「アサンジュ逮捕」がメディアにとって他人事ではないこれだけの理由

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04/12/2019 by kaztaira

告発サイト「ウィキリークス」創設者のジュリアン・アサンジュ氏の逮捕が、メディアに波紋を広げている。

米国のアフガン戦争、イラク戦争の秘密資料や米外交公電など、大量の政府の内部文書を公開してきたウィキリークス。

その行為が処罰されるとすれば、影響は広くメディアの報道全般に及ぶ――そんな指摘が相次いでいる。

一方でウィキリークスは、2016年の米大統領選をめぐる「ロシア疑惑」とのかかわりが問題視され、厳しい批判にさらされている。

だが、ネット時代のメディアの生態系の中で、そのたたずまいにかかわらず、ウィキリークスもまた「報道の自由」のもとに保護されるべき、との論調は根強い。

「みんながメディア」の時代に、「メディア」「ジャーナリズム」「ジャーナリスト」の定義とは何か?

そのことを改めて考える上で、大きな意味をもつ逮捕劇だ。

●保釈逃亡と不正アクセス共謀

アサンジュ氏が逮捕されたのは4月11日で、場所は7年にわたって拠点としていた在ロンドンのエクアドル大使館だ。

アサンジュ氏はスウェーデンでの性的暴行容疑により、2010年8月にロンドンで逮捕。保釈中の2012年6月に保釈中に亡命を求めてエクアドル大使館に駆け込んでいた。

ロンドン警視庁の最初のリリースが出されたのが午前10時半すぎ。リリースによれば、これが保釈逃亡として今回の直接の逮捕容疑となった。

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ロンドン警視庁は午後0時半に2つ目のリリースを発表。それによると、アサンジュ氏は身柄移送先のロンドン中央署で、米国当局からの身柄引き渡し要請に基づいて、改めて逮捕されている。

問題はこちらの逮捕容疑だ。

米司法省も同日、リリースを発表し、アサンジュ氏の2件目の逮捕容疑について、明らかにしている。

それによるとアサンジュ氏は、「米国史上最大規模の機密情報漏洩」で、米陸軍元情報アナリストのチェルシー・マニング氏による国防総省管理の機密情報ネットワーク「SIPRNet(シパーネット)」のパスワード不正取得を共謀したと指摘。2018年3月6日付ですでにバージニア東部地区連邦地裁に起訴されていたことを明らかにしている。

アサンジュ起訴状

米陸軍元情報アナリストのチェルシー・マニング氏は、ウィキリークスによる一連の大量秘密文書漏洩の情報元とされ、2013年に禁固35年を言い渡された。だが2017年5月、マニング氏はオバマ前大統領により約7年に減刑され、釈放された。

しかし今年3月8日、ウィキリークスに関する法廷証言を拒否したとしてより、再び収監されていた

この証言拒否をした裁判所がバージニア東部地区連邦地裁であることから、マニング氏への証言要請とアサンジュ氏逮捕は、一連の動きだった、と「ギズモード」は指摘している

なぜ、エクアドルに政治亡命を求めていたアサンジュ氏が逮捕されることになったのか。

背景には、エクアドルとの関係悪化もあったようだ。

エクアドルでは、亡命受け入れに前向きだった当時のラファエル・コレア大統領が、2017年の選挙で現職のレニン・モレノ大統領に敗れ、退任している。

今年3月末には、ウィキリークスがモレノ大統領に関する汚職疑惑を公開。アサンジュ氏のエクアドル大使館からの追放が取り沙汰されていた

モレノ大統領は4月11日のツイッターで、アサンジュ氏のエクアドルへの亡命認定を取り消したことを明らかにし、「度重なる国際条約や日常生活の規則違反があった」と述べている。

●メディアとの連携と暴露

アサンジュ氏の逮捕は、メディアに複雑な反応を呼び起こしている。

一つには、ウィキリークスによる告発が、既存のマスメディアと協働して行われてきた、という経緯がある。

2006年創設のウィキリークスが世界的な注目を集めたのは、2010年。

4月に、イラク戦争中のバグダッドで米軍ヘリが民間人を殺傷する動画を公開。7月にはアフガン戦争に関する米軍などの機密文書9万件以上、10月にはイラク戦争に関する米軍の機密文書訳万件を公開。

さらに11月末からは、米国の外交公電25万件の公開を開始している。

この過程で、アフガン戦争の文書公開では英ガーディアン、米ニューヨーク・タイムズ、独シュピーゲルと連携。イラク戦争の文書公開ではこれらに加えて仏ルモンド、米外交公電ではさらにスペインのエルパイスなどとも連携。

ウィキリークスが機密文書を提供し、各メディアが検証の上で報じるという形をとっていた。

ただ、アサンジュ氏には毀誉褒貶もつきまとった。

大きかったのは、2016年の米大統領選における「ロシア疑惑」とのかかわりだ。

※参照:米大統領選、ロシアハッカー、ウィキリークス:米民主党メール流出の裏で何が起きているのか(07/30/2016)

ロシアのハッカー集団「ファンシーベア」によるとされる米民主党全国委員会やクリントン選対本部長らへのサイバー攻撃によって奪われた内部文書をウィキリークスが暴露。

米政府の見立て通りであれば、ウィキリークスはロシアによる米大統領選への介入に一枚かんでいたことになる。

候補者だったトランプ氏も、「アイ・ラブ・ウィキリークス」と繰り返していた。だが、アサンジュ氏の逮捕を受けたメディアからの質問には「何も知らない。関係ない」と述べている。

●アサンジュ氏はジャーナリストか?

アサンジュ氏はジャーナリストか? アサンジュ氏の逮捕は、他のジャーナリストにも影響を及ぼすのか?

欧米各メディアこぞってそんな疑問が広がっていることを伝える。

ウィキリークスが2010年の大量文書公開で果たした役割は、内部告発の”受付窓口”。

流出した機密文書をメディアに提供するとともに、自らのサイトでも文書そのものを公開する、というものだった。

従来型のメディアとはいえない。だが、その線引きがどこにあるのかというと、議論は混とんとしてくる。

国家の機密に属するような内部情報を入手し、その情報を広く伝える、という行いは、ニューヨーク・タイムズのような従来型メディアにも当てはまる。

少なくとも内部情報の入手と公開に関しては、ニューヨーク・タイムズとウィキリークスの責任に法的な区別をしている法律は、米国にはなさそうだ。

情報漏洩事案への対策として使われるのが「スパイ防止法」だ。

そして、すでにオバマ政権時代から、情報漏洩の共謀者との位置づけで、ジャーナリストのメールや通話記録が押収される事例も明らかになっている。

※参照:電話、入退出記録、電子メール・・・「スパイ共謀者」としてのジャーナリスト(05/26/2013)
今回のアサンジュ氏の逮捕・起訴は、機密情報の公開そのものではなく、マニング氏による国防総省のネットワークへの不正アクセスに関する共謀の罪(コンピューター詐欺・不正利用防止法違反)とされ、「報道の自由」からはやや距離をおいた建付けになっている。

起訴状には、「今回のアップロードで残っていた文書も全部終わりです」というマニング氏に対し、アサンジュ氏が「好奇の目には際限というものがないんだ」と返し、さらなる漏洩の後押しをした、という記述も含まれている。

不正アクセスの教唆が明確であれば、アサンジュ氏はジャーナリズムの一線を踏み越えている、との指摘もある

だが、不正アクセスにかかわらないまでも、ジャーナリストが情報源に内部情報の提供を持ち掛けることは、日常的に行われている。

今回の訴追が機密情報の公開にいたるウィキリークスの活動の、どこまでを射程に見据えているのかは、即断はできない。

ただ、不正アクセスに限定した訴追ではあっても、メディアに萎縮効果が及ぶ可能性はある。

●「みんながメディア」時代のジャーナリズム

「みんながメディア」となった時代、「ジャーナリスト」とはどのように定義されるのか――。

以前から議論されてきたテーマが、改めて浮上している。

※参照:みんながメディア、ではジャーナリストはだれ?(07/07/2013)
※参照:「死刑」に向かってジャーナリズムを定義する(07/14/2013)

2013年7月、マニング氏の機密漏洩に対する軍事法廷に弁護側証人として出廷したハーバード大ロースクール教授のヨハイ・ベンクラー氏は、ウィキリークスとジャーナリズムの関係を、こう位置付けている

既存メディアの編集局は縮小を続け、多くの報道機関で、調査報道が訴訟になっても耐えられるしっかりした体勢もとれていない。そんな中で、ウィキリークスが示したのは、ネットワークジャーナリズムが内部告発型の調査報道ジャーナリズムを支えることができるというモデルだ。

そして、ウィキリークスは、ジャーナリズムの機能がネットワークに分散する時代の「第4階級(ジャーナリズム)」である、と述べている

ニューヨーク市立大学教授のジェフ・ジャービス氏は2005年、この問題をこうとらえた

誰がジャーナリストか、という設問は間違いだ。

ジャーナリズムは誰がそれをやるか、どのメディアや企業がそれを伝えるかで定義されるものではない。

ジャーナリズムというものがあるのではない。それは行為だ。情報を伝えるという行為がジャーナリズムなのだ。それは名詞ではなく、動詞だ。

ウィキリークスがネット時代のジャーナリズムの一端を担ってきたとするなら、アサンジュ氏の逮捕もまた、ジャーナリズムにとって、対岸の火事ではない。

アサンジュ氏の米国移送をめぐる英国での訴訟手続きには、なおしばらく時間がかかりそうだ。

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