デマニュースはロシアのプロパガンダか、カネのなる木か

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11/27/2016 by kaztaira

ワシントン・ポストが、米大統領選をめぐるデマニュース問題の背後には、ロシアのプロパガンダ戦略があった、とする2つの調査チームの報告を伝えている

米国政府はすでに投開票日の1カ月前、大統領選期間中に発覚した民主党本部へのサイバー攻撃などを、ロシア政府による選挙妨害と認定する声明を発表している。

それらに加えて、注目が集まっているデマニュースについても、改めて選挙妨害を狙ったロシアの関与が伺える、と2つの報告は述べている。

だが、調査チームの1つはメンバーの名前が一切公開されていない匿名グループ。具体的な調査方法やデータも不明で、ジャーナリストらから、この報道そのものに批判の声が上がっている。

デマニュースを指摘するニュース自体には、デマは紛れ込んでいないのか、というよりややこしい問題だ。

一方、ニューヨーク・タイムズやNPRなどのメディアが、デマニュースの発信者のインタビューを次々に掲載。それらの当事者たちは、ロシアとの直接のつながりはなさそうで、むしろ”カネのなる木”としての側面が強いようだ。

ただ、大西洋の対岸を席巻したデマニュース、サイバー攻撃騒動は、来年、選挙を控えるフランス(大統領選)、ドイツ(連邦議会選挙)などEU各国にとっても他人事ではない。

欧州議会は23日、ロシアの”プロパガンダ”とサイバ攻撃を非難する決議を可決している。

欧米を覆うポピュリズムの嵐に、ロシアの存在が影を落としているのは、間違いなさそうだ。

●7000アカウントをトレース

ワシントン・ポストのテクノロジー担当、クレイグ・ティムバーグさんは24日、「ロシアのプロパガンダ戦略が大統領選における”デマニュース”の拡散を後押し、専門家が指摘」と題する記事を掲載した。

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記事が紹介しているのは、2つの調査チームによる、今回の米大統領選におけるデマニュースやサイバー攻撃と、ロシアとの関わりだ。

その1つは、保守系の米シンクタンク「外交政策研究所(FPRI)」フェローのクリント・ワッツさんらが、投開票日の2日前に公開した報告「トランプのためのトロール(荒し):ロシアはいかにして我々の民主主義を破壊しようとしているか」だ。

ワッツさんは米陸軍や連邦捜査局(FBI)でテロ対策に携わってきた経歴を持つ。

報告よると、ワッツさんらは2014年から、ロシアによる情報戦活動を追跡。過去2年半で計7000の関連ソーシャルメディアアカウントをモニターしてきたという。

その中から、冷戦時代のソ連が使った偽情報の流布による情報戦”積極工作(active measures)”を、ソーシャル時代にアップデートした手法などが確認できた、という。

具体的には、実質的なロシアの国営メディアである「RT」やその傘下の「スプートニク」を経由して、デマニュースを拡散させている、と述べる。

その例として、「RT」が今年8月、クリントン氏の健康不安説を伝えた記事を挙げる。記事は、トランプ次期大統領の首席戦略官・上級顧問スティーブン・バノン氏が会長を務めていた保守派サイト「ブライトバート・ニュース」などの情報を引用した内容だった。

さらに、これらの情報戦に、サイバー攻撃によるメール流出などが加わる、と言う。

ただ、調査対象となった7000アカウントのより詳細なデータや、”情報戦”の具体事例は明らかにされてはいない。

●匿名の専門家グループ

ティムバーグさんが紹介するもう1つのグループは、「プロップオアノット(プロパガンダか否か)」というサイトを運営する。

25日付で、ポストが紹介した報告「ブラックフライデー・リポート:ロシアのプロパガンダ・ネットワークのマッピングについて」を公開している。

ポストの記事では、外交、軍事、テクノロジーなどの分野の専門家の集まりだというが、責任者は「ロシアのハッカー集団によるサイバー攻撃の標的にされることを避ける」との理由から匿名でコメント。”30人を超す米国人”という以外、32ページの報告の中でもグループのメンバーの身元を明らかにしていない。

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また、この調査ではクワントキャストアレクサシミラーウェブバズスモーといった一般的な分析ツールや独自開発のツールを使用。プロパガンダのネットワークをマップ化したのだという。

グループは、プロパガンダの拡散に関わる特徴的な200以上のサイトを特定。大統領選期間中の米国での読者は1500万人。フェイスブック上に配信されたデマは、計2億1300万回閲覧された、と推計する。

ただ、このサイトの選定にあたっては、動機が政治的目的か金銭的目的かは考慮しておらず、プロパンダ拡散に関与しているかどうかのみで判断したという。

このため、実際にはロシアからの直接的な指示や報酬はないかもしれず、本人たちも気付かずにプロパガンダに利用されている、いわゆる”役に立つ馬鹿(useful idiot)”である可能性もある、と述べる。

ただ、同種の先行研究や報道のなどの紹介が大半を占め、今回の大統領選に絡む事例としては、親ロシアのプロパガンダサイトを起点とした”クリントン氏パーキンソン病”のデマの拡散経過をたどったデータ紹介にとどまる。

ポストの指摘に対して、RTのコミュニケーション部長、アンナ・ベルキナさんは、このようなコメントで反論している。

“デマニュース”についての記事が、虚偽の、根も葉もない主張に基づいてつくられているというのは、皮肉の極みだ。RTは、米国の選挙に関してたとえ1本でも”デマニュース”の発信源になったとの、あらゆる主張を断固として認めない。

この2つの報告は、ニューヨーク・タイムズの安全保障担当、デイビッド・サンガーさんも25日付の記事の中で取り上げている

「プロップオアノット」はこちらでも匿名だが、安全保障やインテリジェンス専門家に加えて、グーグルなどのIT企業の職員らが含まれている、とやや具体的な説明がある。

ただ、サンガーさんは、実際にロシア政府による指示があったのかは「わからない」と結論づけている。

●匿名への批判

この2つの報告は、肝心の責任者が匿名だったり、データに乏しかったりと、どうも歯切れが悪い。

そして、フォーチュンのテクノロジー担当、マシュー・イングラムさんは、25日付の「あなたが目にするすべのデマニュースの背後にロシアの工作員がいるわけではない」と題した記事で、ポストの記事に反論。

特に、ネット上の痕跡も、今夏からしか存在しない正体不明の専門家グループ「プロップオアノット」に疑問を投げかける。

さらに、ロシアのプロパガンダネットワークとして挙げられた200サイトの中には、左派メディアとして認知度もある「カウンターパンチ」や「トゥルースアウト」なども含まれている、と指摘。

さらにサイトの「協力者」欄に記載されていた検証サイト「ベリングキャット」を運営するのエリオット・ヒギンズさんが、「プロップオアノットなんて、ポストの記事が出るまで聞いたこともないし、協力者呼ばわりすることを許可したこともない」と表明していることを紹介している。

※参照:ゲーマーがピュリツァー賞記者を否定する

ただ、この批判を受けてだろう、「協力者」欄は、後から「関連プロジェクト」と書き換えられていた。

またイングラムさんは、報告が指摘する”役に立つ馬鹿”のように、本人たちがプロパガンダに気付いていないアカウントまで”ネットワーク”に含めるとなると、線引きはかなり曖昧になってしまうと指摘する。

問題は、理論的には(釣り、煽りなど)クリックベイトな見出しのニュースを共有している、あらゆるソーシャルメディアのユーザーが含まれてしまうことだ。

さらに、イングラムさんはこう述べる。

報告が言おうとしているのは、中身を読まずにただ共有しようとするソーシャルウェブの性質に、ロシアがつけ込んでいる、ということだけだ。その通りかもしれないが、それならすべての他のメディアもそうなる。

しかも、200サイトのリストの中には、月間15億ページビューという人気の右派サイト「ドラッジリポート」も含まれており、それが”プロパガンダネットワーク”の影響力の見積もりを確実に水増しさせている、と言う。

イングラムさんだけではない。

スノーデン事件をスクープしたジャーナリストで、「インターセプト」の共同編集長であるグレン・グリンワルドさんらも「ワシントン・ポストが、新たな、匿名の、極めて怪しいグループによるマッカーシー的なブラックリストを宣伝するという醜態をさらす」と題した記事で、こう指摘している。

ポストが宣伝したこのグループは、(”赤狩り”の)ジョセフ・マッカーシーの有毒なエッセンスを体現したものだ。ただし、自分たちの名前をそのブラックリストに記載する勇気もなしに。
(中略)
ポストは誇るべきだろう:その記事の主要部分を、確認もされず、検証のしようもない、このバカげた団体の主張に依拠したことを。

●サイバー攻撃と電子メール

デマニュースとは別に、大統領選期間中に、米国の関係機関がサイバー攻撃に見舞われていたことは、事実として明らかになっている。

今年6月、民主党全国委員会(DNC)へのサイバー攻撃によって、電子メールなどの文書が流出した事件は大きな注目を集めた。

調査にあたったセキュリティ会社「クラウドストライク」は、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の指揮下にあると見られている「ファンシーベア(別名APT28)」と、ロシア連邦保安庁(FSB)との関係が指摘される「コージーベア(別名APT29)」という、2つのハッカーグループによるサイバー攻撃の痕跡を確認した、という。

※参照:米大統領選、ロシアハッカー、ウィキリークス:米民主党メール流出の裏で何が起きているのか
※参照:トランプビデオ、クリントン講演録、そして「サイバー攻撃はロシアの選挙妨害」

やはり6月、アリゾナ州などの選挙システムがロシアのグループによるサイバー攻撃の標的になっている、として米連邦捜査局(FBI)が警告を出した経緯もあった。

さらには、米国家安全保障省と米国家情報長官室は10月初めに共同声明を出し、「電子メール漏洩が、ロシア政府の指揮によるものと確信する」と名指しで非難。大統領選妨害の意図がある、と指摘している。

これらの窃盗と公開は、米国の(大統領)選挙の手続きを妨害する意図をもって行われている。モスクワのこのような活動は目新しものではない――ロシアは同様の戦術や手法を、例えば欧州やユーラシアで、世論への影響を狙って用いてきた。我々は、攻撃の範囲、重要度に鑑み、ロシア政府の最高幹部のみが承認しうる作戦と考える。

ロシア政府が米大統領選に無関心ではなかったことは、伺える。

●デマニュースの当事者たち

一方で、メディアは次々にデマニュースの発信者たちのインタビュー記事を掲載している。

すでに、マケドニアの10代の少年たちが、広告料収入獲得の目的で、大量のトランプ支持のデマニュースサイトを配信していることが、ガーディアンのダン・タイナンさんや、バズフィードのシルバーマンさんらの調査で明らかになっている。

ワシントン・ポストのケイトリン・デューイさんも、デマニュースサイトの運営者として知られるポール・ホーナーさんへのインタビューを掲載している。

それらに加え、ニューヨーク・タイムズのアンドリュー・ヒギンズさんらは、旧ソ連のジョージアの首都トビリシからトランプ氏支援のデマサイトを発信していた22歳の青年の姿を描く。

NPRも、「クリントン氏流出メール担当のFBI捜査官、無理心中」という広く拡散したデマニュースを流したサイト“デンバーガーディアン”の運営者を、ロサンゼルス郊外で探し当て、インタビューをしている。

いずれのケースでも、濃淡はあるものの、デマ配信の動機には、サイトに集まる決して少なくない広告収入が絡んでいた。

ただ、選挙後、トラフィックは右肩下がりのようだ。

ニューヨーク・タイムズの記事に登場するトビリシの青年は、記者に近く選挙はないかと尋ねる。来春、トランプ氏のような極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が出る、フランスの大統領選がある、と聞いて、こう話している。

ちょっとフランス語を勉強しなきゃいけないかもしれない。

●EUの懸念

欧州議会は11月23日、ロシアおよびイスラム過激派によるEUを標的にしたプロパガンダ、サイバー攻撃について、警戒を呼びかける決議を賛成多数で可決した。

決議は、ロシアによるプロパガンダやデマが、EU統合の障害になっているとして非難している。

(欧州議会は)EUの統合プロセスを破壊しようとするロシアに対し、断固たる非難を表明する。ロシアが、EU内の極右政党やポピュリスト勢力、自由民主主義の基本的な価値を否定する運動を支援している点を、特に非難する。

EUでは、2017年春にはオランダの議会選挙、フランス大統領選、さらに秋にはドイツの連邦議会選挙を控えている。

ドイツのメルケル首相は、米大統領選の投開票日にあたる11月8日、ロシアによるサイバー攻撃とデマの流布が、来年のドイツ総選挙に影響を与えかねない、と述べている。

我々はすでに、今現在、ロシアから送り出される情報、ロシアを起点としたサイバー攻撃、デマをまき散らすニュースに対処する必要がある。

EUでは昨年、ドイツ連邦議会へのサイバー攻撃や、フランスのテレビ局「TV5モンド」へのサイバー攻撃があり、今年5月にはドイツの情報機関、連邦憲法擁護庁(BfV)のハンス・ゲオルク・マーセン長官が、ロシアの「ファンシーベア/APT28」によるもの、と非難声明を出している。

EUの懸念には、それなりの根拠はありそうだ。

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

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