広告モデルの行き詰まりを課金は支えられるのか:2018年、メディアのサバイバルプラン(その1)

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01/03/2018 by kaztaira

広告モデルは行き詰まりが明らかになり、「課金(ペイウォール)」などの収益多角化を迫られるメディア。だが、収益ベースをユーザーにシフトさせるために、まず求められるのは「信頼」そして「価値提供(バリュープロポジション)」――。

メディアサイト「ニーマンラボ」が特集している「2018年のジャーナリズム予測」から見えてくるのは、そんなキーワードだ。

メディア業界の識者らが新年のジャーナリズム動向を見通すこの特集。スタート当初の「2011年版」は、寄稿も21本と控えめだったが、年々規模を拡大し、「2018年版」の寄稿は実に176本。すべて目を通すのに、数日を要するボリュームだ。

収益モデルの再構築という大きなトレンドの中で、どの立ち位置を、どう取るのか。数回に分けて、見ていく。

●広告モデルの行き詰まり

デジタル広告はジャーナリズムビジネスにとって、頼りにならない厄介な収入基盤となってしまった。賢明なメディアの多くは、デジタル広告に代わる、あるいはそれに加えた収入の道を積極的に探り始めている。このトレンドは、さらに続くだろう。

メディアベンチャー「カナビス・ワイヤー」の共同創設者、ヌーシン・ラシディアン氏はそう述べる。

2017年を通して明らかになったのは、メディアの収益の基盤を広告に依存するモデルが、行き詰まりを見せていることだ。

※参照:「スケールか死か」米メディアで起こる地殻変動

それを印象づけたのは、ウォールストリート・ジャーナルが2017年11月に相次いで伝えた、人気ニュースサイト「マッシャブル」の身売りと、ソーシャルメディアでの拡散に注力する「分散型メディア」米バズフィードの不振だ。

ジャーナルは、マッシャブルが、クラウドサービスのJ2グローバル傘下でPCマガジンなどを持つジフ・デイビスに約5000万ドルで売却されることで合意した、と報じた。

この買収額は、2016年3月、タイムワーナー傘下のターナー・ブロードキャスティングによる1500万ドル出資の際の評価額2億5000万ドルの5分の1の金額だ。

さらにジャーナルは同じ日、米バズフィードが、今年の売り上げ目標3億5000万ドルを15~20%下回る見通しで、2018年に予定されていた新規株式公開(IPO)は繰り延べになるとの観測を報じた。金額にすれば、5000~7000万ドル程度、見通しを下回る計算になる。

このほかにも、やはり同じ日、米ヤフー買収によりAOLなどのコンテンツ部門を統合したベライゾンの「オース」でも、560人のリストラが進行中、と報じられるなど、ネット広告に依存するメディアの苦境は、業界の各所で指摘されている。

●グーグル、フェイスブックの壁

フェイスブックとグーグルがプラットフォームだとすれば、ジャーナリズムが自立して成長できるような手立てを、インフラとして用意するべきだ。彼らがメディアだとするなら、そのプラットフォームから配信するジャーナリズムに対して直接、資金提供をすべきだ。

ニューヨーク・タイムズのデジタル担当役員、キンゼイ・ウィルソン氏は「予測」の中で、そう指摘する。

広告モデルの行き詰まりの背景として指摘されるのが、デジタル広告市場における、グーグルとフェイスブックによる複占状態だからだ。

「イーマーケター」の見通しでは、米国市場における2017年のデジタル広告費は16%増の830億ドル。

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このうち、グーグルが350億ドル、フェイスブックは173億ドル。この2社だけで、市場全体の63%を占めることになる。

デジタル広告費は今後も13%弱で成長すると見込まれている。

だが、デジタル市場が拡大したとしても、その拡大分の9割前後(2017年は93%、2018年は85%)を、グーグルとフェイスブックの2社で取り込んでしまう計算になる。

グーグル、フェイスブックの市場占有率は2018年66%、2019年68%と、拡大傾向にある。

その他のプレーヤーが、デジタル広告市場で大きく規模を拡大する可能性は、当面なさそうだ。

グーグル、フェイスブックによる複占と、広告収入以外の収益多角化の必要性は、ほかならぬ米バズフィードCEOのジョナ・ペレッティ氏が2017年12月、社内向けメモで指摘したところでもある。

メディア業界は危機にある。グーグルとフェイスブックは広告収入の大半を手にしながら、コンテンツのクリエイターには、ユーザーに届ける価値に比べてごくわずかの金を支払うだけだ。

そして、こう述べている。「我々は、広告ビジネスを補完するための収益多角化モデルの構築を続けていくのだ」

●広告主優先から読者優先へ

収益の多角化は、「予測」の中でも異口同音に指摘されている。

中でも、まず挙げられるのが、コンテンツ課金(ペイウォール)だ。

ニュース業界は、その主要な収益モデルとして、当初の広告依存から脱しつつある。メディアは、広告主へのセールスを最優先にするのではなく、読者へのサービスに集中するようになる。この数十年の中で初めて、いくつかの大手報道機関で、今や読者からの収益が、広告主からの収益を上回っている。このビジネスモデルのピボット(方向転換)は、高く評価すべきだ。

ウォールストリート・ジャーナルの元発行人で、課金プラットフォームベンチャー「プレス+」なども手がけてきたゴードン・クロビッツ氏は、そう述べる。

クロビッツ氏は現在、フェイクニュース対策として、メディアの格付けに取り組むベンチャー「ニュース・ガード」共同創設者の肩書きを持つ。

そのトップランナーとして注目を集めるのは、2011年3月末以来、デジタル課金に注力するニューヨーク・タイムズの急伸ぶりだ。

当初目標の100万人を、4年後の2015年7月末に達成

そして課金の追い風となったのは、皮肉にも、メディアへの攻撃を続けるトランプ大統領の誕生だ。メディア業界では「トランプ景気(バンプ)」と呼ばれる。

タイムズが2017年11月に発表した第3四半期の決算では、デジタル購読数は249万人(9月末現在)。米大統領選最終盤の2016年9月(156万人)比で59%増。この1年だけで、100万人近く積み増している。

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クロビッツ氏の言うように、かつて広告収入が6割以上を占めていたタイムズも、この決算では購読料収入まが64%を占めている。

タイムズのマーク・トンプソンCEOはすでに2016年12月、「1000万デジタル購読獲得」を掲げているが、徐々にリアリティが出てきた。

ワシントン・ポストも、実数は明らかにしていないが、やはり同年9月の社内メモで、デジタル購読数100万人を突破し、前年比3倍、年初からでも倍増したことを明らかにしている。

ウォールストリート・ジャーナルは、2017年9月末現在でデジタル購読数は132万。前年比35万人、36%の増加となっている。

新たなデジタル課金導入の動きも、2017年の年末にかけて次々と明らかになった。

1994年に史上初のバナー広告をスタートさせた業界の草分け「ワイアード」も、2018年からメーター制のデジタル課金を導入する、とウォールストリート・ジャーナルが報じている。

1857創刊の老舗「アトランティック」も、やはり2018年からメーター制(月10本)のデジタル課金を導入、とこれもジャーナルが報じた。

このほか、独アクセル・シュプリンガー傘下のビジネス・インサイダーは、2017年11月から、フリーミアム型課金の「BIプレミアム」をスタートCNNも2018年第2四半期をめどに、フリーミアム型課金を予定している。

●「課金が分断を広げる」

タイムズはさらに、デジタル購読者増へとギアを上げる。

タイムズでは、課金ユーザー以外が無料で読める記事の数を、2011年のスタート当初は20本、2012年以降は月間10本としてきた。これは、メーター制と呼ばれる課金スタイルだ。

ところがこれを、2017年12月1日から、一気に5本へと半減させたのだ。

タイムズのメレディス・コピット・レビン副社長(EVC)兼COOは、ブルームバーグの取材にこうコメントしている。

今はとてもニュースがホットなタイミングだ。高品質のジャーナリズムは有料だということを、人々に示すのに絶好の機会だと考えたのだ。

トランプ政権のロシア疑惑追及に加え、一連のセクハラ問題の口火を切ることになった著名映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏の疑惑に関する調査報道のスクープなども、タイムズの勢いを後押しする。

この勢いを、さらなる購読者獲得につなげる狙いのようだ。

ただ、このような課金への流れが強まることに対して、「予測」の中では懸念の声も上がっている。

(課金の)マイナス面は、購読者指向のニュースが対象とするのが、高収入、高学歴のエリート層だという点だ。ペイウォールが強まっていけば、読者の総数は減るだろう。それはクオリティー・ニュースではあるが、万人のためのものではない。(中略)

この(クオリティー・ニュースの)好循環という建付から取り残された大多数の米国人が、より一層、疎外感を持ち、自分たちを排除したメディアに不信感を持ったとしても、驚くにはあたらない。

ニューヨーク大学教授のロドニー・ベンソン氏は、さらに続けて、こう指摘する。

リベラルメディアが、(課金によって)読者のサークルをより絞っていく一方で、保守メディアは、マスへのリーチをさらに広げようと懸命になっているのだ。

●「ポーラス戦略」の転換

一方で、このような課金の流れを、プラットフォーム側も後押しする。

グーグルは2017年10月、検索結果に表示された課金コンテンツをクリックすることで、非課金のユーザーでも無料で全文を閲読できる「ファースト・クリック・フリー」の仕組みを中止することを明らかにした。

これは、課金と検索結果への表示を両立させるため、課金の壁(ペイウォール)に穴を開ける「ポーラス(多孔)戦略」を、グーグルが課金メディア側に要求していたものだ。

この仕組みは、2009年の見直しで1メディアにつき1日最低5本に変更。さらに、2015年にはその数を1日3本へとさらに狭めていた

グーグルは、この「ファースト・クリック・フリー」を「フレックス・サンプリング」という新制度に衣替え。「ポーラス戦略」を取るかどうかの選択は、すべてメディア側にゆだねるという姿勢に転じたのだ。

グーグルは合わせて、課金手続き簡素化についての、メディアへの技術支援も表明している。

フェイスブックもやはり10月、モバイルのニュース配信プラットフォーム「インスタント記事」で、メディアの課金を支援するテスト運用を、独ビルト、ボストン・グローブ、英エコノミスト、ハースト、伊ラ・レプブリカ、仏ル・パリジャン、独シュピーゲル、英テレグラフ、トロンク(旧トリビューン)といった欧米メディアともに開始することを明らかにした。

「インスタント記事」上で、メーター制とフリーミアム制をサポートする、という。

ただ多くの場合、広告モデルの行き詰まりを、課金だけで支えられるわけではない。

では、何ができるのか。(続く)

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

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