メディアとプラットフォームの離れられない関係。ユーザーは誰のものか?

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06/25/2016 by kaztaira

メディアにとって、ソーシャルメディアのプラットフォームは、もはやそれ抜きにはニュースコンテンツの配信を考えられないほど、大きな存在になっている。

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そしてプラットフォームにとっても、ユーザーが定期的に訪れ、エンゲージメントを深めるきっかけとして、メディアが継続的に配信するニュースコンテンツは不可欠だ。

ではユーザーにとって、ソーシャルメディアとニュースとは、どのような関係なのか?

さらに、ソーシャルメディアのプラットフォーム上で、メディアのニュースコンテンツを目にするユーザーは、一体誰のものなのか?

そんな興味深いテーマのイベント「分散環境におけるデジタルジャーナリズム」が21日、コロンビア大学ジャーナリズムスクールで開かれていた。


14日に公開されたオックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所の報告書「デジタルニュースリポート2016」を巡る議論と合わせて、コロンビア大学トウ・デジタルジャーナリズムセンターの新たな研究プロジェクト「プラットフォームとパブリッシャー」の紹介もある、濃厚な4時間のイベントだ。

●ジャーナリズムがやるべきこと

イベントの司会はトウ・センターの所長で、英ガーディアンでオンライン版の立ち上げやデジタル戦略を手がけたエミリー・ベルさん

ベルさんは、ソーシャル時代のジャーナリズムのあり方の議論を牽引する代表的な論客だ。

2012年には、メディア環境の激変に、ジャーナリズムがどう対応すべきかというグランドデザインをまとめた報告書「脱工業化ジャーナリズム―現在への適応」を公開。

この数年は、プラットフォーム企業が席巻するメディア空間で、ジャーナリズムがどのよな打ち手を取るべきか、というテーマに力を入れている。

※参照1「脱工業化ジャーナリズム」の提言
※参照2:シリコンバレーが握るメディア空間で、ジャーナリズムがやるべきことは何か

他の登壇者はロイター研究所の報告書をまとめたリサーチディレクターのラスムス・クライス・ニールセンさん。ダウ・ジョーンズの最高イノベーション責任者(CIO)、エドワード・ルーセルさん。米ハフィントンポスト編集主幹で、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストのソーシャルメディア/読者開発エディター、フェイスブックのニュースパートナーシップ長などを歴任したリズ・ヘロンさん。メディアアドバイザーで、ニューヨーク・タイムズのゼネラルマネージャー、NBCニュースの最高デジタル責任者(CDO)、ツイッターのニュース長などを歴任したビビアン・シラーさん

メディアとテクノロジーが交差する分野の、第一人者たちだ。

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●ソーシャルメディアがテレビを上回る

ソーシャルメディア利用とニュースコンテンツとは、どのような関係にあるのか。

欧米や日本を含む26カ国、5万人超を調査したロイター研究所の報告書でも、その点を取り上げている。

まず、ニュースの視聴先としてソーシャルメディアをあげたのは、26カ国の平均で51%。多くの国で、この割合は急速に伸びている。

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そして、ニュースの主な視聴先では、ソーシャルメディアは12%に留まるが、18歳~24歳の若者層に限ると、その割合は28%となり、初めてテレビの24%を上回ったという。

なぜ、ユーザーはニュースの視聴でソーシャルメディアを使うのか。

最も多いのは、「見逃しているかもしれないニュースの通知サービスとして」の60%。「多様なニュースソースにアクセスできる手軽な方法として」が50%、「コメントや共有がしやすい」が35%。

つまり”ニュースのワンストップショップ”になっているのだという。

中でもニュース利用の割合がず抜けているのがフェイスブックだ。用途を限らない利用率では67%、そしてニュース利用だけでも44%を占める。

ユーチューブ(19%)、ツイッター(10%)、ワッツアップ(8%)を大きく引き離す。

さらに、フェイスブックの”保守派排除”騒動でも注目されたニュースの選別について、アルゴリズムか人間か、の評価も聞いている。

※参照:フェイスブックの情報選別:〝偏向〟しているのは人間かアルゴリズムか

「自分の閲読履歴に基づく自動選別」が最も多く36%、次いで「編集者・ジャーナリストの判断」30%、そして、「友達の閲読データに基づく自動選別」が22%となっている。

自分の興味関心に基づいたパーソナル化が最も支持されているものの、アルゴリズムによるソーシャルな選別よりは、人間の判断による編集がなお上回っているということのようだ。

ただ、パーソナル化には、懸念も大きい。

「重要な情報を見逃す」が57%、「挑戦的な視点を見逃す」55%、「プライバシーへの懸念」48%。

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パーソナル化によって、目にする情報や視野がタコツボ化する”フィルターバブル“とプライバシーへの不安は、国境問わず高いようだ。

※参照:「フィルターバブル」はフェイスブックのせいではないのか?

●メディアにとってのプラットフォーム

では、メディアにとって、プラットフォームとはどのような存在なのか?

ハフィントンポストのヘロンさんは、「互いにメディアの生態系の一部」と位置づける。

ハフィントンポストの当初の成功はグーグルの台頭のおかけだし、その後はソーシャルメディアにシフトし、うまくいっている。生態系の中で我々の役割の次の進化は何か、ということを常に考える。プラットフォームは我々に価値を与えてくれる。プラットフォームなしには、世界中で今のような規模のオーディエンス(ユーザー)を獲得することはできなかっただろう。同時に、メディアとして我々もプラットフォームには価値を与えている。コラボレーターであり、パートナーだ。オーディエンスや未来の勝利をかけて戦う、ゼロサムゲームではない。

代表的な課金メディアであり、89万3000人のデジタルのみの購読者を擁するウォールストリート・ジャーナル。運営元のダウ・ジョーンズのラッセルさんは、プラットフォームはその課金戦略を推進する役割を担っている、という。

例えばスナップチャット。このプラットフォームは、我々がリーチに苦戦する18歳から25歳のオーディエンスをもたらしてくれる。この年代層を我々のブランドに取り込むことは、デジタル購読の未来にとって極めて重要だ。あるいはアップルの「ニュース」でコンテンツをサンプルとして体験してもらい、購読者になってもらう。フェイスブックも、最終的なゴールは、他ではリーチできない多様な人々に、購読者になってもらうことだ。そのためにこのプラットフォームを使っている。

シラーさんは、メディアとプラットフォーム双方での経験から、メディア関係者が、プラットフォームに主導権を握られることへの不安を持つのは当然だ、とも指摘する。

主導権を握られるという不安や危険は、現実的なものだ。プラットフォームのスケールやパワーを見れば、これが公平な戦いだとは言えないだろう。彼らは、世界の大部分の人々が使う有益なサービスを築き上げ、勝利を収めた。特に若い年代が集う場所になったが、メディアの側は、フェイスブックやスナップチャットのユーザーにリーチし、それを拡大する術をわかっているだろうか。

そして、プラットフォームの側にも、ニュースメディアを必要する理由があると言う。

プラットフォームはニュースが必要だ。それによって、ユーザーが1日に何度も戻ってきてくれるからだ。ただ、プラットフォーム側は、手の内は見せず優位にある。メディアにとっては、そこはブラックボックスだ。メディアがプラットフォームにコンテンツを置くのは、収益と成長、そして(メディア本体への)価値の環流が約束されている、と思っているからだ。ただ、それがどうなるかは、今のところはわからない。例えば、(フェイスブックの)インスタント・アーティクルズは、多くの人々が、素晴らしいアイディアでウィンウィンになり得ると思っているが、実際のところ、現時点で大部分のメディアは、それを手にしてはいないだろう。今は極めて不安定で、危険な状態だ。

●楽観論と悲観論

まさにこのテーマに焦点を絞ったのが、トウ・センターのベルさんたちの新しい研究プロジェクト「プラットフォームとパブリッシャー」だ。

その概要を、ベルさんがコロンビア・ジャーナリズム・レビューの「ニュースの消費者は誰のもの:ソーシャルメディア・プラットフォームかパブリッシャーか」でまとめている。

イベントでは、78枚のパワーポイントを、同センターのリサーチディレクター、クレア・ウォーデルさんが一気に説明していた。

研究チームでは、今秋に立ち上がる2年間の研究に先立ち、事前調査によって、その射程を明らかにしている。

この事前調査には、15人のソーシャルメディア/オーディエンスエディター、40人以上の報道機関のジャーナリストと経営陣、プラットフォーム企業5社の経営陣8人からの聞き取り、9つのメディアの12のプラットフォームへの配信コンテンツの分析、などが含まれるという。

メディアはニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、ウォールストリート・ジャーナル、BBCからハフィントンポスト、バズフィードまで。プラットフォームは、フェイスブック、ツイッター、グーグル、スナップチャット、インスタグラム。

この中でも、メディア側は楽観派と悲観派に見方が分かれているようだ。

例えば楽観派。

我々の世界への影響力は、より大きなインパクトを持つようになっている。これらのプラットフォームによって、幅広いリーチが獲得できたからだ。

一方のローカルメディアの悲観論。

我々はプラットフォーム間の戦争の巻き添え被害を受けている。彼らは互いに戦いを続け…いくつかのメディアに対してはある程度の約束をし、あるメディアにはチャンスを与えるだろうが、それ以外のメディアには、そんな配慮はない。

●ユーザーは誰のものか?

メディアからプラットフォームに対する、具体的な懸念も指摘されている。

一つはソーシャルメディアへの分散配信の環境では、ニュースブランドが匿名化してしまう危険性だ。

ブランディングのためにプラットフォームにコンテンツ配信をしているのに、誰も(我々のブランドを)認識すらしていないとすると、それは問題だ。もし、我々のブランドがスナップチャットのブランドにヒモづけられてしまうのなら、配信する意味がない。

さらに、プラットフォームからのデータの不十分さへの不満もある。

フェイスブック上では、自社サイトのように豊富なデータ分析ができていない。インスタント・アーティクルズでは、自社サイト上の記事のように、読者の滞在時間やエンゲージメントのデータをつないでいくことができないのだ。

また、突然のアルゴリズム変更に対する不安も語られている。

(プラットフォームでは)数多くの不可解な出来事が起きている。そのため、アルゴリズムが我々の送り出すすべてのコンテンツをどう扱っているのかを、いち早く読み解くよう常に警戒している必要がある。それを解読することにかけては、だいぶうまくなったが、それでも彼らはアルゴリズムの変更を続けているのだ。

そして、プラットフォーム上でメディアのコンテンツを読むユーザーは、一体誰のものか、という疑問の声もメディア側から上がっている。

結局、ユーザーとの関係を握っているのは誰なのか、というところにすべて行き着く。それはフェイスブックか、それとも我々か? 広告チームが何を表示するか、マーケティングやプロダクトのチームが、コンバージョンのフックになる、どんなものを組み込めるのか。すべてはそこにかかってくる。すなわち、誰がユーザーとの関係とデータをコントロールしているか、にかかってくるのだ。

ただ、これに関してはネットの論客、ニューヨーク市立大学教授でブロガーのジェフ・ジャービスさんが、鋭い突っ込みを入れている。

消費者は誰のものでもない。メディア業界が(消費者を)”所有”していると思っているなら、それは我々が思い上がっていること、そしてサービスに失敗していることの証しだ。

●プラットフォームの不満

ベルさんたちは、プラットフォーム側のメディアに対する不満や距離感もはっきりと位置づけている。

メディアが探しているのは、月ロケット打ち上げ(のような大ホームラン)だ。彼らはすべてのプラットフォーが、そのためのソリューションに変わって欲しいと思っているのだ。

プラットフォームに対する、理解不足への指摘もある。

“ソーシャルメディア”という同じバケツに入れられてはいるのだが、プラットフォームは二つとして同じものはない。研究者はニュースについては、ネットワーク局とケーブル局、新聞対オンラインと区別する。だが我々はみんな、ただ”ソーシャルメディア”というラベルしかない。

一方で、メディアとのコラボレーションに向けた積極的な声も。

むしろ一緒に進むべき道を見つけたい、という思いが強い…我々は同じ部屋の中にいるのなら、そのチャンスを生かし、一緒にメリットを生み出す、より多くの可能性があることを示す必要があるのだ。

●ソーシャルメディアへの出し方

ユーザーへのリーチを最大化するか、課金購読契約(コンバージョン)を最大化するか。

メディアのビジネスモデルの違いは、ソーシャルメディアの位置づけ、コンテンツの出し方にも特徴的に現れているようだ。

ベルさんたちは、今年4月25日から5月1日までの1週間の、各メディアのソーシャルメディアへの配信本数を比較している。

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それによると、リーチ最大化戦略のCNNは、配信総数が2046本。このうち6割近い1169本をアップル・ニュースに配信。ツイッター(274本)、ユーチューブ(240本)と続き、フェイスブックのインスタント・アーティクルズは159本、通常のニュースフィードあ91本となっている。

これに対し、課金メディアのウォールストリート・ジャーナルは、配信総数が1050本とCNNの半分。うち4割がツイッター(430本)、3割がフェイスブックのニュースフィード(322本)で、アップル・ニュースとスナップチャット・ディスカバーがそれぞれ43本、インスタント・アーティクルズが34本だった。

分析した9メディアを比較すると、CNNとワシントン・ポストが、配信総数、さらにアップル・ニュースへの配信数で突出している。

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ただ、ツイッター、フェイスブックへの配信のボリュームは、ほぼ共通しているようだ。

●”フレネミー”からの前進

メディアから見た、プラットフォームの位置関係を表現するのに、以前から”フレネミー(友であり敵)”という言葉が使われてきた。

友だちの「フレンド」と敵の「エネミー」の合成語で、片手で握手をしながら、もう一方の手で殴り合っているようなイメージだ。

抜き差しならない関係ながら、警戒感も色濃くにじむ。

当初はグーグルの呼び名のように使われていたが、今やいたる所に”フレネミー”はいる。

この位置関係から、前に進めるのかどうか。

◆ロイター研究所の報告書については、田中善一郎さんが、日本のメディア環境の特殊性にポイントをあてて、まとめている。

※日本人のニュースメディア接触、先進国の中で際立つ特異性、ロイター調査が浮き彫りに(メディア・パブ)

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

Twitter:@kaztaira

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