2週間で1,700人規模のリストラ、米メディアで何が起きているのか

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02/02/2019 by kaztaira

米メディアで吹き荒れるリストラの嵐は、さらに拡大している

大手新聞チェーン、マイアミ・ヘラルドなどを要するマクラッチーでも勧奨退職を募集。ネットメディアでも、ヴァイスでリストラが告知された。

この2週間で明らかになった、勧奨退職を含むリストラの規模はベライゾン・メディア、バズフィード、ガネットなどと合わせて計1700人にのぼる。

※参照:米メディア、1日で1000人のリストラ明らかに(01/25/2019)

「不況マインド」が産業界を覆う中で、苦境のメディア業界はその直撃を受けているようだ。

●マクラッチーでは450人に勧奨退職募集

マイアミ・ニュー・タイムズの報道によると、マクラッチーCEOのクレイグ・フォアマン氏は2月1日朝、スタッフの約10%にあたる450人の対象者に、早期勧奨退職募集の通知をしたことを社内メールで明らかにした。

我々はデジタル移行の変革のために、スタッフ規模の調整を続けていく。

そしてフォアマン氏は、「これは1度限りのチャンスで、2度目はない」と述べ、勧奨退職応募の締め切りは2月19日だとしている。

マクラッチーは看板のマイアミ・ヘラルドのほか、カンザス・シティ・スター、アイダホ・ステーツマン、フレズノ・ビーなど日刊紙30紙を傘下に持つ。

部数減、広告減、デジタルの低調という逆風の中で米新聞業界がとる施策は、デジタル加速、買収、リストラ、だ。

フォアマン氏の「デジタル移行の変革のためのスタッフ規模の調整」とは、「収入に見合ったスタッフ数」ということになる。

メディアアナリストのケン・ドクター氏によると、マクラッチーは2006年にマイアミ・ヘラルドなどを擁していた当時全米2位の新聞チェーン、ナイトリッダーを買収した際の資金を含む7億4500万ドル(815億円)の負債が重荷となっている。

マクラッチーはすでに半年前の2018年8月にも、3.5%、140人のリストラを行った。

そして、看板紙シカゴ・トリビューンや、ニューヨーク・デイリー・ニュース、ボルチモア・サン、ハートフォード・クーラントなどを傘下に持つ新聞チェーン、トリビューン・パブリッシング(旧トロンク)の買収を仕掛けるが、昨年末に物別れの終わっている

●ヴァイスでは250人

ハリウッド・リポーターによると、若者向けネットメディアとして存在感を示してきたヴァイス・メディアでも2月1日、CEOのナンシー・デュバック氏が社内メールで全スタッフの10%、250人のリストラを告知した。

ヴァイスは投資ファンドのTPGキャピタルのほか、ディズニー、フォックス、AT&T傘下のワーナー・メディアなどから10億ドル(1100億円)を超す出資を得ている。

だが、やはり売り上げが低迷。ディズニーは昨年11月、出資額4億ドルのうち評価額1億5700万ドル分の減損損失を計上している。

リストラは米国、英国、カナダのスタッフが対象になるという。

●リストラされたジャーナリストへの攻撃

大規模リストラの波の第1波となったのは1月23日。

ベイライゾン傘下でヤフー、ハフポスト、AOLなどを擁するコンテンツ部門、ベライゾン・メディア(旧オース)での800人規模のリストラに加え、コムキャスト傘下のNBCユニバーサルから出資を受けるバズフィードで250人規模のリストラ、さらに全米トップの新聞チェーンでUSAトゥデーを擁するガネットでも相次ぐリストラが断行された。

メディアを抱えるキャリア側では、コンテンツビジネスから出資額に見合った収益が上がらないことに加え、5G(第5世代移動体通信)対応など、喫緊の課題の重要度が増している。

ベライゾンも昨年8月には、エリクソン出身のCTO、ハンス・ベストベリ氏がCEOに昇格。ヤフー、ハフポストなどのコンテンツより、本業の主戦場である5Gに注力するという姿勢が鮮明となっていた。

ケン・ドクター氏は、現在の状況についてエコノミストのサム・カーター氏「不況マインド」という言葉を引く。

景気の下降局面を示すようなニュースの見出しが相次ぐ中で、不況のメンタリティに落ち込んでしまった状態を指している。

この「不況マインド」が、苦境にあるメディア業界により過酷なインパクトを与える、とドクター氏は見る。

そんな中で、大規模リストラに追い打ちをかけるような動きも出ている。

バズフィードやハフポストなどをリストラされたことをツイッター上で表明したジャーナリストたちに対し、ネット掲示板「4chan」などに集まる極右グループが、「奴らを殺せ」といったメッセージ画像を送り付けるなどの脅迫行為を行っている、という。

それだけではない。

トランプ大統領までが、このリストラの動きをメディア攻撃の材料にしたツイートを行っているのだ。

“バズフィードとハフポストで即刻首切り断行!” ニューヨークポストの見出しだ。フェイクニュースと悪しきジャーナリズムがこのひどい停滞を招いた。残念ながら、多くの他社がこれに続くだろう。人々が望んでいるのは真実だ!

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