フェイスブックが広げているのは「分断」と「怒り」だった

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03/18/2019 by kaztaira

フェイスブックが広げているのは、「分断」と「怒り」だった――。

友人や家族の投稿表示を優先し、ニュースメディアの表示を抑制する、というフェイスブックのアルゴリズム大幅変更から1年以上が経過した。そのネットワーク上で、共有され、コメントが交わされているコンテンツとエンゲージメントの現状はどうなっているのか。

ネット調査会社「ニュースホイップ」が今月公開した報告書で、2019年の最初の10週間のデータを見ると、フェイスブックで広がっている最も特徴的な傾向は、意見が激しく対立する「分断」コンテンツの氾濫と、「怒り(ひどいね)」という反応と、だ。

そんな中で起きたのが、容疑者のフェイスブックページを通じてライブ中継が発信されたニュージーランドの乱射事件。まさに「怒り」と「分断」を象徴するような事件だ。

フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は今月、「オープンよりプライバシー」という”方針転換”を表明している。

「オープン」なネットワークから家族、友人を中心としたネットワークへのシフトは、昨年のアルゴリズム変更ともつながる、「閉じたフェイスブック」への転換だ。

そしてこの”方針転換”の狙いは、「プライバシー重視」というよりも、むしろフェイクニュースなどをめぐる「メディア」としての責任負担回避に眼目がある、との見方は根強い

●エンゲージメントは1.5倍

ニュースホイップの報告書は、今年1月1日から3月10日までの10週間にわたる英語のコンテンツのエンゲージメント(いいね、コメント、シェア)の動向を、メディアごと、コンテンツごとにまとめている。

それによると、今年に入ってからのエンゲージメントの総数は62億件で、昨年同時期の40億件の約1.5倍、2017年の同時期(56億件)と比べても1割増となっている。

「ニュースホイップ」は、特にコンテンツの共有(シェア)は非公開のフェイスブックページが起点になっている、と指摘し、エンゲージメントの増加について、こんな見立てを示している。

フェイスブックの友人、家族重視(のアルゴリズム変更)によって、(メディアの)公式フェイスブックページがプロモーションするコンテンツよりも、内輪で共有されるコンテンツを目にするようになったことで、面白かった記事をさらに共有し、それが(エンゲージメントの)増加につながったのかもしれない。

つまりその点では、エンゲージメントの増加は、フェイスブックのアルゴリズム変更の狙い通りだった、と。

ただ、問題はそのエンゲージメントの中身だ。

●「セレブの死」と「中絶」が席巻する

メディア別に見ると、エンゲージメント数のトップは、保守系のFOXニュース(1.5億件)。次いでNBC(1.3億件)、BBC(1億件)の順。

広くエンゲージメントが行われているコンテンツの中身も興味深い。

最もエンゲージメントを集めたのは、エンターテインメントメディア「TMZ」が配信した、「ビバリーヒルズ高校(青春)白書」の俳優、ルーク・ペリー氏の死亡記事(353万件)。

ペリー氏の死亡記事は7位(デイリー・メール、156万件)、12位(ピープル、133万件)と、上位15本のうち3本を占める。

これに次いで目立つのは、今年1月に知事が署名したニューヨーク州の「リプロダクティブヘルス法」をめぐるコンテンツだ。

これは、妊娠中絶を不当に制限する州法を違憲と判断とした1973年の最高裁判決をベースに、中絶の条件を緩和する州法だが、キリスト教系の保守勢力が反対していた。

エンゲージメント数で2位となったのが、キリスト教系テレビネットワーク「CBN(クリスチャン・ブロードキャスティング・ネットワーク)」が配信した「ニューヨーク州が出産直前までの中絶合法化」(303万件)。

さらに3位「ニューヨークでは殺人犯に薬殺注射はできないが、胎児にならできる」(ライフニュース、242万件)、8位「恐怖:ニューヨークが出産直前まで中絶合法化」(デイリーワイヤー、150万件)と、やはり上位15本の3本を占めた。

ニューヨーク州では、これ以前も妊娠24週以降の中絶は認められており、新たな州法では、その条件について、これまでの「母体の生命の危機」から「母体の健康、生命への脅威、もしくは胎児の死亡」へと変更しただけだ。

このため、「出産直前まで中絶合法化」とのコンテンツについて、ファクトチェックサイト「ポリティファクト」は「誤り」、「スノープス」は「真偽半々」(24週以降の中絶は認めているが、無条件ではない)と判定している。

エンゲージメント数上位15本の総数(2787万件)のうち、「セレブの死」と「中絶」で半数近く(1337万件)を占め、「中絶」だけでも4分の1(695万件)を占めている。

特に「中絶」は、米国では「銃」「宗教」などとともに、意見が激しく対立するテーマだ。そのテーマをめぐり、「誤り」もしくは「真偽半々」というバイアスが色濃いコンテンツが、大きなエンゲージメントを集めていることになる。

●「怒り」をかき立てる

「ニュースホイップ」の報告書が注目するもう一つの特徴は、「いいね」などのリアクションの中で、明確に負の感情の表明となる「怒り(ひどいね)」の拡散だ。

「怒り(ひどいね)」の件数をメディア別に見ると、最も多いのはFOXニュースの679万件。2位はトランプ大統領支持派の拠点メディアとされた「ブライトバート」(410万件)、3位はかつて「ブライトバート」の編集長をつとめ、現在は保守派メディア「デイリーワイヤー」編集長でコメンテーターのベン・シャピロ氏の公式サイト(302万件)。

FOXニュースは2位の「ブライトバート」の1.5倍。上位3メディアがすべて保守系サイトであり、これだけで上位15本の「怒り(ひどいね)」の総数(3482万件)の4割を占める。

上位15本の順位は、以下、CNN(252万件)、デイリー・メール(228万件)などのメディアが続くが、「怒り(ひどいね)」をかき立てる存在感は、FOXニュースを筆頭とした保守系の上位3メディアが圧倒的だ。

「怒り(ひどいね)」をかき立てる内容は、ほとんどが政治系コンテンツだと、「ニュースホイップ」は指摘する。さらに固有名詞まで見ていくと、もっとも「怒り(ひどいね)」をかき立てているのは、民主党上院議員で前回に続き来年の大統領選にも出馬表明した左派系のバーニー・サンダース氏だという。

次回大統領選を控え、保守とリベラルの対立と分断が、「怒り(ひどいね)」の形で拡散している側面もありそうだ。

●「反響室効果」の果て

昨年1月に行われたフェイスブックによるニュースフィードのアルゴリズムの変更は、家族や友人とのエンゲージメントの高いコンテンツを優先表示し、メディアが配信するニュースコンテンツなどの優先度を下げる、というものだった。

※参照:フェイスブックがニュースを排除する:2018年、メディアのサバイバルプラン(その3)(01/13/2018)

ザッカーバーグ氏はこの時の声明の中で、メディアや企業によるフェイスブックへの投稿を「パブリックコンテンツ」と呼び、それらがユーザー間のコミュニケーションを「締め出している」との声が寄せられている、と述べた。

パブリックコンテンツが友人や家族からの投稿を上回っていることで、ニュースフィードに表示されるもののバランスが、フェイスブックが貢献できる最も重要な使命を外れてしまった――ユーザーが互いにつながることの手助けだ。

そこで、ニュースフィードに友人や家族からの投稿をより多く表示することにした、と説明していた。

このアルゴリズム変更には、当初から指摘されていた問題があった。「エコーチェンバー(反響室)効果」「フィルターバブル」などと呼ばれる、情報の「タコツボ化」の悪化だ。

ソーシャルメディアでは、同じような考え方のユーザーが集まること、さらにアルゴリズムがユーザーの興味・関心に沿った内容のコンテンツを表示することなどから、思考が「タコツボ化」する傾向がある。

アルゴリズムの変更によって、情報のネットワークを友人、家族というより身近な人々に狭めることになり、その「タコツボ化」が進んでしまうことが懸念されたのだ。

実際に、このアルゴリズム変更を先行して実施したスロバキアでは、フェイクニュースの増加が見られた、とニューヨーク・タイムズは報じていた

「ニュースホイップ」のデータでは、フェイクニュースの氾濫については触れていない。しかし、「出産直前まで中絶合法化」のようなバイアスの色濃いコンテンツが膨大なエンゲージメントを獲得している現状は、まさにそのような懸念が進行しつつあることをうかがわせる。

そして、「タコツボ化」の先にあるのは、「真実はネットにしかない」といった極端な言説だ。

ニュージーランドのクライストチャーチにある2カ所のモスクで15日に起きた銃乱射事件の容疑者は、アクションカメラ「ゴープロ」を使い、フェイスブックを舞台に犯行をライブ中継した。

この容疑者は、47ページにわたる声明文をネットで公開。その中でこう述べている。

自分の信念を、どこで知り、調べ、広げていくのか? もちろん、インターネットだ。ほかのどこにも真実は見つからないだろう。

●「プライバシー重視」の論理

ザッカーバーグ氏は3月7日、「プライバシー重視」の姿勢を表明し、より少人数に閉じたサービスに転換すると述べた。

インターネットの未来を考えた時、私はプライバシーを重視したコミュニケーションプラットフォームが、現在のオープンプラットフォームよりも一層重要になると信じている。

昨年のアルゴリズム変更の方向を、さらに推し進めるものだろう。

ザッカーバーグ氏は、ユーザーのプライバシーの扱いをめぐって大きな批判浴び続けてきた

そして、2010年には、プライバシーをめぐって、こんな発言もしている

ユーザーはより多くの、様々な情報を共有することだけでなく、よりオープンに、より多くの人々と共有することに慣れてきた。(プライバシーをめぐる)社会規範は、つねに移り変わっていくものだ。

プライバシーはもはや社会規範ではない――この発言は、そう受け止められた。

かつての「オープン」派が、10年足らずの間に「プライバシー重視」派に転向したと信じるのは容易ではない。

そして、この「プライバシー重視」方針を、少なくともメディアは額面通りには受け取っていない

元英ガーディアン電子版編集長でコロンビア大学デジタルジャーナリズムセンター所長、エミリー・ベル氏は、今回のフェイスブックの「プライバシー重視」表明を、こう見る

これはプライバシーの再評価などではなく、フェイスブックが抱える問題をめぐる高額のコストと規制に対処するための、企業防衛だ。

その問題の一つが、オープンプラットフォームであることから「メディア」としてのコンテンツ管理への責任を厳しく追及され続けるフェイクニュース問題だ。

閉じたメッセージサービスへと転換すれば、その責任も回避しやすい。

ただ、ネットワークを流れる情報のバイアス、「エコーチェンバー」「フィルターバブル」による情報の「タコツボ化」はさらに進む可能性がある。

「ニュースホイップ」のデータは、その懸念があながち杞憂でもないことを示している。

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