“メディア嫌い”がフェイクを支える、その処方箋と2029年の「人工メディア」:#ONA19 報告

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09/14/2019 by kaztaira

グローバルに拡散を続けるフェイクニュースの生態系。その拡大を支えているのは、ユーザーの根深い“メディア嫌い”だ。

メディアによるノウハウの蓄積とリソースは、フェイクニュース対策には欠かせない。だが果たして、“メディア嫌い”の壁は越えられるのか?

米ニューオリンズで、9月12日から3日間の日程で開かれていたオンラインニュース協会(ONA)の年次カンファレンスの、今年の参加者は2,800人。中心テーマになっているのが、フェイクニュース対策とメディアの信頼回復だ。

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フェイクニュースの検知とファクトチェックは、拡散の防波堤だが、それだけではダメージは止まらない。ユーザーに届くことが必要だ。

だが、その役割を担うメディアの信頼低下が、大きな壁となっている。

そしてカンファレンスでは、いくつかの処方箋も示されている。

「私たち(メディア)が人々に信頼してほしいのなら、私たちの方も人々を信頼しなければ」。南カリフォルニアの公共ラジオ「KPCC」のアシュレイ・アルバラド氏はそう指摘する。

そして、誰がどんな情報を見たかがわかるソーシャルメディア空間では、情報の訂正もターゲティングできるはず――アリゾナ州立大学のダン・ギルモア氏は、プラットフォームの仕組みを逆利用する、そんな構想を打ち上げる。

「信頼」が問われるのは、人だけではない。未来学者のエイミー・ウェブ氏は、AIがつくりだすメディア環境「人工メディア」もまた、この問題を複雑にしていることを示す。

急激なメディア環境の変化の中で、「信頼」という言葉が、繰り返し語られている。

●「敵の正体」

年次カンファレンス初日の12日、皮切りとなる全体セッション「ミスインフォメーション(誤情報)と闘うためのグローバル戦略」に登壇したのは、各国でフェイクニュースの最前線に立つジャーナリストたちだ。

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司会を務めたのはDFRラボのシニアフェロー、アンディ・カービン氏。カービン氏は、2010年から翌年にかけての「アラブの春」の動きを、ツイッターのキュレーションで伝え続けたことで知られるソーシャルメディア・ジャーナリズムの専門家だ。

カービン氏は、一般的にフェイクニュースと呼ばれる情報について、ディスインフォメーション(虚偽情報)を意図的なもの、ミスインフォメーション(誤情報)を意図的ではないもの、と定義する。

「ディスインフォメーションは政治や戦争と同じぐらい古くからある。だが、まさに今起きている事態は、新しい何かがある」とカービン氏。

※参照:「歴史の初稿」をネットユーザーが伝え、ジャーナリストが確認する(06/21/2015

ロイター通信でソーシャルコンテンツ検証のグローバル責任者を務めるヘイゼル・ベイカー氏は、「改変動画コンテンツ対策の戦略で最も重要なポイントは、手の内を理解しておくこと。敵を知れ、だ」と述べる。

ベイカー氏は、AIを使ったフェイク動画「ディープフェイクス」対策としてつくった社内研修用の動画を紹介。

米下院議長、ナンシー・ペロシ氏の「酩酊動画」などで注目を集めた「ディープフェイクス」に、身近な素材として触れることで、その微妙な不自然さなど、検証の端緒をつかむことができるという。

※参照:「ディープフェイクス」に米議会動く、ハードルはテクノロジー加速と政治分断(06/22/2019
※参照:フェイスブックはザッカーバーグ氏のフェイク動画を削除できない(06/12/2019

米NPO「南部貧困法律センター(SPLC)」の調査報道ジャーナリスト、マイケル・ヘイデン氏も、「敵の正体」を知ることが重要と指摘する。

「ヘイトグループの動員が急速に膨張したのは2001年から2002年にかけて。原因は9.11ではない。21世紀のある時点で白人層がマイノリティーになるという人口統計予測を新聞が初めて報じたことがきっかけだ」

その“恐怖”を煽ることで、白人至上主義が勢いを増しているのだと指摘する。

●リアルの文脈を理解する

インドのローカルネットニュース「カバル・ラハリヤ」の共同創設者で、国際ジャーナリストセンター(ICFJ)と連携するジャーナリストプロジェクト「プロト」で、ファクトチェックに取り組むシャリニ・ジョシ氏は、フェイクニュースが拡散する背景となる“文脈”を理解することが重要と述べる。

「ミスインフォメーションは、分極化や社会格差のあるところで拡散する。テクノロジーは、その増幅に利用されているだけだ。私たちはまず現実社会の文脈を理解した上で、効果的な取り組みをすることが必要だ」

インドでは昨年、フェイスブック傘下のメッセージアプリ「ワッツアップ」で拡散したフェイク動画を発端に、パニックになった住民らによる集団暴行で20人以上が死亡する事態となっていた。

※参照:集団リンチ、ディープフェイクス―「武器化」するフェイクニュース(12/01/2018

ワッツアップはインドで2億5,000万人超という膨大なユーザーを抱えるが、通信内容がエンド・ツー・エンドで暗号化されているため、フェイクニュースの拡散をたどったり、ファクトチェックをしたり、という対策が立てにくい。

2019年春にあったインド総選挙に際し、ジョシ氏らの「プロト」はファクトチェックを実施。この時には、ワッツアップなどとも連携し、ユーザーからフェイクニュースの通報を受ける窓口を設置。それらをデータベース化するとともに、ファクトチェックの結果を回答した。

この時に、準公用語の英語ではなく、それぞれの地域の言語を使うことで、各地域コミュニティとのエンゲージメントに取り組んだ、という。

ブラジルのファクトチェックメディア「アオス・ファトス」のディレクター、タイ・ナロン氏は、「多くのブラジル人にとって、フェイスブックとワッツアップこそがインターネットだ」と指摘する。

特にインターネットの料金が割高なブラジルで、ワッツアップについては使い放題にしているキャリアが多い、という事情から、家族や友人経由のフェイクニュースについてデータ料金がかかるニュースサイトなどで確認することなく、拡散してしまう。

メディアやファクトチェックを信用せず、家族や友人を信用する。ブラジルでは、そんな閉じた環境がメディアの「壁」になっているようだ。

●信頼はどれだけ低下しているか

メディアへの「信頼」が、特に米国で大きな注目を集めたのは、トランプ大統領が誕生した2016年の米大統領選だ。

米ギャラップによる「マスメディアへの信頼度」調査では、ワシントン・ポストによる調査報道「ウォーターゲート事件」によるニクソン元大統領辞任の2年後、1976年の72%をピークに、40年間にわたって下落傾向が継続。

大統領選最終盤、2016年9月には、調査開始以来、最低を更新する32%にまで落ち込み、共和党支持層では14%となっていた。

ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストといったメディアによるトランプ氏への数々の調査報道やファクトチェックによって、2017年には41%、2018年には45%へと回復傾向にはある。

だが、2018年の内訳をみると、共和党支持層では21%なのに対し、民主党支持層では76%と、メディアへの信頼に関しても分断が広がっている状況だ

●「信頼してほしいなら」

この「壁」を越えるには、メディアへの「信頼」が必要になる。

冒頭セッションに続いて行われた個別セッションの一つ「信頼を築く:“フェイクニュース”時代の報道局のツール」では、この「壁」の越え方についての議論が行われた。

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「信頼」とは何か?

世界120社のメディアコンソーシアム「トラスト・プロジェクト」のCEO、サリー・レーマン氏は、「公共の利益のためにジャーナリズムを行う、そのプロセスを信じてもらえる関係をつくること」という。

「トラスト・プロジェクト」はサンタクララ大学を拠点に2014年、レーマン氏とグーグルのリチャード・ギングラス氏が立ち上げた。そして2019年5月、クレイグ・ニューマーク慈善財団、フェイスブック、デモクラシー財団から合わせて225万ドル(約2億4,300万円)の寄付を受け、独立のNPOとなった

プロジェクトが取り組んできたのは、メディアの情報開示による「透明性」確保の手立て「トラスト・インジケーター」だ。メディアの「行動規範」や「倫理綱領」といった基準、財政的背景、ジャーナリストのプロフィールをまとめたもので、グーグル、フェイスブック、ビング、ツイッターなどのプラットフォームが採用している。

※参照:メディアの収益多角化に求められる「信頼」とは:2018年、メディアのサバイバルプラン(その2)(01/07/2018

アメリカン・プレス研究所(API)とミズーリ大学レイノルズ・ジャーナリズム研究所(RJI)の共同プロジェクト「トラスティング・ニュース」のディレクター、ジョイ・メイヤー氏は、「壁」を越える第一歩は、「壁」の正体が何なのかを明らかにすることだ、と述べる。

「私たちのことを、世の中をまともに理解する気がない連中だ、と思っている人たちがいる」とメイヤー氏。

それは、メディアがどのような手続きと判断でニュースをつくっているのか、メディア自身がその説明をしてこなかった結果だ、とメイヤー氏はいう。

公共ラジオ「KPCC」のアシュレイ・アルバラド氏は、「コミュニティはニュースのリテラシーに問題があり、報道機関はコミュニティについてのリテラシーに問題を抱えている」と指摘する。

「私たちが人々に信頼してほしいのなら、私たちの方も人々を信頼しなければ」

そのためには、何を報じるのかを決める権限をユーザーにも開放するべきでは、と述べる。「ニュースのプロセスにもっと参加してもらう必要がある」

司会を務めたテキサス大学オースチン校メディア・エンゲージメント・センターのディレクター、タリア・ストラウド氏は、「信頼」の「壁」を越えるための処方箋を、六つのポイントにまとめた。

(1)人々に信頼されない理由を理解する(2)コミュニティをニュースづくりのプロセスに招待する(3)人々が何を必要としているかを問いかける(4)社会と向き合う(5)これまで取り上げてこなかった場所に出向く(6)それらの効果を評価する

●ソーシャルメディア時代の「訂正」

メディアへの不信感の理由の一つとして指摘されるのが、透明性。その端的な例が、ニュースの間違いに対する、訂正の扱いだ。

当初のニュースから数日、数週間をおいて、小さな訂正が掲載される。

紙の時代でも、当初の記事を目にした読者が気づかない可能性もあった訂正が、ソーシャルメディア時代には、そのダメージの広がりが比較にならない広範囲に及ぶ可能性がある。

「訂正は透明性のカギだ」。それをソーシャルメディア時代に合わせてアップデートするべきだ、とアリゾナ州立大学ジャーナリズム・マスコミュニケーションスクールのダン・ギルモア氏はいう。

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2日目の個別セッション「ソーシャルメディアで間違い記事を訂正が追いかけるには」では、ソーシャルメディアを拡散していく誤報の経路を、訂正記事がトレースしていくことで、そのダメージの広がりを食い止める取り組みの構想が紹介された。

あるコンテンツを目にしたユーザーを特定し、興味を持ちそうなコンテンツや広告をピンポイントで表示する。そんなソーシャルメディアの仕組みに、訂正記事を乗せることができるのではないか。

ギルモア氏は、テキサスのローカル紙、フォートワース・スター・テレグラムが訂正記事のネットでの拡散を呼び掛けた出来事をきっかけにして、フェイスブック傘下のソーシャルメディア解析サービス「クラウドタングル」を手掛かりに、当初の誤報をソーシャルメディア上で拡散していたアカウントを特定。個別に訂正記事拡散への協力を要請してみる、という実験を行う

その反応を受け、これをシステム的に自動化する取り組みをスタートさせた。

ギルモア氏は米大手新聞チェーン「マクラッチ―」傘下のカンザスシティー・スターなど3紙と、メディアと地域コミュニティをつなぐ信頼回復プロジェクト「ニュース・コラボ」に取り組んできた。

新聞の報道局の透明性を高め、コミュニティからニュースのプロセスに参加してもらう、「信頼」の「壁」を越える取り組みだ。

その取り組みを、プラットフォームに乗せてスケールさせる。その試みの一端が、訂正の新プロジェクトだ。

前述のクレイグ・ニューマーク慈善財団から8月に20万ドルの寄付を受け、プロジェクトはスタートした

訂正プロジェクトは、サリー・レーマン氏の「トラスト・プロジェクト」とも連携するという。

●「人工メディア」環境

最終日14日の朝には、カンファレンスの恒例、未来学者、エイミー・ウェブ氏による講演「ジャーナリズムのテクノロジートレンド」が行われた(ただ、ウェブ氏による講演は、今回が最後になる、とアナウンスされた)。

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ウェブ氏が指摘するのは、AIが引き起こすメディア環境の変化だ。

インスタグラムで160万人のフォロワーを持つバーチャルインフルエンサー「ミケーラ・ソウサ」など、AIがつくり出すリアリティを持ったキャラクターや動画などの「人工(シンセティック)メディア」がメディア空間に広がっていく、とウェブ氏。

中国・新華社通信のAIによるニュースアンカー導入など、その実例も紹介し、「2029年、2039年の未来のニュースユーザーたちはすでに今、これら人工コンテンツに接しているのだ」と述べる。

だが、「人工メディア」の環境は、メディアについての「信頼」の定義を問い直すことにもなる。

広がる「ディープフェイクス」への懸念だけではない。

今年3月には、英国のエネルギー会社の最高経営責任者(CEO)が、ドイツの親会社のCEOを騙った「声のディープフェイクス」の電話による指示で、ハンガリーの企業の口座に22万ユーロ(約2,600万円)を送金してしまうという事件も起きている。

※参照:2,600万円詐取、AI使った“声のディープフェイクス”が仕掛けるオレオレ詐欺(09/05/2019

ジャーナリズムとテクノロジー、ビジネスをめぐるメディア環境激変の中で、「信頼」をどう維持するのかが、ますます見えにくくなっている。

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