「倒産の可能性も」Twitter主要幹部相次ぎ辞任、広告主の懸念は止まらないCEO自身のツイート

11/11/2022 by kaztaira

イーロン・マスク氏の買収後の要と目された2人の幹部が急遽、辞任。「倒産の可能性」も口にしたマスク氏。そして広告見送りが広がる広告主の懸念の先は、やはりマスク氏のツイートだった――。
 
 
 
テスラ、スペースXのCEO、イーロン・マスク氏によるツイッター買収をめぐる混乱の中でも、広告主の離反、広告収入の急落は、そのビジネスの足元を揺さぶる。
 
広告主が最も不安を持つのは、ツイッターでフェイクニュースやヘイトスピーチなどの有害コンテンツが氾濫することによる、自社のブランドの毀損だ。
 
だがさらなる懸念が指摘されている。予測不能な、マスク氏自身のツイートだ。
 
米下院議長宅襲撃事件をめぐるフェイクニュース拡散、広告出稿を見合わせる広告主への恫喝」――有害コンテンツへの不安に加えて、止まらないマスク氏のツイートの「表現の自由」が、「イーロン・リスク」として広告主の表情を曇らせているようだ。
 
そんな混乱のさなかの11月10日、ツイッターのセキュリティ担当の責任者と、有害コンテンツ規制の要だった安全対策の責任者、さらに営業担当の責任者が、相次いで辞任したこと明らかになった
また、ニュースレター「プラットフォーマー」のゾーイ・シファー氏は11月10日のツイートで、マスク氏が買収後初の社員向けスピーチで、「倒産の可能性」に言及した、と述べている。
 

●買収後の中心幹部が相次ぎ辞任

 
広告を出しているなら、そのすぐ隣に極めてネガティブな情報を置きたくないと思うのは当然です。広告の隣に不適切なコンテンツがないよう、総力を挙げています。
 
マスク氏は11月9日、広告出稿見送りの動きが急速に広がる中で、音声配信サービス「ツイッター・スペース」を使って広告主向けの説明会を実施。コンテンツ管理の取り組みに理解を求めた
 
だが翌11月10日、有害コンテンツ規制の要だったヨエル・ロス氏、最高情報セキュリティ責任者(CISO)のリア・キスナー氏、米国クライアントソリューション担当副社長だったロビン・ウィーラー氏らが辞任したことが明らかになった。
 
ロス氏とウィーラー氏は、9日の広告主への説明会に、マスク氏とともに同席。いずれも、買収後のツイッターの柱になると目されていた。
 
その柱がそろっていなくなってしまった。
 
またニュースレター「プラットフォーマー」のマネージングエディター、ゾーイ・シファー氏は11月10日の連続ツイートの中で、ツイッター関係者の話として、マスク氏が買収後初の社員向けスピーチで、「倒産の可能性も否定はできない」と言及した、と述べている。
 
また、シファー氏は一連のツイート中で、マスク氏がこのスピーチで、「物理的に会社に来られるのに、来ないということは、辞表の受理を意味する」と話した、とも述べている
 
買収成立から2週間、ツイッターの行方はさらに混沌としている。そのカギになっているのは、マスク氏自身のツイートだ。
 

●CEOの風評リスク

 
彼(マスク氏)のツイッターアカウントは、私の経験からすると、ほとんどのフォーチュン500企業が受け入れることのできないレベルの風評リスクをもたらしている。
 
マーケティングの業界団体「MMAグローバル」の社長兼COO、ルー・パスカリス氏は、ネットメディア「ヴォックス」のピーター・カフカ氏の11月9日付の記事の中で、そうコメントしている。
 
マスク氏は、1億1,500万人を超すツイッターフォロワーを持ち、フォロワー数ランキングではオバマ元大統領に次ぐ、世界2位のインフルエンサーだ。その影響力が、懸念材料となっている。
 
その一つが、マスク氏によるツイッター買収が成立してから3日後の10月30日、元国務長官、ヒラリー・クリントン氏のツイートへの返信として投稿された内容だ。焦点となったのは、米下院議長、ナンシー・ペロシ氏宅が襲撃され、夫ポール・ペロシ氏がけがを負った事件だ。
 
クリントン氏は10月29日のツイートで、事件の容疑者がQアノンなどの陰謀論を拡散していたことを伝えるロサンゼルス・タイムズの記事のリンクとともに、共和党支持者が陰謀論拡散に加担している、と非難をした。
 
これに対してマスク氏は翌10月30日、クリントン氏への返信で、事件が「酩酊状態のポール・ペロシ氏と知人の男娼とのいさかい」と主張するフェイクニュースのリンクとともに、「このストーリーには、見た目以上のことがある可能性も、ないわけではない」と投稿していた
 
サイトの信頼性判定を行う「ニュースガード」によれば、マスク氏がリンクを掲載したサイトはこれまでにも、新型コロナや政治に関する誤情報の発信が確認されてきた。
 
マスク氏は批判を受けて投稿を削除したが、それまでに2万を超すリツイート、10万を超す「いいね」を集めていた。マスク氏が取り上げたフェイクニュースは、その後も、ポール・ペロシ氏への攻撃手段として拡散を続けたという。
 
2005年にニューズ・コーポレーションが買収したソーシャルメディア「マイスペース」の立ち上げに携わった起業家、ブラッド・グリーンスパン氏は、ペロシ氏宅襲撃事件をめぐるマスク氏のフェイクニュース拡散について、AP通信にこう述べている。
 
彼は、自分がこのプラットフォームのオーナーであり、好き勝手なことを言えるユーザーではないことを一瞬、忘れてしまっていたようだ。現在は、オーナーとして、全く新しい責任を担っているのに。
 
またマスク氏は11月4日、広告主による出稿見合わせの動きが広がっていることをめぐり、「こんなことがさらに続くようなら、社名を公表して熱核反応にさらすことになる」と、恫喝のようなツイートを行っている。
 
上述のパスカリス氏は、ツイッター社員の大量解雇についてマスク氏に尋ねるツイートをしたところ、アカウントをブロックされたという。
 
カフカ氏の記事の中で、ツイッターの元社員はこう指摘している。
 
イーロンはそのすべてのツイートが、(ツイッター社の)ポリシーの宣言になるのだということを理解しておく必要がある。
 

●出稿見合わせが広がる

 
ツイッターの体制変更が発表されてからこれまで、ヘイトスピーチが大幅に増加するのを目にした。不適切なメッセージの隣に、当社の広告が表示される危険性がある、と考えた。
 
ロイター通信の11月8日付の記事の中で、米大手食料品メーカー、モンデリーズ・インターナショナルCEOのダーク・バン・デ・プット氏は、ツイッターへの広告出稿見合わせの理由について、そう述べている。
 
モンデリーズはナビスコ、オレオ、リッツ、メントスなどのブランドを国際的に展開している。
 
マスク氏は、買収後のツイッターのコンテンツ管理方針について、「ブランドセーフティへの取り組みは不変」「混沌とした地獄図絵にはしない」と表明。「コンテンツモデレーション評議会」というコンテンツやアカウントへの措置の可否を判断する第三者組織を設立するとも述べている。
 
だが広告主の出稿見合わせ動きは、急速に広がる。
 
米調査機関「ネットワーク感染研究所(NCRI)」のデータによると、広告主の懸念を裏付けるかのように、マスク氏による買収が成立した10月27日夜から12時間で、黒人差別の表現(Nワード)は500%近く増加したという。
 
有力ユダヤ人団体「名誉棄損防止同盟(ADL)」の調査でも、買収成立後、24時間で1,200件を超す反ユダヤ主義のツイートが拡散したという。
 
ツイッターの信頼性・安全性の責任者、ヨエル・ロス氏も10月29日、過去48時間で300のアカウントから誹謗中傷の表現を使った5万件に上るツイートが繰り返されている、と明らかにした。
 
ロス氏は10月31日、1,500超のアカウントを削除し、そのコンテンツ表示(インプレッション)もほぼゼロにした、とも述べた
 
上述のようにマスク氏は、ツイッターのロス氏らの有害コンテンツ抑制の取り組みの渦中で、ペロシ氏宅襲撃事件をめぐるフェイクニュースを拡散していたことになる。
 
そんなツイッターの混乱の中で、まずテスラのライバル、ゼネラルモーターズが10月28日、広告出稿の見合わせを表明する。
 
国際的な広告主などの団体「世界広告宣伝業連合(WFA)」のデジタルの安全性向上のためのプロジェクト「責任あるメディアのためのグローバルアライアンス(GARM)」も10月31日、ツイッターに対して有害コンテンツ排除の取り組みを継続するよう求める
 
そして米広告大手のインターパブリック・グループはIPGメディアブランドエージェンシーのクライアントに対して、ツイッターへの広告停止を推奨する。
 
上述のモンデリーズ、ゼネラル・ミルズ(ハーゲンダッツ、チェリオスなど)、ファイザー、飲料大手のカールスバーグ、アウトドア用品のレクリエーショナル・イクイップメント(REI)フォルクスワーゲン・グループ(アウディ、ランボルギーニ、ベントレー、ドゥカティ、ポルシェなど)、ユナイテッド航空、保険大手のアリアンツ、レストランチェーンのチポトレ・メキシカン・グリルと懸念の連鎖は止まらない。
 
この間の11月3日、ツイッターの全社員7,500人の50%に上るリストラが明らかにされ、懸念はさらに加速する。
 
広告見合わせの動きを後押ししているのが、人権擁護団体などのキャンペーンだ。
 
11月1日には、54の市民社会団体が、アマゾン、アップル、グーグル、メタ(フェイスブック)などツイッターの上位20の広告主のCEO宛に公開書簡を送付。コンテンツ管理の後退に、広告引き上げを表明するよう要請した。
 
この公開書簡の中でもまず、ペロシ氏宅襲撃事件をめぐるフェイクニュースの拡散が指摘されている。
 
11月2日には、ADL全米黒人地位向上協会(NAACP)スリーピング・ジャイアンツなどによるキャンペーン「ストップ・ヘイト・フォー・プロフィット」などの市民社会団体がマスク氏と会談。
 
だが、なおヘイトとフェイクが蔓延しているとして、11月4日には世界規模でツイッターへの広告停止呼びかけている
 
同キャンペーンは、黒人男性ジョージ・フロイド氏死亡事件をきっかけとした人種差別撤廃の機運の高まりの中で2020年6月、フェイスブックにヘイトなどの有害コンテンツ対策を求める動きとして立ち上がった。
 
※参照:スターバックス、ユニリーバ、コカ・コーラが相次ぎ広告ボイコット…Facebookに何が起きている?(06/29/2020 新聞紙学的
 
このような有害コンテンツをめぐるプラットフォームへの広告ボイコットの動きは2017年にも、ユーチューブのヘイト動画をめぐって広がった経緯がある。この時のキャンペーンを主導したのが、スリーピング・ジャイアンツだった。
 
※参照:グーグルからの広告引き上げ騒動、広がり続けるその背景(03/25/2017 新聞紙学的
 

●「震源」としてのマスク氏のツイート

 
ツイッターは、活動家グループが広告主に圧力をかけたため、収益が大幅に減少した。コンテンツ管理は何も変わっておらず、活動家たちへの宥和の手立てとしてできることはすべて行ったのに。
極めてメチャクチャだ! 彼らはアメリカの言論の自由を破壊しようとしている。
 
マスク氏は、「ストップ・ヘイト・フォー・プロフィット」などの動きに、そう不満を述べている
 
ただ、そもそもマスク氏の買収が成立する以前から、ツイッターの広告は減少傾向に入っていたようだ。
 
調査会社「メディアレーダー」のデータによると、ツイッターに出稿する広告主の数は1月から4月の平均が3,350社、5月の3,900をピークに、5月から9月の平均は3,100社となっていた。
 
マスク氏をめぐっては、そのツイートこそが、混乱を引き起こす「震源」となってきた。
 
マスク氏の「表現の自由」へのこだわりの背景として指摘されているのが、米証券取引委員会(SEC)との確執だ。
 
マスク氏は2018年8月初めに「テスラの株式非公開化」についてツイートし、3週間もたたずに撤回。この騒動をめぐり、マスク氏はSECから証券法違反(証券詐欺)に問われ、会長辞任と、同社と合わせて制裁金4,000万ドルを支払うことで和解している。この和解条項には、マスク氏のツイッター投稿を以後、同社の弁護士が事前確認することも義務付けられていた。
 
※参照:「マスク氏、Twitter買収」でフェイク拡散へ迷走?各国が懸念する本当の理由(04/28/2022 新聞紙学的
※参照:「イーロン・リスク」がTwitterの「表現の自由」を損なう、これだけの理由(05/13/2022 新聞紙学的
 
だがその後、マスク氏はしばしば物議を醸すツイートを繰り返し、そのたびにSECとのトラブルとなり、ツイッターの「表現の自由」を訴えて、現在にいたる
 
ツイッター買収をめぐっても、マスク氏が2022年5月にツイッターのスパムに関する調査が不十分だとして「(買収交渉は)これ以上進めることはできない」としたツイートについて、SECは6月、説明を求める書簡を公開している。
 
離れているのは、広告主だけではない。
 
調査会社「ボットセンチネル」によるツイッター買収成立の10月27日から11月1日までのデータでは、すでに130万人のツイッターアカウントが停止もしくは離脱となっているという。
 
また、ツイッターからの乗り換え先として、オープンソースのソーシャルメディア、マストドンのユーザーが急増。月間ユーザーは100万人を超えたという。
 
※参照:急拡大するマストドン、“サイロ”化するソーシャルメディアへの対抗軸(04/22/2017 新聞紙学的
 
国連も懸念を示している。
 
国連人権高等弁務官のフォルカー・トゥルク氏は11月5日、マスク氏に公開書簡を送り、「人権がツイッターの経営の中心にあることを明確にすること」を求めた。ツイッターの大規模リストラによって、人権チーム、AI倫理チームが解任されたことへの対応だという。
 
それで、「恫喝」された広告主やユーザーが安心できるのかどうか。

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