュースの世界における「解決すべき課題」とは何か。

クリステンセンさんは、通常、どんな業界でもその「課題」の数は3~5程度だという。1つだけということもないし、10もあるということもない、と。

ユーザーが知識に通じる手助けをする。ニュースの場合、それも一つだ。

例えば電車に乗っている時間。約束までの空き時間。1分から20分程度の時間を埋めてくれる課題解決の手段とは、何か。

新聞は、多少かさばっても、その手段にはなるだろう。

ではモバイルは?

3分を生産的に埋めるのに、スマートフォンで次から次へと情報をチェックできるのは、何よりも効率的で破壊的だ。これで無駄な時間を排除できる。

ただ、テクノロジーはあくまで中立的だ、とクリステンセンさんは指摘する。

「テクノロジーが業界を破壊的に変化させるかどうかは、(解決すべき)課題が何かにかかっている」

15秒を埋めるサービスを提供するベンチャーがいたとして、それをニューヨーク・タイムズも追求するべきか。

「おそらく、それはニューヨーク・タイムズのビジネスモデルには合わない」

●頭で理解する、心で理解する

クリステンセンさんは、2006年から2008年にかけて、APIのプロジェクト「ニュースペーパー・ネクスト」で、新聞業界の変革についての青写真をいくつかの報告書としてまとめた。

N2

それらの提言は、現場でどのように生かされたのか。

「『ニュースペーパー・ネクスト』のプロジェクトは、私の感じでは、興味深いアカデミックの取り組みとして読んでもらえたと思う。ただ、我々が悪いのか彼らの問題か、報告書は頭で理解されるというレベルで、心には届いていなかったようだ」

そして辛辣に、こう述べる。

「ほとんどの新聞は、そんなことはよそでは起きるかもしれないが、自分の所で起きないだろうと多寡をくくった。日々の業務の中では、そんなことは気にもしない。本当にダメになるまでは。そして今になって、それが現実のこととしてそこかしこで起きている。多くの人々が、何で事だ、と口にしている。取れる手立ての自由の幅は、当時に比べて格段に限られている」

この結末を見るだに、私たちの本能は、それは自分には起きない、あるいは明日起きるわけではない、と語りかけるものなのかもしれない、と言う。

「この理論について講義で教えようとするときに、手始めとなるいい方法がある。教室の前で手にペンを持ち、それを手放す。するとペンは床に落ちる。私はそれを拾おうとかがみ、学生たちに文句をいってみせるのだ。そう、私は重力が大嫌いだと。だが問題なのは重力ではない。重力は常にあなたを押さえつけている。そして、破壊的イノベーションに対処するために本当になすべきことが、これだ。(イノベーションを手にした)人々はつねに足元からやってくる。そして、破壊的イノベーションは大嫌いかもしれないが、問題なのはイノベーションではない。それはつねに起きていることなのだから」

なるほど。

———————————–

Twitter:@kaztaira

『朝日新聞記者のネット情報活用術』

電子書籍版がキンドルiブックストア楽天koboなどで配信中

cover3

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

アーカイブ

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。