「ニュースに関心ない」新型コロナで広がるメディアへの憂鬱

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06/25/2021 by kaztaira

日本を含む多くの国で、ニュースへの関心が低下している――。
 
 
 
英オックスフォード大学のロイター・ジャーナリズム研究所が23日に発表した報告書「デジタル・ニュース・レポート2021」で、そんな傾向を指摘している。
 
世界46カ国、9万人以上への調査結果によれば、日本を含む24カ国で「ニュースに関心がある」との回答は5年前と比べて5ポイント低下。米国では11ポイントも低下していた。
 
新型コロナをめぐるニュースが繰り返されることにうんざりしている、という側面もあるという。
 
また、米国での低下の理由として指摘されるのが、保守層のニュース離れだ。トランプ前大統領の退陣が影響しているようだ。
 
ただ、新型コロナ禍をめぐる誤情報や虚偽情報、つまりフェイクニュースへの懸念は大きい。フェイクニュースの抑制の役割が期待されるのは、信頼できるニュースだ。
 
報告書は、コロナ時代の信頼されるニュースのあり方を、問いかけている。
 

●激動の時代にもかかわらず

 
長期的に見ると、激動の時代にもかかわらず、実際には多くの国でニュースへの関心は低下している。「非常に」「極めて」関心がある、との回答は2016年に比べて平均で5ポイント低下。スペインと英国で17ポイント、イタリアとオーストラリアで12ポイント、フランスと日本で8ポイント低下している。ただ、ドイツやオランダなどでは、ほとんど低下は見られなかった。
 
報告書「デジタル・ニュース・レポート2021」の中で、同研究所シニア・リサーチ・アソシエートのニック・ニューマン氏は、そう述べている。
 
同報告書の発行は、2012年以来、今回で10回目。今回は世界46カ国、9万人以上(各国約2,000人)を対象に、2021年1月末から2月初めにかけてオンラインアンケートを実施している。
 
それによると、ニュース全般への信頼は44%で、前年比6ポイント増と新型コロナ禍をきっかけに上向きの傾向を示している。
 
ニューマン氏が紹介するのは、日本を含む24カ国の「ニュースへの関心」についてのデータだ。
 
2016年の調査ではニュースに「関心がある」との回答は63%。これ以降、63%(2017年)、62%(2018年)、59%(2019年)、58%(2020年)、58%(2021年)と、漸減傾向にある。
 
そして各国の状況を見ると、スペインでは84%→67%、オーストラリアは63%→51%、ドイツでも71%→67%と緩やかではあるが、それぞれ下降線をたどっている。
 
低下の要因としてニューマン氏が指摘するのは、35歳未満の若者層と低学歴層の関心の低さ(それぞれ52%と51%)だ。
 
さらに、英国、米国などでのフォーカスグループへの調査で、特に新型コロナ報道をめぐって「かなり気が滅入るようになった」「コロナ、コロナ、コロナの繰り返し」などの反応があることを紹介している。
 

●米国での保守層の離脱

 
米国でのニュースへの関心は、2020年から11ポイント低下の55%だった。
 
この急激な低下は、政治の影響が大きいと、ニューマン氏は指摘している。トランプ政権時のニュースへの関心が、その退陣とともに急速にしぼんだことも引き金になっているようだ。
 
報告書によれば、前年と比べると左派の支持層は78%→77%とほぼ変化はないが、右派の支持層は74%→57%と明確に落ち込んでいる。
 
トランプ氏がホワイトハウスから去ったことで、ニュースそのものに関心を失った多くの保守層がいたことが分かる。
 
特にメディアにおけるトランプ氏への関心の高まりは「トランプ景気(Trump Bump)」と呼ばれてきたが、その消失はメディアへの接触も直撃している。
 
ワシントン・ポストが掲載するコムスコアのデータによると、トランプ政権最後の2021年1月、同紙のサイトへのユニークビジターは1億1,160万人だった。同月初めには、5人の死者を出した連邦議会議事堂への乱入事件など大きなニュースもあった。
 
そして、政権交代後の翌2月、ユニークビジター数は8,250万人。26%の急減となった。
 
ユニークビジター数でメディアの1位を占めるCNNも、1月の1億7,520人に対し、2月は1億4,590人。17%の減少に見舞われている。
 
また、ポストが紹介するニールセン・メディア・リサーチのデータによると、CNNは3月下旬までの5週間で、プライムタイムの視聴者が45%減少したという。
 
これらの動きを受けて、ニューマン氏はこう指摘している。
 
社会が健康と繁栄の存亡の危機にさらされている時に、メインストリームのニュースに対する関心の低下は大きな課題だ。低レベル化や扇情主義で信頼を損ねることなく、ニュースへの関心をどうやって再び引き付けるか。それがメディア企業に問われている。
 

●メディアビジネスの足元

 
新型コロナ禍は、メディアビジネスも直撃している。
 
世界新聞協会(WAN-IFRA)が2021年4月に発表した加盟51カ国90社超の経営幹部への調査によれば、過去1年間の収益減は11%にのぼる。このうち回答者の43%は、収益減の割合が20%以上だったという。
 
その影響は特に米国で目立ち、各地でメディアのリストラが相次いだ
 
※参照:編集長たちは次々と去り、残ったメディアは合併する(11/22/2020 新聞紙学的
 
新型コロナは、それ以前から深刻化していたメディアの地盤沈下の、ダメ押しをするタイミングとなった。
 
※参照:2週間で1,700人規模のリストラ、米メディアで何が起きているのか(02/02/2019 新聞紙学的
※参照:米メディア、1日で1,000人のリストラ明らかに(01/25/2019 新聞紙学的
※参照:2019年、メディアを誰も助けには来ない(01/12/2019 新聞紙学的
 
だがロイター・ジャーナリズム研究所の調査では、このような「メディアの窮状」には、世界的にもほとんど関心が向けられていないことがわかった。
 
「報道機関の財政状況について懸念をしているか」との質問には、53%が「懸念していない」と回答。「懸念している」は31%にとどまっていた。
 
調査した33カ国の内訳を見ると、日本(37%)、インド(52%)、オランダ(42%)、ポルトガル(49%)の4カ国では「懸念している」の方が上回ったが、残る29カ国では「懸念していない」が大勢を占めていた。
 
また、「財政危機の報道機関に対し、政府は支援に介入すべきか」との設問では、「介入すべき」が27%だったのに対し、「介入すべきでない」は44%に上った。
 
インド、シンガポール、ポルトガル、トルコの4カ国で「介入すべき」が上回り、スイスでは同率だったが、日本を含む残る28国では「介入すべきでない」が大勢だった。
 
つまり、メディアの窮状は世界の大半の人々にとって関心事ではなく、新型コロナ禍において、政府は別にやることがある、と考えられているようだ。
 

●持続可能なジャーナリズムへの支援

 
ロイター・ジャーナリズム研究所の報告書発表の1週間前、6月16日にNGO「国境なき記者団(RSF)」(本部・フランス)が事務局を務める「情報と民主主義フォーラム」が、「ジャーナリズムのためのニューディール政策」と題した報告書をまとめている。
 
報告書を取りまとめた作業部会の運営委員長が、ロイター・ジャーナリズム研究所の所長、ラスムス・クライス・ニールセン氏だ。ニールセン氏は、「デジタル・ニュース・レポート」で、前述の「メディアの窮状」の執筆も担当している。
 
「ジャーナリズムのためのニューディール」が提言しているのは、持続可能なジャーナリズムのための、具体的な支援策のメニューだ。
 
報告書では、ジャーナリズムを民主主義社会に必要な機能と位置づけ、「メディア業界」ではなく、機能としてのジャーナリズムを持続可能なものへと再構築することを提言する。
 
その提言の柱は、「ジャーナリズムのために年間でGDPの最大0.1%を保証すること」だ。これは、米国では209億ドル(約2.3兆円)、日本では50億ドル(約5,600億円)という金額に相当する。
 
報告書は、この支援額は、各国政府が化石燃料業界に交付する年間支援額のちょうど20%に当たる、と指摘。
 
デンマーク(GDPの0.21%)やフランス(17億ユーロ、約2,250億円)のように、すでにこれに相当する補助金をメディアに支給している国々もある、と述べている。
 
また、直接的な補助金支給だけでなく、付加価値税(消費税)の減免なども選択肢として提示する。
 
さらに報告書では、この財源としてGAFAなどのデジタルプラットフォームへの課税強化などを挙げる。OECDの試算では、これにより少なくとも1,000億ドル(約11兆円)の税収増が見込めるとしている。
 
このような提言の背景には、各国政府によるGAFAなどの巨大プラットフォームへの規制強化の機運がある。
 
そしてその中で、オーストラリアでは2021年2月、グーグル、フェイスブックなどのプラットフォームに、メディアとのニュース使用料の支払い交渉を義務化する新法が成立。同様の動きが、各国に波及している。
 
※参照:Google、Facebook「支払い義務化法」が各国に飛び火する(03/01/2021 新聞紙学的
※参照:Google、Facebookの「ニュース使用料戦争」勝ったのは誰か?(02/19/2021 新聞紙学的
 
ただ、「デジタル・ニュース・レポート」の調査結果が示すように、「メディアの窮状」への関心は薄く、政府による支援には否定的な声が大勢を占める。
 
一方では、特に政府による財政支援は、それによってメディアが権力に取り込まれる危険性、「メディアキャプチャ」への懸念も指摘される。
 
ニュースへの無関心。そしてメディアの現状への無関心。問題は、メディアに対する鬱積した不満があることだ。
 

●公平に報じられていない

 
「デジタル・ニュース・レポート」では、ニュース報道の公平性についての調査結果もまとめている。
 
それによれば、国ごとにかなり顕著な違いがあるものの、特に政治的な二極化が、メディアの公平性への不満を浮かび上がらせていることがわかる。
 
報告書では日本、米国、英国、ドイツ、ブラジル、スペインの6カ国で、右派、左派、中道の政治勢力をめぐる「ニュースメディアの報道は公平か」という設問を、それぞれの支持層にたずねている。
 
それによると、その差が最も顕著なのは米国で、右派は「公平でない」59%、左派は「公平」17%。次いでドイツで右派は「公平でない」37%、左派は「公平」24%。
 
一方で、日本は右派(22%)、左派(8%)とも「公平でない」と回答。同様の傾向はブラジル(右派25%、左派8%)、スペイン(右派25%、左派12%)でも見られた。
 
米国、ドイツのような政治的二極化の反映だけでなく、日本などのケースでは、左右ともに、ニュースの「公平性」に疑問を投げかけている。
 
ただ、各国でほぼ共通するのは保守層の強い不満だ。
 
このような不満が根強くある中では、持続可能なジャーナリズムという論点もかすむ。
 

●メディア側の改革

 
「ジャーナリズムのためのニューディール政策」では、メディアの所有者の透明化など、メディア側の改革の必要性を第一に指摘している。
 
それに加えて、保守層とメディアの分断を考える上で、1つの手がかりになりそうなのが、「道徳的価値観」の導入だ。
 
これは共同研究グループ「メディア・インサイト・プロジェクト」が4月14日に公表した調査報告「メディアの信頼への新たな視点:米国人はジャーナリズムの基本的価値観を共有しているのか?」の中で提示したものだ。
 
※参照:メディア嫌いには「偏向報道」よりもっとずっと深い理由があった(04/16/2021 新聞紙学的
 
同グループは、米ニュースメディア連合(NMA、旧米国新聞協会)傘下の調査研修機関である「アメリカン・プレス研究所(API)」と、AP通信と社会調査機関NORC(シカゴ大学)による「公共問題調査センター」による共同プロジェクトだ。
 
調査のベースとなったのは、ニューヨーク大学スターン・ビジネススクール教授、ジョナサン・ハイト氏が、米国社会の左右の分断を、道徳心理学の視点で探り、ベストセラーとなった著書『社会はなぜ左と右にわかれるのか』(2012年※日本版は高橋洋訳、紀伊国屋書店、2014年)だ。
 
ハイト氏は著書の中で、道徳についての5つの「ケア(思いやり)」「公正」「忠誠」「権威」「神聖」という基盤的要素を提唱している。
 
「メディア・インサイト・プロジェクト」の報告書では、これをメディアに当てはめ、「ケア」「公正」を重視したニュースがリベラル層に強くアピールする一方、「忠誠」「権威」「神聖」などの道徳的価値を重視する保守層を中心とした人々には届いていない、と指摘。
 
これらの価値観をニュースに取り込むことで、より広い読者層にアピールすることを提言している。
 

●誤情報への懸念と対処

 
新型コロナ禍において、誤情報や虚偽情報、いわゆるフェイクニュースへの懸念が強いことも、「デジタル・ニュース・レポート」では明らかにされている。
 
誤情報への「懸念がある」との回答は全体で58%(前年比2ポイント増)。アフリカ(74%)、南米(65%)、北米(63%)、アジア(59%)、欧州(54%)と、その懸念は世界的に広がる。
 
フェイクニュースへの対処を担うべき機能として、なおジャーナリズムの役割は大きい。持続可能なジャーナリズムへの取り組みは、急を要する。
 

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