AIの学習データづくりを受刑者が担う「マトリックス」の世界

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03/30/2019 by kaztaira

無数の人間たちが培養槽のようなカプセルに入れられ、巨大コンピューターの動力源として利用される――。

SF映画「マトリックス」の世界が、AI社会で現実のものとなってきている。

フィンランドでは、刑務所の受刑者が、AIに学習させるデータのラベル付けを「刑務作業」の一環として行っているという。

また中国でも、若者の低賃金労働として、画像や動画のラベル付け作業が行われている。

AI社会では、機械的で単調な作業はAIに任せて、人間はクリエイティブな作業を担う――そんなイメージとはかけ離れた現実が広がっているようだ。

●受刑者の刑務作業

フィンランドの刑事矯正庁(CSA)は3月13日、こんなリリースを発表している。

受刑者の刑務作業に、新たにAI訓練を加える。刑事矯正庁とヴァイヌーは、刑務作業としてAI訓練を委託するとの協定に合意した。刑事矯正庁は更生用途に適し、現代的な労働環境の需要に合致した刑務作業の開発に日夜取り組んでいる。

同庁の発表によると、フィンランドのベンチャーであるヴァイヌーは、1日あたり2万件の文書やニュースを企業サイトやソーシャルメディアから収集し、これらをもとにAIを使った企業情報データベースを提供している。

協定では、受刑者たちには「この記事は買収に関するものか」といった質問が割り振られ、一つの記事について複数の受刑者が回答することでラベル付けが行われるという。

当初はヘルシンキとトゥルクにある2つの刑務所に10台のワークステーションが設置され、受刑者によるデータのラベル付けに対応するという。

●「メカニカルターク」と刑務所

テックメディア「ヴァージ」によると、ヴァイニューは英語のコンテンツへのラベル付けについては、アマゾンのクラウドソースサービス「メカニカルターク」を利用しているという。

だが、フィンランド語のコンテンツでは、クラウドソース先が1人しか見つからなかったという。偶然、同社のオフィスが刑事矯正局と同じビルにあったことから、今回の協定の話が持ち上がった、という。

現在では、100人足らずの受刑者が、1日数時間をこの刑務作業にあてているようだ。

ヴァイヌーはこのモデルを、人手が集まりにくい言語でのラベル付けに展開していきたい、としている。

ただ問題は、このラベル付けが「職業訓練」なのか、という点だ。

受刑者の作業は、どうひいき目に見てもアンケートへの回答程度の内容で、「AIスキル」が身につくようには見えない。

ヴァージのインタビューに、カリフォルニア大学サンディエゴ校准教授のリリー・イラニ氏は、こう指摘する。

問題は、AIにはこの手の誇大宣伝があふれているため、昔ながらの労働搾取に”刑務所改革”の皮をかぶせることができてしまう、という点だ。ソーシャルムーブメントを持ってきて、それを誇大宣伝に落とし込み、AIの売り込みに利用するわけだ。

●中国でも”AI搾取”

同じような”AI搾取”の存在は、中国でも指摘されている。

ニューヨーク・タイムズは、「データのサウジアラビア」といわれる中国の、「データ精製工場」の現状を伝ええている。

それによると、中国の中小都市のベンチャーが担っているのは、AIの先端技術の開発ではなく、画像や監視カメラの動画のラベル付けという、低賃金の単純作業なのだという。

河南省の「データラベル付け工場」の共同創設者は、ニューヨーク・タイムズのインタビューにこう答えている。

我々はデジタルワールドの建設労働者だ。我々の仕事は、レンガを一つひとつ積んでいくことだ。ただ、AIにおいて、我々は重要な役割を担っている。我々なしでは、高層ビルをつくることはできないのだから。

調査会社「コグニリティカ」によると、AIのためのデータラベル付けの市場は、2018年に1億5000万ドル(166億円)規模だったが、2023年には10億ドル(1100億円)規模にまで成長する、とみられている。

●「マトリックス」の現実

ウォシャウスキー姉妹(元兄弟)による1999年のSF映画「マトリックス」では、仮想現実に生きる人間たちは、現実では培養槽の中に閉じ込められ、巨大コンピューターの動力供給源として使われてる存在だった。

シンギュラリティすら喧伝されるややリアリティに欠けるAIの未来。

だがそんな未来も、受刑者や若者たちが低賃金で行うデータのラベル付けで支えられるという構図は、SFのディストピアを、急に身近な現実として感じさせてくれる。

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