「グーグルHTML」ニュースのルールを決めるのは誰か?

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10/10/2015 by kaztaira

グーグルが主導するモバイル用HTML「AMP(アンプ)」が7日に発表された

「加速化モバイルページ(Accelerated Mobile Pages)」の名前の通り、ページ記述言語HTMLを、スマートフォンなどでのページ表示高速化のためにカスタマイズしたものだという。まだテスト段階だが、今後数カ月で、本格運用に向けて取り組みを進めるようだ。

フェイスブックアップルのニュース配信プラットフォーム、さらに「広告ブロック」の広がりを受けての、満を持したグーグルの打ち手、いわば「グーグルHTML」だ。

ページが高速化する分には、ユーザーにとって結構なことだ。だがメディアウォッチャーには、評価の一方で懸念も漂う。これは、グーグル版のメディアの囲い込みではないか? そして、そもそも、ウェブのルールを決めるのは誰なのか、と。

誰が決めるにしろ、もはやメディアは従うしかない――そんな声も出ている。

●簡易版HTML

アンプを推進する「アンプ・プロジェクト」には、グーグルのほかツイッターやリンクトイン、ピンタレストといったIT企業9社、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナルといったメディア38社が名を連ねる。

amp2

日本からも朝日新聞デジタル、毎日新聞、産経デジタルが参加している。

「アンプ・プロジェクト」の説明によると、アンプHTMLは、現在のHTMLの機能を制限したり、置き換えたりすることで、ページ表示の遅延を解消するものだという。

amp1ページが重くなり、表示が遅くなる大きな要因とされるのが、広告表示とページ閲覧情報の収集(トラッキング)だ。

それらの機能を操作しているのがプログラム言語の一種「ジャバスクリプト(JS)」だ。

Exif_JPEG_PICTUREウェブページは、いったん表示が完了すれば通信が終わるわけではない。裏側では、ジャバスクリプトが〝窓口〟となって外部のサーバーとつながり、広告配信を受けたり、閲覧情報を送信したりといった、情報をやりとりを断続的にしている。

それも、一つのページに複数の広告配信、情報収集の〝窓口〟が埋め込まれていることも珍しくない。ページが重くなるはずだ。

アンプでは、このジャバスクリプトの使用を原則、排除するという。使えるのはアンプが決めたジャバスクリプトだけだ。

つまり、広告配信や閲覧情報の収集の〝窓口〟を一本に絞り込むことになる。

さらに、いくつかのHTMLの基本的な機能を記述する「タグ」の使用も制限される。

外部のコンテンツを組み込む<iframe>タグは使えず、画像を表示するための<img>は、<amp-img>という独自のタグに置き換えられる

amp3

モバイル用の簡易HTMLといえば、2000年前後のiモード時代の「コンパクトHTML」の記憶が蘇る。

<iframe>や<img>といったタグは、この「コンパクトHTML」でも使われていた昔ながらのものだ。

amp4モバイル環境では、ページの表示時間が10秒に至ると、約6割が見るのをやめてしまうという調査結果もあるようだ。

アンプで作成したサンプルページの計測では、表示時間に15~85%の改善が見られたという。

グーグルのエンジニア、アディ・オスマニさんが解説動画を公開している。

確かに、グーグルが公開しているデモページを見る限り、表示はスピーディーだ。

アンプHTMLによるページは、グーグルのサーバーでキャッシュ(コピーを保存)するというオプションも用意され、より高速表示が可能になるようだ。

また、ページの重さはグーグルの検索順位づけの指標の一つであり、軽量化はSEO(検索エンジン最適化)の上でも、効いてくると見られている。

広告モデルばかりでなく、課金購読システムのサポートもしていく予定だという。

アンプHTMLの一式は、オープンソースとして、開発者向けサイト「ギットハブ」で公開されている。

また、参加企業の一つ、ブログソフトの「ワードプレス」は、通常のHTMLでつくったページを、アンプHTMLに自動変換する機能も開発中だという。

●グーグルの動機

グーグルがアンプHTMLで掲げるのが「オープン」だ。公式ブログの投稿のタイトル「より高速な、オープン・モバイル・ウェブのために」が端的にそれを物語る。

エンジニアリング・検索担当副社長のデイビッド・ベスブリスさんは、こう述べている。

私たちは、動画やアニメ、グラフィックスといったリッチなコンテンツが、スマートな広告とともに機能し、しかもそれが瞬時に表示される、そんなウェブページが欲しいと思っています。

グーグルが「オープン」を旗印に、メディア企業を巻き込んでページ軽量化に乗り出すのには、十分すぎる動機がある。

フェイスブックは5月、やはりモバイルページの高速化を掲げ、自社プラットフォームにメディアのコンテンツを直接ホスティングするアイフォーン向けニュース配信「インスタント・アーティクルズ」をスタート。

アップルも9月に公開したiOS9にニュース配信アプリ「ニュース」を搭載した。

いずれもメディアの主戦場となっているスマートフォンに照準を定め、クローズドなアプリの中で、布陣を構えた。

これに対して、グーグルのビジネス基盤は、オープンなウェブでの広告収入だ。

クローズドなアプリにコンテンツが吸い上げられるのは、このビジネスモデルを脅かす流れだ。

加えて、アップルがiOS9から、自社ブラウザ「サファリ」での「広告ブロック」利用を容認したことから、オープンなウェブでの広告ビジネスが、さらに逆風に晒されることになった。

グーグルは、フェイスブックなどのソーシャルメディアの台頭に対して、2007年には「オープンソーシャル」のプロジェクトを立ち上げている。

オープン戦略は、フェイスブック、アップルなどのグローズドな戦略に対する、グーグルの基本姿勢であり、ビジネスの根幹だ。

●メディアウオッチャーの評価と懸念

ニューヨーク市立大学ジャーナリズムスクール教授でブロガー、『グーグル的思考』の著書もあるジェフ・ジャービスさんは、このプロジェクトをウェブの軽量化と、ソーシャルメディアを介してコンテンツを配信する「分散ジャーナリズム」の推進、という点で積極的に評価する

グーグルは繰り返し強調している:何よりウェブだと、結構。確かにこれはウェブページだ―しかし、めっぽう速い。リンクはもはや、待ち時間への招待状ではない。リンクとは、即座にすべてを目にすることができる、次のページだ。

さらに、モバイルウェブの変化を予見する。

アンプと(フェイスブックの)インスタント・アーティクルズは、そこにはとどまらない。ウェブにおける新たな分散型コンテンツの生態系への、大きな一歩だ…それは特にモバイルにおける、より良質で、速いウェブなのだ。

一方で、懸念の声も上がっている。

ハーバード大ニーマン・ジャーナリズム・ラボ所長のジョシュア・ベントンさんは、オープンとはいいながら、アンプHTMLは結局、グーグルがグリップを握る「もう一つのプラットフォーム」ではないか、と指摘する。

コントロールされたプラットフォームとアプリのウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)の世界で、ウェブは20年以上にわたって築き上げられてきた、最後のオープン空間だ。そこで、何を禁止するのかをグーグルの数人のエンジニアたちが決めているというのが、何ともイラつく話だ。

そして、こう述べる。

確かにパブリッシャー(メディア)はアンプを採用する必要はないし、アンプはオープンソースのプロジェクトだ。パフォーマンスの向上は非常にリアルな話で、見逃すことはできない。そして、パブリッシャーにはフェイスブックのインスタント・アーティクルズや、アップルのニュースという選択肢も用意されている。ただ言いたいのは、これはパブリッシャーの無力化への道のりの、新たな一歩であり、テクノロジー企業がルールを決める、新たな事例に過ぎないということだ。

オープンソース推進で知られ、グーグルにも在籍したクリス・メッシーナさんも、アンプHTMLについては、やはり懸念を表明している。

特に、アンプの広告タグが対応する広告ネットワークとして、早々と5つが選定されている(うち2つはアドセンス、ダブルクリックというグーグルの自社サービス)ことを指摘。

これは、アップルが(モバイル)サファリで、広告ブロックを〝うっかり〟許可した戦略と同じではないか? 私にはこれらすべてが、特定の広告会社を優遇し、ニュース企業が自社のコンテンツの脇に誰のどんな広告を表示するのかを決める能力を、損なう方策に見える(おやおや、どこかのソーシャルメディアを思い出させないか?)

そして、こう指摘する。

シリコンバレーはついに、既存ニュース業界が守るべき基準を作り上げることで、ニュース業界から情報の配信を奪い取るという、重大な動きを見せたのだ。

これ以外にも、アンプに外部コンテンツを取り込むタグとして、グーグル傘下のユーチューブや、プロジェクトに参加するツイッターなどは早々と<amp-youtube><amp-twitter>として規格に盛り込まれているが、他のプラットフォームにどこまで対応するのかは明らかではない。

巨大プラットフォームは、それぞれにニュース配信の枠組みを提示する。

それらとうまく距離感をはかりながら、ジャーナリズムとビジネスをどう最適化できるか。メディア側の戦略とバランス感覚が問われる局面になってきそうだ。

●そして「広告ブロック」がまた一つ姿を消す

フェイスブック、アップルとグーグルのニュース配信のアプローチの違いは、前2社のアプリのクローズドな配信は、「広告ブロック」の影響を受けない点だと考えられてきた。

だが、アプリ内のデータも丸ごと自社サーバーを通し、広告を根こそぎ削除する新たな広告ブロックアプリ「ビーン・チョイス」が登場し、業界は一時、騒然とした

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確かに、スマートフォンとの間にVPN接続を張り、フェイスブックなどアプリ内の広告もすっかり削ぎ落として表示する、強力な「広告ブロック」だ。

だが、アップルは、これを含むアプリを「プライバシーの懸念」を理由にあっさりと削除したようだ。

ゲームの潮目は、日ごとに変わる。

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

Twitter:@kaztaira

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