揺らぐ「女性版ジョブズ」 メディアの寵児を生んだ〝シリコンバレーの方程式〟

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10/31/2015 by kaztaira

この数日、この人の名前と写真をニュースで目にしない日はない。

医療ベンチャー「セラノス」の創業者でCEOのエリザベス・ホームズさんだ。

会社の評価額90億ドル(1兆850億円)、150着持っているという黒のタートルネック姿の31歳は、「女性版スティーブ・ジョブズ」の呼び名もあり、シリコンバレーの成功物語を体現する新たなキャラクターとして注目を集めてきた。

同社のイノベーションとされたのは、「指先からの微量の採血で、200を超す血液検査が極めて短時間、安価にできる新技術」。

だが10月に入り、ウォールストリート・ジャーナルがその検査の信頼性に疑問を投げかける調査報道を掲載した。米連邦食品医薬品局(FDA)も、使用している採血管が「ほとんどの用途で未承認」との報告書を公表。「女性版ジョブズ」のイメージが大きく揺らぎ始めている。

●「タブロイド誌」

ウォールストリート・ジャーナルをこれまでタブロイド誌だと思ったことはなかったが、未亡人による(検証不能なまた聞きの)証言を引用するというのは、そんな不適切な領域に踏み込んだやり方だ。

ロサンゼルスの南東、ラグーナビーチで10月19日から3日間開かれたウォールストリート・ジャーナル主催のテックイベント「WSJDライブ」の最終日。

トレードマークのタートルネック姿で登壇したホームズさんは、うつむき加減の厳しい表情で、司会役の同紙テクノロジーエディター、ジョナサン・クリムさんに、そう述べた

話題はそのわずか6日前、ジャーナル紙が掲載したセラノスに関する調査報道だ。

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「血液検査技術で揺れる注目のベンチャー、セラノス」と題した3000語近い記事では、元社員らへの取材から、同社が独自開発したという検査機器は精度に問題があり、血液検査の大半はシーメンスなど外部から購入した従来型の機器で実施していた、などと指摘。

さらに記事の中では、同社で23の特許に携わった研究者(故人)が生前、「何もうまくいっていない、と私に語った」という未亡人の証言も盛り込んでいる。

WSJDライブでの発言は、この点を批判したものだ。

●150着のタートルネック

ホームズさんは、19歳でスタンフォードを中退。2003年にシリコンバレーのパロアルトにセラノス社を設立。

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1.29センチという錠剤ほどの採血管「ナノテイナー」と小さな針で、指先から微量の血液を採るだけで、240種類にも及ぶ多様な血液検査ができる、というサービスを打ち出した。

検査費用は安いもので1ドル台から20ドル前後。検査時間も数十分程度、という。

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これまでに4億ドル(480億円)の資金を調達。評価額は90億ドルで、その半分、45億ドル分の株をホームズさんが所有するという。

取締役もにぎやかだ

ニクソン、フォード政権時の国家安全保障担当補佐官、国務長官、ヘンリー・キッシンジャーさん、ニクソン政権の財務長官、レーガン政権の国務長官、ジョージ・シュルツさん、クリントン政権の国防長官、ウィリアム・ペリーさん、銀行大手ウェルス・ファーゴの元会長兼CEO、リチャード・コバセビッチさん、元上院議員のサム・ナンさんやビル・フリストさん、米疾病対策センター(CDC)の元所長、ウィリアム・フォージさんら、重量級が名を連ねる。

(ただ、ニューヨーク・タイムズによれば、今回の騒動を受けて、取締役会は12人から5人に縮小。キッシンジャーさんやシュルツさんらは退任となるようだ)

また、シリコンバレーを代表する一人、オラクル創業者のラリー・エリソンさんや、大手ベンチャーキャピタル「ドレイパー・フィッシャー・ジャーベットソン」が資金を提供しているという。

フォーブス400人」では今年は121位。タイムの「最も影響力のある100人」にも。

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オバマ政権の「グローバルアントレプレナーシップ」プロジェクトのアンバサダーにも今年、任命されている。

まさに、時代の寵児だ。

●寵児を形作るもの

ウォールストリート・ジャーナルの調査報道をきっかけに、その信頼性に影が刺す。

同社は即日、「本日のウォールストリート・ジャーナルの記事は、事実関係も科学的にも誤り」などとする反論のリリースを発表している。

だが、FDAは報道後の10月27日、今夏におこなった同社への立ち入り検査の報告書を公表

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採血管「ナノテイナー」はヘルペス検査についてのみFDAの承認を受けているが、その他の検査については未承認の医療機器であると認定。にもかかわらず、州外に流通させていると指摘している。

結局同社は、ヘルペス検査以外での採血業務を中断する事態となった。

この騒動以前にも、査読にかけるべき研究成果の論文が一切ないことなど、医療関係者の間では疑問の声が上がり、ビジネスインサイダーなど、それを報じるメディアもあった。

だが、時代の寵児の足元はそう簡単には揺らがなかったようだ。

●シリコンバレーの方程式

ホームズさんはいかにして、時代の寵児となったのか。

ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ジェームズ・スチュワートさんが、それをいわば〝シリコンバレーの方程式〟に当てはめて検証している。

その一つが、名門大学の中退。

ビル・ゲイツさん、マーク・ザッカーバーグさん(ハーバード中退)、ラリー・ペイジさん、サーゲイ・ブリンさん(スタンフォード院休学)など、〝ドロップアウト〟は一つのキーワードだ。

そしてホームズさんと言えば、タートルネック。

今年3月の「グラマー」誌のインタビューでは、これが8歳の時から着ているユニホームだとして、こう述べている。

(タートルネックを着ていると)気が楽。毎日同じものを着ていれば、それについて考える必要がなくなる。人生の心配事が一つ減ったということ。すべては仕事に集中できる。

「女性版スティーブ・ジョブズ」のイメージが、このファッションで定着したようだ。

そして、スローガン。

グーグルの「邪悪になるな」、フェイスブックの「世界をつなぐ」。

セラノスは、これだという。「誰もが急に〝さよなら〟と言わなくていい世界

小さな一滴がすべてを変える」というのもある。

加えて重量級の投資家と取締役メンバーと、巨額の資金調達と資産の評価額。

さらにTEDなどの舞台でのパフォーマンスや、華やかなメディア露出。

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なるほど。

〝シリコンバレーの方程式〟からは、確かに王道だ。

あとは、そのイノベーションが本物だったかどうかに、注目が集まる。

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

Twitter:@kaztaira

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