売りに出る全米2位の新聞社、続々生まれるメディアベンチャー

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09/13/2014 by kaztaira

紙からデジタルへの移行の取り組み「デジタルファースト」の先陣を切り、世界的な注目を集めてきた全米2位の新聞チェーン、デジタル・ファースト・メディア(DFM)。

大口投資家であるヘッジファンドの締め付けから、目玉のデジタル戦略が中止に追い込まれるなど、苦境に立たされていることは、「『デジタルファースト』全米2位の新聞社の戦略はなぜ頓挫したか」などでも紹介してきた、

この時、メディアアナリストのケン・ドクターさんは、近く傘下の新聞を売却する方針、と見立てていたが、それが現実になったようだ。

DFMが12日付けでリリースを発表。チェーン全体の売却を含むオプションを検討する、と表明した。

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その一方では、メディアベンチャーを次々と生み出すサンフランシスコのアクセラレーター(育成型投資)「マター.」の勢いを、フォーブスが伝えていた

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メディアの地殻変動は、その両サイドで同時進行しているようだ。

●売却のオプション

15州で76の日刊紙、160の週刊紙を発行するデジタル・ファースト・メディア。

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「ポインター」によれば、デジタル・フォースト・メディアはすでに8月、傘下50紙の自社ビルを売りに出すなど、資産の整理は始まっていた。

今回のリリースは、CEOのジョン・ペイトンさんのこんなコメントを引用している。

我々には、株主に対してビジネス価値を最大化するための数多くのオプションがある。取締役会は、そのチャンスのすべてについて、検討することを決定した。

次の一文がその「オプション」の意味を説き明かす。

デジタル・ファースト・メディアは、その戦略的代替案に、チェーン全体の売却、地域ごと、もしくは複数の地域単位の売却、現状のビジネスプランの継続、またそれ以外も含まれると述べている。

チェーンごとの身売り、またはバラ売りもある、ということだ。

業界ウオッチャーのジム・ロメネスコさんが、ペイトンCEOによる社内向けメモを紹介している。この中で、ペイトンさんはこんなことを言っている。

頭の硬い懐疑派を除けば、今や新聞には、マルチプラットフォームの報道機関として、繁栄の未来が待ち受けており、地域市場におけるニュースと広告の最良、最大の供給者であることは動かぬ事実だ。だが、その未来へのカギになるのは、規模(スケール)だ。

その規模を取るために、チェーンの身売りもオプションとしてある、というロジックのようだ。

ロメネスコさんは、別のメモも紹介している。デジタル・ファースト・メディア傘下、ペンシルベニア州のヨーク・デイリー・レコードの社内向けメモだ。

経費節減のため、毎週水曜日の午後2時15分から4時まで、計画停電になる、という告知だ。

自家発電機を動かすので、編集局のパソコンやその他の機器は利用可能。ただし照明は落とし、空調は止める。

そして、こう続く。

社外勤務が可能ならそれを強く勧める。これはモバイルジャーナリズム(mojo)報道の実践には最適のタイミングだろう。

「繁栄の未来」への道のりが伺える。

●買い主はいるか

デジタル・ファースト・メディア自身が配信している記事の中で、ケン・ドクターさんはこうコメントしている

チェーンの大方は、半年以内に解体されるだろう。

アマゾンのジェフ・ベゾスさんはワシントン・ポストを買い、ボストン・レッドソックスのオーナー、ジョン・ヘンリーさんはボストン・グローブを買い、ウォーレン・バフェットさんのバークシャー・ハサウェイも買うべき新聞は一通り買った。

また、「新聞社から新聞が追い出される:たった1週間で一変した米メディア界」で紹介したように、新聞社は新聞社で、収益のいいテレビ局を買収の上、新聞事業を切り離す動きが相次いだ。

新聞コンサルタントのアラン・D・ムターさんは、ニューヨーク・タイムズの取材に、デジタル・ファースト・メディアを売りに出したとしても、果たして「買い手がいるのだろうか」と疑問を投げかけている。

このタイミングでの売却は難しいだろう。あらかたの買い主は、もうこれ以上の新聞社を抱えるつもりはなさそうだ。

●ニュースベンチャーの育成

フォーブスの記事が紹介したメディアベンチャーのアクセラレーター「マター.」は、この数年、様々なメディアで取り上げられてきた注目株だ。

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「マター.」を後押ししているのは、サンフランシスコの公共放送「KQED」、公共ラジオのネット配信を手がける「PRX」、それにジャーナリズム支援に積極的な「ナイト財団」だ。

投資とベンチャー育成を組み合わせた「アクセラレーター」としては、マウンテンビューの「Yコンビネータ」などが有名だ。

「マター.」の場合は、その対象をメディアベンチャーに絞っているところに特徴がある。

「マター.」のマネージング・パートナー、コリー・フォードさんは公共放送「PBS」の人気ドキュメンタリー番組「フロントライン」の出身。

グーグル会長のエリック・シュミットさんが立ち上げたベンチャーキャピタル「イノベーション・エンデバーズ」のインキュベーションプログラム「ランウェイ」を立ち上げるなど、映像ジャーナリズムとベンチャー育成、両方のバックグラウンドを持っている人のようだ。

「マター.」から各ベンチャーへの投資額は、5万ドルとかなり少ない。ほぼ生活費にあてられるこの投資と合わせ、5カ月間の育成コースを経て、大手ベンチャーキャピタルから、1桁2桁大きい本格的な投資を仰ぐ仕組みだという。

〝卒業生〟では、フリーランスのフォトグラファーの作品配信ネットワーク「ストリンガー」がすでに55万ドルの資金を調達し、さらに150万ドルの調達を計画。クラウドソース型の都市データ集積プラットフォーム「ローカルデータ」も、すでに45万ドルを調達しているという。

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広がっていってもらいたい動きだ。

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

※GQ JAPANのウェブサイトに、「ジャーナリズムの伝統と流行」というテーマで、筆者のインタビュー記事が掲載されています。「ジャーナリズムが得た新たな表現方法──平和博よろしければどうぞ。

Twitter:@kaztaira

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