トランプビデオ、クリントン講演録、そして「サイバー攻撃はロシアの選挙妨害」【更新2】

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10/08/2016 by kaztaira

9日夜(日本時間10日午前)に開かれたクリントン、トランプ両氏による2回目の米大統領選候補者テレビ討論会

応酬の焦点は、”トランプビデオ”と”クリントン講演録”だった。

そのきっかけは2日前にあった。

7日の金曜日、ワシントン・ポストは、トランプ氏が2005年、テレビ番組収録前に、「スターなら女性は何でもやらせてくれる」などと、女性蔑視の下品な言葉遣いで自慢げに話していたことが、当時のビデオで明らかになった、と報じる。

トランプ氏は釈明のビデオを公開したが、この「わいせつ会話」をきっかけに共和党内で、”トランプ降ろし”の動きが一気に加速する。

そしてこの日、米国家安全保障省と米国家情報長官室は、米民主党全国委員会などへの一連のサイバー攻撃が、ロシア政府による米大統領選の妨害を目的としたものである、との名指しの非難声明を公表した

※参照:米大統領選、ロシアハッカー、ウィキリークス:米民主党メール流出の裏で何が起きているのか

サイバー攻撃とロシア政府とのつながりは、すでに専門家などから指摘されていたことではあるが、今回は米政府による公式の非難だ。

トランプ氏は、会見の場で「ロシアよ、(クリントン氏の)消えた3万通のメールを探してくれないか」と発言するなど、その立ち位置は自ら認めるところでもある。

米政府の名指しに対して、ロシア政府は当然のように関与を否定した。

そして非難声明の数時間後、まるでその”反撃”のようにクリントン陣営幹部の2000通のメールがウィキリークスで公開された。

その中に含まれていたのが”クリントン講演録”だ。

これは、クリントン氏がこれまで公開を拒否し続けてきた、ウォール街の関係者向けに行った1回22万5000ドル(2300万円)という高額の講演の抄録だ。同氏と金融界の関係を印象づける。

大統領選の最終盤、”場外乱闘”も目まぐるしさを増している。

●テレビ討論会での応酬

現地時間で9日午後9時(日本時間10日午前10時)に始まった第2回のテレビ討論会は、”トランプビデオ”と”クリントン講演録”に注目が集まった。

司会役の1人、CNNキャスターのアンダーソン・クーパー氏がこう切り込む。

あなたは女性に対して性的暴行を行った、と自慢しているんです。わかってますか?

トランプ氏はこう釈明する。

あれがどういう話だったのかわかっていない。ロッカールームも雑談のようなものだ。誇れるようなものではない。私の家族に謝罪するし、米国民に謝罪する。誇れるものではないが、単なるロッカールームの雑談なのだ。

だが、話は「イスラム国(ISIS)」との戦いへと飛び、論旨は混沌としてくる。

一方のクリントン氏には、もう1人の司会役、ABCニュースのジャーナリスト、マーサ・ラッダーツ氏。

ウィキリークスが暴露した”クリントン講演録”には、中産階級の味方を標榜するクリントン氏が、金融業界に甘い顔を見せていたことが記されていた。

ラッダーツ氏は「政治家が二つの顔を使い分けてもよいのか?」とのネットの質問をぶつける。

クリントン氏は、スピルバーグ監督の映画「リンカーン」で、リンカーン大統領が議論を使い分けて説得を測る場面を引き合いに出す。「大統領は偉大なリーダーシップを発揮したと思う」と。

さらにウィキリークスのメール暴露とロシア政府はつながっているとし、米大統領選を妨害しようとしている、との米政府の共同声明に言及。講演そのものには触れず、論点をサイバー攻撃へと移す。

我々は歴史上初めて、敵対的な外国勢力が大統領選の結果に影響を及ぼそうと、懸命に活動している状況の中にある。信じてほしいが、彼らは私を当選させるためにやっているのではない。彼らは選挙がドナルド・トランプに有利になるように動いているのだ。

●「わいせつ会話」ビデオ

この2日前に何が起きていたのか。

まずは、トランプ氏の「わいせつ会話」ビデオだ。

このビデオの存在は、7日の午前11時、情報源からワシントン・ポストの大統領選担当、デビッド・ファレントホールド記者に電話で知らされ、その日の夕方には記事が公開されたという。

これは2005年、トランプ氏がNBCユニバーサルの番組「アクセス・ハリウッド」に出演した際、本番前にパーソナリティのビリー・ブッシュ氏と交わした会話をおさめたもので、これまで未放映だったものだという。

ビリー氏は、ジョージ・W・ブッシュ元大統領のいとこにあたるようだ。

ビデオの中でトランプ氏は、既婚女性に性的関係を迫ろうとした場面を「スターならやらせてくれる。何でもできるんだ」などと自慢げに語り、4文字言葉を交えて、女性蔑視の表現も口にしている。

あまりの下品さに、共和党内の衝撃も大きく、「多くの共和党員にとっての限界点」(ニューヨーク・タイムズ)との見立ても相次いでいる。

●「ロシア政府の指揮と確信」

そしてこの日、今回の大統領選に絡んで、こんな米政府声明も出されていた。

米国のインテリジェンス(情報機関)・コミュニティ(USIC)は、近時の米国の政治団体を含む米国の市民や組織の電子メール漏洩が、ロシア政府の指揮によるものと確信する。DCリークスやウィキリークスなどのサイト、ネット上でグシファー2.0と名乗る人物らが、ハッキングで入手したと称して電子メールを公表している手口や動機は、ロシア指揮下の事案と一致するものである。

米国家安全保障省と米国家情報長官室の共同声明は、そう明言している。さらにこう述べる。

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これらの窃盗と公開は、米国の(大統領)選挙の手続きを妨害する意図をもって行われている。モスクワのこのような活動は目新しものではない――ロシアは同様の戦術や手法を、例えば欧州やユーラシアで、世論への影響を狙って用いてきた。我々は、攻撃の範囲、重要度に鑑み、ロシア政府の最高幹部のみが承認しうる作戦と考える。

●民主党へのサイバー攻撃

声明が触れているサイバー攻撃と電子メール漏洩事件の一つが、今年6月に明らかになった米民主党全国委員会をめぐる事件だ。

同委員会のサーバーへのサイバー攻撃で、共和党の大統領選候補トランプ氏に関する調査ファイルや、内部の電子メールが流失したという。

ネットセキュリティ会社「クラウドストライク」の調査で、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の指揮下にあるとされる「ファンシーベア(別名APT28)」と、ロシア連邦保安庁(FSB)の指揮下にあるとされる「コージーベア(別名APT29)」という、2つのハッカーグループによるサイバー攻撃の痕跡が確認されたようだ。

サイバー攻撃発覚に続く7月、まずウィキリークスが民主党の内部メール約2万通を公開する

この中には、民主党全国委員会のデビー・ワッサーマン・シュルツ委員長が、民主党の大統領候補を争ったサンダース氏について「大統領にならない」などと否定的に述べたメールが含まれていたことから、全国大会開幕前日、7月24日に急きょ辞任するという一幕もあった。

さらに、民主党のトランプ調査ファイルを暴露したのが「グシファー2.0」と名乗る人物のサイトだった。自称ルーマニア出身のこの人物は、民主党へのサイバー攻撃は自分1人で行った、と述べていた。

だが、ネットセキュリティ会社「スレットコネクト」は、「グシファー2.0」にそのような技術力はなく、ロシアの情報機関による陽動作戦ではないか、と見立てた。

また、共同声明が名前をあげる「DCリークス」は、9月に元国務長官のコリン・パウエルさんの「トランプ氏は国家の恥」「クリントン氏は欲深い」などとした流出メールを暴露したことで知られ、「ルシファー2.0」との関連も指摘される。

そして「スレットコネクト」は、「DCリークス」もロシア情報機関系グループ「ファンシーベア」と技術的な特徴が一致する、と分析している。

●ロシアによるサイバー攻撃

共同声明は、ロシア政府はこれまでに同様の手口で欧州などでもサイバー攻撃を行ってきた、と指摘する。

ドイツでは昨年、連邦議会がサイバー攻撃を受け、さらにフランスではテレビ局「TV5モンド」への攻撃もあった。また、ウクライナでは大規模攻撃「サンドストーム」により、電力網に障害を及ぼす事態となった。
今年5月、ドイツの情報機関、連邦憲法擁護庁(BfV)のハンス・ゲオルク・マーセン長官は、これら一連の攻撃がロシアによるもの、として批判声明を出している。

これらの攻撃は、その手口から「ファンシーベア/APT28」によるものと見られている。

この他にも、昨年にはホワイトハイスに対するサイバー攻撃や、国務省統合参謀本部への攻撃もあったが、これらはもう一つのグループ「コージーベア/APT29」によると言われる。

●標的は大統領選

グラッパ-国家情報長官はすでに今年5月、米大統領選がハッカーの標的になっていると述べている。ただ、具体的な内容については明らかにしていなかった。

今回の共同声明では、いくつかの州で、選挙関連システムに対して、サイバー攻撃の下準備にあたるプローブ(事前探査)の形跡があった、としている。ただ、実際の投票システムはネット接続はされておらず、国家レベルの攻撃にも影響は受けない、と述べている。

ロシア政府は早速、否定のコメントを出したようだ。

ワシントン・ポストなどによると、ロシアのペスコフ大統領報道官は、こう述べているという。

何ともナンセンスな話だ。プーチン大統領のサイトは日々、何万ものハッカーから攻撃を受けている。その攻撃を追跡すれば、多くは米国内に行き着くだろう。だからといって、サイバー攻撃があるたびに、我々はホワイトハウスやラングレー(CIA)を非難したりはしない。

●クリントン氏へのしっぺ返し

ロシア政府を名指しした非難声明から数時間後、タイミングをはかったかのように、ウィキリークスで新たなメール暴露が行われた。

クリントン陣営側近、ジョン・ポデスタ選挙対策本部長の2000通に及ぶ流出メールだ。

火だねは、この中に、これまで陣営が公開を拒否してきた、クリントン氏による金融業界向けの非公開有料講演の記録があったことだ。

ニューヨーク・タイムズなどによると1回の講演料は22万5000ドル。

夫のビル・クリントン氏の大統領退任以後、ヒラリー・クリントン氏が金融業界や関連業界向けに行った講演の料金の総額は1億2000万ドル(123億円)にのぼるという。

明らかになった講演記録には、2008年のリーマンショックについて米国の金融制度を非難するのは「単純化がすぎる」などと金融業界へのリップサービスのような言葉が並び、中産階級の味方という、大統領選でのポジションとのギャップを印象づける。

●禁じ手なしの選挙

“トランプビデオ”は、そもそもNBCが収録したものだ。

それがワシントン・ポストに持ち込まれ、公開。NBC自身がこのニュースを報じたのは、ポストから5時間ほど遅れた7日夜になっている。

なぜNBCは、自らの手元にある”トランプビデオ”を最初に報じなかったのか――それもまたニュースになるという展開だ。

それに加えて、”外国政府の指揮”によるサイバー攻撃が、選挙戦を特徴づけるという、禁じ手無しの状態だ。

次回19日夜(日本時間20日午前)が、最後のテレビ討論会となる。

クライマックスに向けて、さらなるシナリオがあるのかもしれない。

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

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