「デジタルファースト」全米2位の新聞社の戦略はなぜ頓挫したか

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04/04/2014 by kaztaira

デジタルメディアの動きは速いというが、本当にそうだ。しかも今回は残念な方向で。

2月に、「ニュースルームから紙の新聞を追い出す」という投稿で、75の日刊紙を抱える全米第2位の新聞チェーン「デジタル・ファースト・メディア(DFM)」が、デジタルに最適化したニュースルーム(編集局)にするための新しい取り組みを始めたと紹介した。

その同社が4月2日、デジタル化プロジェクトを停止し、50人を超す担当チーム全員を解雇することを明らかにしたのだ。

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〝デジタルファースト〟は英ガーディアンなども追随し、レガシー資産の多い新聞業界のピボット戦略として世界的に注目を集めていた。

新聞社によるデジタル化戦略のトップを走っていた同社に、何が起きたのか。

●グループ内通信社をつくる

プロジェクト「サンダードーム」の中止は、公式には、同社CEOのジョン・ペイトンさんが自らのブログで認めた

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歯に衣着せぬ新聞業界の風雲児であり、デジタル化の先導者――サンダードームは、そのペイトンさんが目玉のプロジェクトとして2011年3月に表明。ワシントン・ポスト電子版の編集主幹も務めたジム・ブレイディさんをデジタル・ファースト・メディアの編集長として迎え、その中核に据えた。

サンダードームは、全米および国際ニュースを一括して、ニューヨークを拠点とする編集部チームと外部の提携メディアのコンテンツでカバーし、傘下の新聞社(のサイト)に配信する仕組みだ。

いわばグループ内に〝通信社〟をつくることで、スケールメリットを生かした取材・配信の効率化ができ、各ローカル紙はその分、地元のニュースに専念できる、という設計だった。

現在のところ、配信しているニュースは「全米」「国際」「健康」「テクノロジー」「トラベル」「フード」「ペット」「野球」の8ジャンル。

提携先として、「マッシャブル」や「プロパブリカ」「グローバルポスト」といったネットメディアからもコンテンツ配信を受けていたようだ。

そして、全国・国際ニュースの一括配信は、コスト削減に取り組むガネットなど他の大手新聞チェーンも取り組みを始めているところだ。

●デジタルジャーナリズムの試み

サンダードーム中止のニュースを、背景も含めてスクープとして放ったのは、著名なメディアアナリストのケン・ドクターさんだ。

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ドクターさんによれば、サンダードームは効率化だけのプロジェクトではなかった。

その一つが、動画などのビジュアルやデータを活用した先端のデジタルジャーナリズムの取り組みだ。

家族の銃器」や「ケネディ暗殺を解読する」といった長行のマルチメディア特集。

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NCAAバスケットボールの各チームの勝率を比較できる「対戦表アドバイザー」、犯罪統計を地図上で見られる「クライムマップ」などのウェブアプリ。

まさに今、世界中のメディアが精力を傾けているウェブ時代のジャーナリズムを体現していたのだ。

サンダードームの取り組みをまとめた動画がある。

ただ、ドクターさんによると、これらのコンテンツが必ずしもトラフィック増加に結びついたとは言いづらく、また、ローカル紙の立場からは、コンテンツの押しつけとも映ったようだ。

●1億ドルのコストカット

同社の年間売上高13億ドル、18州で日刊紙を含む800種類のメディアプロダクトを抱え、ユーザー数は合わせて月間6700万に上るという。

ドクターさんは、これがプロジェクト中止にとどまらず、近く傘下の新聞を売却する方針とも伝えている。

そして、この方針は同社の大口投資家であるヘッジファンド「アルデン・グローバル・キャピタル」の意向を反映しており、1億ドルを超すコスト削減計画の一環なのだと。

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ただ、ニューヨーク・タイムズの取材に対し、ペイトンさんは新聞の売却については「何の決定もなされていない」と述べている。

サンダードームで「デジタル・トランスフォーメーション・エディター」を務めたスティーブ・バトリーさんは、ペイトンさんがプロジェクト中止をメンバーに伝える生々しい写真を、自身のブログに掲載している。

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バトリーさんはニューヨーク・タイムズの記事の中で、サンダードームのプロジェクトは機能していたのかという質問に対して、それに答えるのは難しいとし、「彼ら(ヘッジファンド)は最後までやらせてくれなかったのだから」と不満をにじませている。

また、ヘッジファンドに資金を依存することで、必然的に「事業構造を変えろ、でなければ売り払え」ということになってしまう、と課題を指摘する。

バトリーさんが率いていたデジタル移行の最新プロジェクト「アンボルト」も合わせて雲散霧消するようだ。

ノースイースタン大学ジャーナリズムスクール助教のダン・ケネディーさんは、こう指摘する

質の高いジャーナリズムは民主的な自治に不可欠――ヘッジファンドに投資する人々が、そんなことを深く変わらぬ愛情をもって信じているとは、一般的には思われていない。そんなことより、彼らはお金を返して欲しいのだ――投資した額より多く。それもできるだけ早く

プロジェクト中止を受け、編集長のブレイディさんはツイッターに「多くのデジタル戦士が戦いに備えている」と書き込み、解雇となるメンバーの採用を呼びかけている

ブレイディさん、バトリーさんもデジタル・ファースト・メディアを離れることになる。

「サンダードームのプロジェクト頓挫とはすなわち、ニューヨークで有能な中堅のデジタル人材が採り放題ということだな」と即座にツイッターで反応したのは、ニューズ・コーポレーションの戦略担当上級副社長、ラジュ・ナリセッティさんだった。

●〝デジタルファースト〟はどこへ行くのか

デジタル・ファースト・メディアは、七転八倒を繰り返してきた企業だ。

傘下のチェーン、ジャーナル・レジスター(現21stセンチェリーメディア)は2009年に倒産。ペイトンさんのもとで再建し、紙よりまずデジタル、という〝デジタルファースト〟の合言葉でコスト削減を進めた。

さらに、大手チェーン「メディアニュース・グループ」も傘下に加え、合言葉そのままのデジタル・ファースト・メディアとして運営を続けた。

だが年金負担に耐えきれず、2012年秋に2度目の倒産をしている。

ビッグデータでジャーナリズムを変える?新メディアが始動」などで取り上げてきたように、一方では新興のデジタルジャーナリズムの動きが次々現れる中での、今回のプロジェクト頓挫だ。

次に、何が起きるのだろうか。

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

※GQ JAPANのウェブサイトに、「ジャーナリズムの伝統と流行」というテーマで、筆者のインタビュー記事が掲載されています。「ジャーナリズムが得た新たな表現方法──平和博よろしければどうぞ。

Twitter:@kaztaira

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