ニュースルームから紙の新聞を追い出す

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02/02/2014 by kaztaira

メディアの正しい課金の仕方」でも紹介した、日刊紙75紙を抱える全米第2位の新聞チェーン「デジタル・ファースト・メディア」が、また新しい取り組み「プロジェクト・アンボルト(ボルトを外す)」を始めた。

アンボルト1

新聞社のデジタル化の先陣を切っている同社が、今回取り組むのは、紙からデジタルへの、ジョブフローの徹底した組み替えだ。

デジタルニュースはこれまで、紙の新聞制作の古いジョブフローにボルトで縛り付けられていた。その制約を取り外し、ニュースルーム(編集局)をデジタルに最適化した組織にする――ということらしい。

アンボルト3

●「死ぬのは紙だけだ」

「紙の新聞が死にかけていることを認めなさい。その事実を受け入れ、そのためのプランを立てなさい。ニュースは死にはしない。ニュースルームも死なない。死ぬのは紙だけだ」

率直な物言いで知られる同社CEO、ジョン・ペイトンさんは、1月23日、マイアミで開かれたオンラインパブリシャー協会(OPA)で行った講演で、こう言い切った

アンボルト2

そこで打ち出したのが「プロジェクト・アンボルト」だ。

プロジェクトを率いるのは「デジタル・トランスフォーメーション・エディター」の肩書を持ち、メディアブログ「バトリーダイアリー」でも知られるスティーブ・バトリーさん。

まずはテストケースとして、ニューヘイブン・レジスター(コネチカット)ニュースヘラルド(オハイオ)エルパソ・タイムズ(テキサス)バークシャー・イーグル(マサチューセッツ)の4紙で始めるという。

バトリーさんは、このプロジェクトのブログで、プランをかなり具体的に説明している。そしてこれは、ニュースルームも未来形になるかも知れない、と思わせる説得力がある。

単なるジョブフローの見直しではなく、モバイル、データジャーナリズム、ソーシャルツール、エンゲージメントなどを含む、「メディアの再構築」なのだ。

その6つの柱をみていこう。

This is how an unbolted newsroom works (Project Unbolt)

●1:取材と発信

【ライブ】イベントや事件発生の取材は、ツイッターや動画のストリーミングで、原則ライブで取材・発信をする。スポーツや行政の会議、裁判、地域の催しなども、禁止されてさえいなければ、すべてライブで。アンボルトのニュースルームはライブが基本。そして、タイムリーなニュース配信。

【企画記事】大型の企画ものの記事は、動画やインタラクティブやグラフィックス、データベースなどをかませた、リッチなウェブコンテンツとして、平日の数日間にわたってデジタルで順次掲載。紙ではそれらをまとめて、日曜版に掲載。さらにそれをもとに、月曜日にはライブチャットを行う。

【記者ブログ】記者は、「担当記者ブログ」がメインの活動の場になる。そこで、締め切り時間も行数も気にせず、担当分野に関心を持つ読者に向けて情報を発信する。ニュースサイトは、そこから記事を取り込むことになる。

【データ】そしてデータのスキル。ジャーナリズムへのデータの活用、読者がインタラクティブに使えるデータベースをつくり、あるいはデータをビジュアル化する。そして、過去の記事をアップデートしていき、その価値を持続させる。

【動画】また、記者はリアルタイムのモバイル動画配信サービス「タウト」を使って、現場から動画を素早くアップロードする。ニュースルームは、ライブのウェブ放送を行い、読者から動画の投稿を呼びかけ、それをキュレーションする。

【インタラクティブ】ユーザー参加型のインタラクティブな仕掛けにチャレンジする。クイズ、インタラクティブ・データベース、地図、ネット投票などで、ユーザーにニュースを〝体験〟してもらう。

●2:作業プロセス

【ワークフロー】ニュースルームのワークフローはまず第一にデジタル向けのコンテンツ制作に集中する。コンテンツ管理システム(CMS)による制約があっても、開発業者の協力を得て、ワークフローの改善に取り組む。

【締め切り】ライブで取材している事件発生やイベント以外の締め切り時間は、お昼時のトラフィックピーク前の午前11時半ごろ。そして、夕方のタブレット版配信に合わせた午後3時半。夜の締め切り時間の設定は、何か発生ものがあったときだけ。

【編集】編集作業もデジタル発信を前提に。記者がライブツイートやライブブログで発信したものを、紙の新聞用の記事にリライトする、新しいスタイルの編集者も数人配置する。

【見出し】記者や編集者は、検索エンジン最適化(SEO)した強い見出しを書くこと。必要があれば、紙の新聞用に編集することもある。

【プロモーション】ニュースルーム、さらに個々の記者もソーシャルメディアを使って、記事のプロモーションをする。フェイスブックやツイッター、グーグル+、さらにビジュアルならタウト、インスタグラム、ピンタレスと、ユーチューブなどを使って。

【紙の制作】CMSが対応可能ならば、紙の新聞制作は、地域を束ねる制作ハブ(センター)で一括して行い、各ローカル紙の関与は最小限にとどめる。

●3:エンゲージメント

【透明性】ニュースルームの決定事項などは常にブログやソーシャルメディアでオープンにしていく。また、記者は取材のこぼれ話などをソーシャルメディアやブログで、地域の読者と共有していく。また、時間が許せば、取材の過程で読者に協力を呼びかける。また、当日の出稿計画を公表、紙面会議を公開したり、ライブストリームしたりする。

【ソーシャルメディア】記者は最低でも、ツイッター、フェイスブック、タウト、グーグル+、さらにインスタグラム、ピンタレスト、ユーチューブを使い、取材、エンゲージメント、ニュース発信に生かす。

【キュレーション】ニュースルームは、地域の人々や組織のブログ、ソーシャルメディア、ニュースリリース、他のメディアからニュースをすくい上げ、キュレーションする。

【ライブインタビュー】直接会えない取材先には、可能なら、電話ではなく、グーグル+のハングアウトであるいはユーチューブをつかってライブインタビューをする。また、ニュースルームは定期的に担当記者を呼んで、ハングアウト/ユーチューブでライブ放送をする。

【ネットワーク化】ニュースルームは、地域のブログやソーシャルメディアユーザーをネットワーク化し、コンテンツに参加してもらう。

●4:編集会議とマネージメント

【編集会議】朝の編集会議は、その日の取材計画、朝のうちのデジタルのトラフィックの状況、さらに進行中のニュースのアップデートの必要などについて確認する。紙の朝刊にフォーカスした議論は行わない。午後の編集会議を行う場合は、夜にかけての取材予定、翌日の取材予定と合わせて紙の朝刊についても検討するが、朝の会議よりはずっと小規模に行う。

【出稿計画】日々の、そして長期的な出稿計画表には、必要なデジタル取材のツールや手法、ライブ配信の予定や締め切りなども盛り込む。

【要員計画】紙のデザインやグラフィックスの要員よりは、モバイル、ソーシャルメディア、データビジュアル化、インタラクティブなフラフィックスの専門スタッフを増員していく。

【測定基準】コンテンツの効果や読者とのエンゲージメントの測定、より適切なコンテンツ配信のために、デジタルデータを活用していく。

【コラボレーション】ニュースルームは、編集の独立を毀損せずに、効果的なコンテンツを開発し、収益を最大化するため、営業、技術部門と連携していく。

【トレーニング】ニュースルームのメンバーは、ネットのセミナーやワークショップなどの機会を活用して、新しいスキルを身につけるようにする。

●5:モバイル

【モバイルツールの活用】ニュースルームのスタッフや編集者は、仕事やニュースのチェックにモバイルツールを活用するようにする。取材ツールとしても生かす。

【取材計画】編集会議の場では、編集者はコンテンツのモバイル上での見せ方についても検討する。取材計画は常にモバイルでの展開を考慮する。

【モバイルプロダクト】ニュースルームは、コミュニティーとのエンゲージメントのため、モバイルを通じたメールのニュースアラートやニュースレター、読者の投稿を促すモバイルツールなどを提供する。

●6:規則

【正確性】ソーシャルメディアへの投稿でも、その他のメディアでの配信でも、ジャーナリストとして記事が正確であることの確認は必須だ。

【訂正】間違いがわかれば訂正する。すべての記事には読者が間違いを指摘できる入力フォームへのリンクを掲載する。訂正をするときには、間違いを修正するとともに、訂正があること、なにが間違っていたのかを明記する。

●紙のムダを削る

プロジェクトの趣旨は、紙の新聞制作に由来するレガシーなコストの削減と、モバイル、ソーシャルというデジタルのコアユーザーへのリソースの投入だ。

デジタル・ファースト・メディアは、レガシー資産に悩まされてきた企業でもある。傘下のチェーン、ジャーナル・レジスター(現21stセンチェリーメディア)は2009年の倒産を乗り越え、デジタルのコスト削減を進めたが、年金負担に耐えきれず、2012年秋に2度目の倒産の憂き目にあっている

プロジェクトは、きわめて理にかなった方向性だ。ただ、紙の新聞人には気の遠くなるような話でもあるだろう。

「その事実を受け入れ、そのためのプランを立てなさい。ニュースは死にはしない。ニュースルームも死なない。死ぬのは紙だけだ」

How Digital First Media hopes to transform workflow, culture of ‘newspaper factories’(Poynter)

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Twitter:@kaztaira

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cover3

ニュースルームから紙の新聞を追い出す」への2件のフィードバック

  1. 読んでいて思ったのは、実は新しいやり方は組織の広報部や個人のブランド化とやり方が同じだということです。私も自分の情報発信ため、上記のような再編成に努めています。新聞などの既存メディアもようやくデジタルメディアに対応する準備ができてきたのかな。

  2. 小林 より:

    一番重要と思われる、売上をどうやって確保するかに触れていないようですが、どこかにありましたか? 売上が確保できなければすべてが画帖の餅となります。

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