メディアはAIをどう報道しているのか

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02/15/2019 by kaztaira

AIは世界の救世主なのか、世界を滅ぼす存在なのか――

AIが社会や経済に与えるインパクトについて、楽観論から悲観論まで様々な議論が続いている。

ではそんなAIについて、メディアはどのように報じてきたのか。

英オックスフォード大学のロイター・ジャーナリズム研究所のラスムス・クライス・ニールセン所長、同大インターネット研究所のフィリップ・ハワード所長らが、英国の6メディアの8カ月間のAI報道を分析した報告書を公開している。

その結果は――AI報道の大半は、AI業界のプロダクト紹介だったという。

しかも、あまたある課題解決の決め手としてAIが扱われていたが、その一方で、AIが及ぼす潜在的な影響については、あまり言及がなかった。

さらに、メディアの政治的な立ち位置によって、右派は安全保障や投資など経済・地政学に焦点をあてるのに対し、左派は差別、アルゴリズムのバイアス、プライバシーといった倫理に焦点を当てる傾向があった、という。

そして、AI報道に最多登場したキーマンは、テスラCEOのイーロン・マスク氏。記事全体の1割以上で、マスク氏がニュースソースとして引用されていた、という。

●6割がプロダクト紹介

ニールセン教授ハワード教授とも、メディアフェイクニュース研究の第一人者として知られる。

ニールセン氏らは、右派系としてテレグラフとメールオンライン、左派系としてガーディアンと英ハフポスト、公共メディアとしてBBC、テクノロジーメディアとして英ワイアードを対象に調査。

2018年の1月から8月までの記事の中で、「AI」「マシンラーニング(機械学習)」「ディープラーニング(深層学習)」「ニューラルネット」のキーワードを含む、760本の記事を分析。

昨年12月に報告書を公開している。

目立つのは、AI業界のプロダクトなどに関するニュースだ。

ai_products

AI業界のプロダクトや発表、契約、研究などのニュースが、全体の60%を占めており、政府の発表や報告(18%)、学術研究(16%)をはるかに上回っていた。

AI業界ニュースの内訳を見ると、「プロダクト・研究」(33%)が最も多く、次いで「その他の発表」(19%)、「トップのスピーチ」(4%)など。

AIニュースにおけるAI業界の比重は、そのニュースソースにもあらわれている。

ai_sources

全体の33%のニュースソースは、AI業界(企業のトップ、研究員、社員、広報担当者)の関係者。これはアカデミア関係者の倍、政府関係者の6倍だった。

また、メディア別のニュースソースを比較すると、アカデミア関係者が業界関係者を上回ったのは、ガーディアンのみだった。

また、ニュースソースとしてニュースリリース、公式声明、スピーチ、他メディアの記事などの「資料」の比重が最も大きかったのは、メールオンライン(70.6%)だった。

●「AIは課題解決の決め手」

AIニュースにはいくつかの共通する特徴があった。

一つは、ストレートニュースや特集、オピニオンを含め、AIが様々な課題解決の決め手になる、という取り上げ方だ。

これはがん治療や再生可能エネルギー問題から、「あなたのファッションは○か×か」「恋愛の情熱を保つには」(ハフポスト)といったものまで、多種多様。

それが本当に「決め手」かどうかの疑問は、ほとんど指摘されないという。

もう一つは、AIのポテンシャルを強調することで、現実にAIができることとの境目があいまいになっているという点。例として「バイアグラの発明者が”壊れた”医薬品モデルをAIで立て直す」(テレグラフ)などをあげる。

その逆に、AIの”気味悪さ”を強調する傾向もある。例としてはフェイスブックのアルゴリズムや中国政府による監視システムについてのニュースをあげる。

また、AIの機能の限界や、人間とAIの能力の違いについて対比するオピニオン記事もあるが、AIニュース全体の中では少数派だという。

●右派系は「経済・地政学」

調査対象の中では右派系と位置づけられるテレグラフとデイリーメール(メールオンラインの紙面版)では、AIニュースを経済や地政学の観点から取り上げる傾向が見られる、という。

「AIのワールドリーダー」(テレグラフ)など、英国の「AI優位」を強調する立ち位置だ。

左派系と位置づけられるガーディアン、英ハフポストは、「ロボットが人間の仕事を奪うなら、大量の失業者問題に取り組む必要がる」(ガーディアン)などように、AIによる自動化を失業問題などと結び付ける傾向があるという。

同じ自動化を扱っても、右派系メディアはAIによる生産性向上を強調し、「心配しすぎる必要は無い」(テレグラフ)との立場を取る。

ただ、その前提となるAIなどの「第4次産業革命」による社会、文化の変革と、労働環境の激変については、認識は共通している、という。

ただ、右派系メディアは、その行く末をポジティブ寄りの枠組みに据える。「過去のテクノロジーの進展は、貧困ではなく繁栄をもたらした。なぜ今回は違うと考える必要があるのか」(テレグラフ)

右派系メディアでは、さらにAI覇権は、経済にとどまらずサイバー戦を含めた軍事面における覇権も手にする、との論調が目立つという。

こようなAI戦略の観点から、データ保護の必要性についても指摘しているという。

●左派系は「倫理」

ガーディアン、英ハフポストといった左派系に位置づけられているメディアに見られるのは、「倫理」を強調した取り上げ方だ。

これはフェイクポルノ動画の「ディープフェイクス」から、自動運転車、自律型兵器、プライバシー、雇用、顔認識、差別などのテーマを含む。

ただ、「AIによる支配」の危険性を指摘する代表的な存在であるテスラCEOのイーロン・マスク氏については、左右問わず、幅広く扱われている、という。

760本の分析対象の記事の中で、マスク氏について扱っているのは88本、12%を占めていた。このうちの半数以上は、右派系に位置づけられているメールオンラインの記事だった。

ただ、これらの記事は、倫理的な問題点の提示にとどまり、その解決に向けた展望にまで言及する例は少ない、と指摘する。

「この、(メディアによる)答えなき疑問の提示は、現時的な倫理問題への取り組みを、アカデミアや政府、あるいはAI倫理に関する新組織などに丸投げする形になっている」

メディアが取り上げる倫理問題は多岐にわたる。

グーグルが黒人の写真に「ゴリラ」とタグ付けをした「差別」問題。

さらにこの「差別」の原因として、「データ」「不透明なアルゴリズム」「開発者の多様性」などが指摘されている、という。

さらに、人間への「脅威」としてのAI。これについては、やはり左右の立場の違いはないようだ。

「AIが人間を襲うというターミネーターのシナリオはわずか10年から20年先のことだ、とグーグル前CEO」「AIは自我を持ち、人間を殲滅しようとする」(テレグラフ)、「キラーロボットといっているのは、ターミネーターのT101ロボットのことではない。(中略」もっとずっとシンプルなテクノロジーのことで、数年以内には実現する」(ガーディアン)

●メディアの地盤沈下がもたらす影響

報告書は、「AIはあなたの死期を教えてくれる」(メールオンライン)などの例はあるものの、メディアによるセンセーショナルなAIの扱いは、「事前の予想よりはるかに少なかった」と結論づけている。

ただ、メディアに関するいくつかの懸念もあげている。

その一つはAI業界ニュース偏重によって、AIをめぐる問題に取り組むべき、社会や政治の責任がなおざりにされる危険がある、という点だ。

その顕著な例が、AIニュースの1割以上にイーロン・マスク氏が登場し、その他の意見が紹介されない、という現状だ。

さらに、AIの課題解決の可能性に言及はしても、その実現可能性を検証することがない、という点。

さらにメディアビジネスの地盤沈下による、報道の劣化の影響だ。

コストカットの圧力の中で専門記者がいなくなり、プレスリリースへの依存が高まっている現状を指摘。その例として、リリース、他メディア報道への依存が7割という、メールオンラインの現状をあげる。

●思いあたる節もある

13日に発売した拙著『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書)では、まさにこの報告書が取り上げているエピソードや議論をほぼ網羅している。

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その視点が、「経済・地政学」寄りか「倫理」寄りか。「人類への脅威」寄りか「福音」寄りか。

読者の皆さんの判断をあおぎたいと思っています。

26日には、発売記念のトークイベント「AIリスク社会を生き抜くリテラシー」を開催します。

『悪のAI論』発売記念イベント、イメージ画像

慶應義塾大学理工学部教授の栗原聡さん、ジャーナリスト/メディア・アクティビスト、早稲田大学文学学術院教授の津田大介さん、慶應義塾大学法科大学院教授の山本龍彦さんをお招きして、「AIリスク」の正体について議論します。

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■最新刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、2月13日発売)

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信じてはいけない_書影

■フェイクニュースの本当の怖さとは?『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体

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