ロシアに加え中国も急浮上―人権抑圧・言論弾圧、「政治的武器」としてのフェイクニュース工作が世界を席捲する

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10/03/2019 by kaztaira

フェイクニュースなどのソーシャルメディアへの工作が、政権や政党による「政治的武器」として、急速に世界を席捲している―。

オックスフォード大学が9月末に発表したフェイクニュースの世界的な状況をまとめた報告書「フェイクニュースの国際秩序」は、そんな危機感を指摘している。

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報告書によれば、ソーシャルメディアを、政府や政党が世論操作に使っている国は70カ国で、その数は2年で2.5倍という勢いで各国に広がっている。

目を引くのは専制的な政府による、人権抑圧、政敵攻撃、言論弾圧などの「政治的武器」としてのフェイクニュースの拡散が先鋭化している点だ。

さらに、フェイスブックやツイッターを舞台に、フェイクニュースを使った他国への介入の動きも顕著で、米大統領選への介入で名指しされているロシアに加えて、香港問題で注目される中国の動きを含む6カ国が取り上げられている。

「サイバー部隊」と呼ぶフェイクニュースなどのソーシャルメディア操作を手がける実行部隊の規模や、予算規模もまとめられており、推定で30万~200万人規模という中国や、1億ドル超という予算規模のイスラエルなど、大規模なリソースが投入されている現状が明らかにされている。

ロシアや中国がノウハウを他国と共有している実態も明らかにされており、「武器」としてのフェイクニュースは、“パンデミック(世界的流行)”ともいえる情勢になりつつあるようだ。

●権力側のソーシャル工作、70カ国に

報告書をまとめたのは、オックスフォード大学インターネット研究所「コンピュテーショナル(コンピューターによる)・プロパガンダ・プロジェクト」のフィリップ・ハワード教授とサマンサ・ブラッドショー氏。

※参照:「ボット」が民主主義に忍び込む:オックスフォード大ハワード教授に聞く(新聞紙学的 10/28/2017
※参照:フェイクニュース、誰が拡散? 選挙に忍び込むボット(朝日新聞デジタル 4/15/2018

ハワード氏が率いる「コンピュテーショナル・プロパガンダ・プロジェクト」は、欧州研究会議(ERC)、全米科学財団(NSF)からの資金助成を得て、ネット上のフェイクニュースの拡散や、その自動拡散プログラム「ボット」の実態について、継続的な調査を実施。

英国のEU(欧州連合)離脱国民投票や米大統領選、フランス大統領選、英総選挙、ドイツ総選挙などでの、その広がりを次々に明らかにしてきている。

※参照:虚偽と報じても、さらに広まる…トランプ氏のツイートを、メディアはどう扱うべきか(新聞紙学的 12/04/2016
※参照:フェイクニュースは最激戦州を狙い、そして氾濫した(新聞紙学的 10/07/2017

ハワード氏らは、2017年から同報告書をまとめており、今回が3回目になる。

各国の状況は、フェイクニュース関連のニュースを収集し分析。各国状況について専門家のアドバイスも受けた上で報告をまとめたという。

報告書がまず明らかにするのは、政府や政党などの権力側が、フェイクニュースなどのソーシャルメディア工作を展開している国の数の急速な伸びだ。

ソーシャル工作が展開されている国は、調査初年度の2017年には28カ国だったが、2018年には48カ国、そして今回は70カ国と、2年で2.5倍の伸びを示している。

●人権抑圧、政敵攻撃、言論弾圧

さらに、フェイクニュース(コンピューテーショナル・プロパガンダ)が専制的な国家によって、人権抑圧、政敵攻撃、言論弾圧という、いわば「政治的武器」として使われているケースが、26カ国で見られるという。

この中には、ロシア、中国、インド、トルコ、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、北朝鮮などの国々が含まれている。

「政治的武器」として使われるのは、国内ばかりではない。

広く知られるのは、トランプ大統領が誕生した2016年の米大統領選へのロシアによる介入疑惑だ。

※参照:ロシアの「フェイクニュース工場」は米大統領選にどう介入したのか(新聞紙学的 02/18/2018

それに加えて報告書は、中国の存在感が増大している、と指摘する。

中国は「フェイクニュースの国際秩序」における主要なプレイヤーになった。2019年の香港デモまでは、中国の「コンピューターによるプロパガンダ」はウェイボー(微博)、ウィーチャット(微信)、QQといったプラットフォームを舞台としていたことが、裏付けられていた。しかし、中国はフェイスブック、ツイッター、ユーチューブなどを積極的に使うようになっていることが、新たにわかってきた。これは民主主義国にとっての懸念材料となる。

ツイッターは8月、香港のデモをターゲットに、連携して情報工作を仕掛けていた936のアカウントを停止した、と発表している

いずれも中国から発信され、国家が支援する情報工作であることを示す証拠もある、という。中国ではツイッターの利用が禁止されているため、多くはVPN(仮想専用ネットワーク)経由で接続されていたが、中にはツイッターをブロックしていない特別なIPアドレスを使って接続したアカウントもあった、という。

また、936のアカウントを停止すると、さらに20万にのぼる新たなスパムアカウントが活動を始めたが、すべて出鼻をくじく形で停止させた、としている。

また、ツイッターから通報を受けたというフェイスブックも同月、香港のデモをターゲットとした攻撃を行う、中国からの発信による7つのフェイスブックページ、3つのグループ、5つのアカウントを削除した、と発表している

これらのフェイスブックページをフォローしていたユーザーは1万5,500、グループに参加していたユーザーは2,200に上るという。

●「集団通報」による攻撃も

ソーシャル工作で最も多いのが、フェイクニュースや、それらを発信するフェイクメディアの作成だ。

ソーシャル工作が確認された70カ国中、52カ国でフェイクニュース、フェイクメディアの作成が行われていた。
同じく52カ国でフェイクニュースなどの拡散を手がける工作も確認された。

政敵、野党、ジャーナリストらに対するトローリング(荒らし)、ドクシング(個人情報のさらし)、ハラスメント(いやがらせ)などの攻撃も、47カ国で起きていた。

そして、ソーシャルメディアへの大量の「集団通報」によって、活動家やジャーナリストらのコンテンツやアカウントを停止させる工作も、ロシア、中国、トルコ、イランなど11カ国で確認された。

不適切コンテンツの停止を自動化しているソーシャルメディアなどが、この工作で悪用されるという。

●主舞台はフェイスブック

国家によるフェイクニュースなどのソーシャル工作は、国境を越えて、グローバルにも展開されている。

それらの工作の一端は、拡散の舞台として使われているフェイスブックやツイッターが公開している。

ロシアや中国の事例に加えて、インド、イラン、パキスタン、サウジアラビア、ベネズエラが、このような国外への工作が確認されている、という。

ただ、その詳細はなお不明な点が多い、という。

そして、「サイバー部隊」によるフェイクニュースなどのソーシャル工作の主舞台は、依然としてフェイスブックだった。

ソーシャル工作でフェイスブックが使われていたのは56カ国で、全体の8割を占める。

次いでツイッターの47カ国、さらにワッツアップ、ユーチューブの12件、インスタグラムの8件、と続く。

●ソーシャル工作の予算規模

「サイバー部隊」によるソーシャル工作の規模は、国によってまちまちだ。

中国では地方、地域の拠点で工作に携わる「サイバー部隊」は、推定で30万人から200万人にのぼる、という。

一方、イスラエルの「サイバー部隊」の要員は400人。だが工作のための支出は1億ドルを超す。

また、イスラエルでは工作要員に対する公式の訓練プログラムがある、という。

訓練プログラムを海外と共有する動きもある。

ミャンマーでは工作要員が、ロシアの訓練プログラムを受けている、という。また、エチオピアも、中国での訓練プログラムを受けているようだ。

●面として広がるフェイクニュースのノウハウ

フェイクニュースは当初、ロシア発による対米、対EUの選挙介入、社会分断などの情報工作、として注目を集めた。

だが、この情報工作が一定のインパクトを持つことが明らかになり、同種のノウハウは、グローバルにパンデミック化している。

そして、2020年の米大統領選を控え、改めてフェイクニュースへの対抗策の実効性が問われている。

米ニューオリンズで、9月に開かれたデジタルニュースの大規模カンファレンス「ONA19」の中心テーマになっていたのが、まさにフェイクニュース対策と、その背景にあるメディアの信頼低下への対処だった。

※参照:“メディア嫌い”がフェイクを支える、その処方箋と2029年の「人工メディア」:#ONA19 報告(新聞紙学的 09/14/2019

この間のフェイクニュースをめぐる議論と対策の、真価が問われるタイミングが来ている、ともいえる。

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