ハッカーの流儀と自由な情報

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02/06/2012 by kaztaira

「ハッカーウェイ(ハッカーの流儀)」という言葉が、ちょっとした話題になっています。

 出元はフェイスブックの最高経営責任者(CEO)マーク・ザッカーバーグ氏。2月1日に、同社が米証券取引委員会(SEC)に新規株式公開(IPO)のための書類を提出した際、添付した「手紙」にあった一項目が「ハッカーウェイ」。

「我々は独自の企業文化を育んできた。この経営手法をハッカーウェイと呼んでいる」

 ここで使っている「ハッカー」という言葉についてザッカーバーグ氏は、ネット犯罪者という意味合いではなく、「世の中にプラスの効果をもたらそうとする理想主義的な人々」と述べている。
 さらに、このハッカーウェイのポイントを次のように述べている。
 ・さらに良くしていけると信じて、絶えず改良を繰り返していく
 ・一度に完成品を目指すのではなく、素早い公開と細かい修正の繰り返すことで最高のサービスを目指す。「達成は完璧に勝る」
 ・何日も議論に費やすより、まずはプロトタイプ(試作品)をつくって機能するかどうかを見る。「議論よりコード」
 ・ハッカーの文化はオープンで実力主義。
 この企業文化を維持するため、数カ月に1度、新しいアイディアを持ち寄ってプロトタイプをつくる「ハッカソン(ハック+マラソン)」や、新規採用のエンジニア(やマネージャー)に対する研修「ブートキャンプ」を行っているという。
 「ハッカー」という言葉が一般に知られるようになったのは、ジャーナリスト、スティーブン・レビー氏が1984年に出した著書『ハッカーズ』の存在が大きい。コンピューター革命の担い手としてのハッカー群像を描いた名著だ。
 この本をきっかけに、『ホール・アース・カタログ』発行人だったスチュアート・ブランド氏らが同年、カリフォルニアで「第1回ハッカーズ・カンファレンス」を開催している。
 そして、この年に生まれたのがくだんのザッカーバーグ氏だ。
 『ハッカーズ』から4半世紀以上を経て表明されたザッカーバーグ氏の「ハッカー宣言」について、レビー氏が雑誌『ワイヤード』のオンライン版で取り上げている。ポイントは「ハッカー倫理」だ。
 レビー氏は『ハッカーズ』の中で、ハッカーの信念や哲学を「ハッカー倫理」としてまとめている。「口よりまず先にやってみる」「改良が必要なものを目にすると、修正したくなってしまう習性」。『ワイアード』の記事では、これらの「倫理」と「ハッカーウェイ」との共通点を挙げる。
 そして、「ハッカー倫理」で真っ先に挙げられる、「情報は自由であるべきだ」という点についてはどうか、と問いかける(ちなみに、有名な「情報は自由になりたがる」というテーゼは、1984年のハッカーズ・カンファレンスでスチュアート・ブランド氏が表明したのが最初とされている)。
 『ハッカーズ』25周年にあわせてレビー氏が行ったインタビューの中で、ザッカーバーグ氏はこの質問に対してこう答えたという。
 ハッカー文化について書かれているあらゆる本を読んでみても、情報が自由になりたがる、といった考え方は中心的なポイントだ。ただ、我々[フェイスブック]の見方はやや現実的かもしれない。つまり、利用者は自分の情報をコントロールできるべきであり、それが結局は情報をオープンにすることにつながる、ということだ。いずれにしても、われわれは情報がオープンであることは、いいことだと思っている。
 そして、この言い分には強い異論がある。
 『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』の著者であるジョン・バッテル氏は、「これはグーグルへの脅威かどうかという問題ではない」というタイトルのブログ投稿で、フェイスブックのような検索エンジンにも引っかからない「閉じたサービス」の拡大によって、イノベーションを生み出してきたオープンなウェブはどんどんと狭められている、と指摘する。
 そして〝オープン〟で〝自律した〟ウェブとは、次のようなものだ、と述べている。「守衛などいない」「コミュニティの精神がある」「データの利用法に制約がない」「ウェブ上のコンテンツには平等にアクセスできる」「ウェブに中央管理棟は存在しない」
 検索サービスをカバーするライターとして、検索への脅威となるフェイスブックへのコメントだけに、バッテル氏の立ち位置を割り引いて考える必要はあるだろう。ただ、フェイブック、さらにアップルのような、システム上「閉じた」インターネットをめぐる問題点を指摘しているのは、同氏だけではない。
 黎明期のブログソフト開発、さらにブログの配信システム「RSS」の開発で知られるデイブ・ワイナー氏もバッテル氏に賛同している。
 オープンなインターネットか、コントロールできる〝安全な〟ネットか、という議論は、アップルのアイフォーンなどをめぐってネットの未来を論じたハーバード大バークマンセンターのジョナサン・ジットレイン教授の『インターネットが死ぬ日 そして、それを避けるには』に詳しい。
 さらに、『ワイアード』の2010年8月号の特集は「ウェブは死んだ」。やはり、検索エンジンに引っかからない、「閉じた」ネットの広がりをまとめていた。
 中には、著名ブロガーのロバート・スコブル氏のように、4年前から問題を指摘していたのに耳を傾けてくれた人はほどんどいなかった、として「もう手遅れだ」とさめた見方をする人までいる。スコブル氏は4年前、フェイスブック内の連絡先データをグーグルなどの外部サービスに持ち出せるようなプログラムを走らせたところ、アカウント停止の憂き目にあった経験があるようだ。
 少なくともどれか一つのサービスに〝ロックイン(閉じ込め)〟されることに不安を感じるなら、この議論はフォローしておいた方がいいかもしれない。

 

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