フェイスブックに各国政府の集中砲火、それを物ともしないのはなぜか?

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04/28/2019 by kaztaira

フェイスブックに対する各国規制当局の動きが、集中砲火の様相を呈している。

50憶ドル(5500億円)ともいう制裁金を突き付ける米連邦取引委員会(FTC)。さらにニューヨーク州司法長官カナダのプライバシーコミッショナー(OPC)アイルランドのデータ保護委員会(DPC)が、フェイスブックの決算発表の翌日、まるで申し合わせたかように一斉に同社への調査開始や提訴の姿勢を表明した。

8700万人分のユーザーデータが不正利用された疑惑「ケンブリッジ・アナリティカ問題」に加え、その後もやむことのない数々の大規模プライバシー侵害騒動をめぐり、各国規制当局がその包囲網を強めてきているようだ。

だが、フェイスブックの業績は好調だ。今年1-3月期の中間決算も増収。株価もこれを受けて急騰し、一向に拡大路線が足踏みする気配もない。

追及の手を強める規制当局の包囲網の中で、フェイスブックが物ともしないのはなぜなのか?

「制裁金にゼロが一つ、足りないのでは」

そんな指摘も出ている。

●制裁金は30憶~50憶ドル

まず規制当局の動きで注目を集めたのは、FTCによる制裁金の金額だ。

フェイスブックは4月24日、今年1~3月期(第1四半期)の決算を発表。この中で、FTCによる制裁金が30憶~50憶ドル(3300億~5500億円)になるとの見通しを示し、引当金として30憶ドルを計上した。

フェイスブックとFTCの協議はなお継続中だ。

プライバシー侵害事案をめぐる、FTCによる制裁金の最高額は、2012年のグーグルに対する2250万ドル(25億円)

それ以外の事案も含めた制裁金の過去最高額は、2017年のディッシュ・ネットワークに対する1億6800万ドル(187億円)だった。

フェイスブックへの制裁金が想定通りなら、その最高額が大きく更新されることになる。

FTCによる調査のきっかけは、2018年3月に明らかになったケンブリッジ・アナリティカ問題だ。

※参照:トランプ大統領を誕生させたビッグデータは、フェイスブックから不正取得されたのか(03/18/2018)

この騒動の7年前、フェイスブックのプライバシーの取り扱いを巡り、人権保護団体「電子プライバシー情報センター」などの申し立てを審議していたFTCは、「プライバシー設定変更に関するオプトインの採用」などを条件として同社との和解を発表した経緯がある。

※参照:5000万人分データ流用は「バグではなく仕様」…フェイスブックは被害者か、加害者か? (03/24/2018)

このため、ケンブリッジ・アナリティカ問題の表面化を受けて、FTCはすぐに調査に乗り出している。

そして問題はこれだけにとどまらず、以後も、ユーザーデータの外部との共有などの問題が相次いで発覚。これらも今回の調査対象になっている、という。

※参照:ケンブリッジ・アナリティカでは終わらない、続々発覚 フェイスブックの「ユーザーデータ共有」(06/09/2018)
※参照:フェイスブックが「5000万人分」サイバー攻撃にあえぐ―当局、ユーザーの厳しい視線(09/29/2018)

●ニューヨーク州でも火の手

フェイスブックに対する規制当局の調査の動きは、FTCだけではない。

フェイスブックが決算を発表した翌日の4月25日、今度はニューヨーク州司法長官、レティシア・ジェームズ氏が、フェイスブックに対する調査開始のリリースを発表する。

リリースによると、フェイスブックはユーザー150万人分のメールのアドレス帳の連絡先情報を無断で取得していたと指摘。この中で、ジェームス氏はこう述べている。

フェイスブックは消費者の情報を尊重しない行為を繰り返す一方、そのデータをマイニングすることで利益を上げている。

この問題は4月18日に、ビジネス・インサイダーが報じたものだ。

それによるとフェイスブックは2016年5月から、新規ユーザーの登録の際、身元確認のためにメールアドレスだけでなく、そのパスワードも要求するケースがあったという。

さらにフェイスブックは、そのメールアドレスにアクセスし、アドレス帳にあった連絡先情報を収集していた、という。

●カナダでは規制当局が提訴の構え

同じ25日、火の手はカナダのオタワからも上がる。

カナダ政府の規制当局であるプライバシーコミッショナー(保護委員会、OPC)が、ケンブリッジ・アナリティカ問題をめぐり、ブリティッシュコロンビア州のプライバシーコミッショナーとの共同調査結果について、やはりリリースを発表した。

ケンブリッジ・アナリティカによって不正取得されたとみられる8700万人分のデータには、60万人以上のカナダ人ユーザーのデータも含まれていたという。

リリースでは共同調査により、ユーザーデータへの不正アクセスやアプリに対するチェック態勢の不備など、フェイスブックの連邦法、州法違反が明らかになったと指摘。

さらにこの調査結果を受けて、フェイスブックに対し、プライバシー保護対策に関する監査結果を5年以内に提出するよう求めたところ、同社はこれを拒否した、という。

このためプライバシーコミッショナーは、フェイスブックのプライバシー保護対策に関する是正命令を求めて、連邦裁判所に提訴する予定だという。

●アイルランドは「パスワード平文保存問題」で

さらに同じ25日、フェイスブックが国際本部を置くアイルランドのデータ保護委員会(DPC)もリリースを発表した。

リリースによると、フェイスブックから、内部サーバーに数億人規模のユーザーのパスワードが、暗号化されないままの状態で保存されていることがわかった、との報告があったとし、この件に関する調査を開始したとしている。

この問題はセキュリティ専門家のブランアン・クレブス氏が今年3月、自らのブログで明らかにしていたもの。

それによると、2012年以来、フェイスブックの2億~6億人規模のユーザーのパスワードが、暗号化されない平文の状態で同社のサーバー内に保存されており、2万人をこす職員が検索可能な状態だった、という。

指摘を受けて、フェイスブックも同日、公式にこの問題を認めている

アイルランドのDPCは、この問題が欧州のプライバシー保護法制である一般データ保護規則(GDPR)に違反するかどうかを調査することになる。

GDPR違反が認定されれば、制裁金は最大で年間売上高(2018年、558億ドル)の4%、22億ドル(2460億円)となる。

●好調な決算を受け株価も急騰

各国の規制当局の対応は、そのギアを上げ、包囲網を強めてきている。だが、市場の反応はそれとは対照的だ。

4月24日に発表した第1四半期の決算では、売上高は150憶ドルで前年同期比26%増。純利益は24憶ドルで前年同期比51%減。ただ、30憶ドルの引当金がなければ、9%増となっていた。

また、3月時点の1日あたりのアクティブユーザー数(DAU)は15億6000万人、1カ月あたりのアクティブユーザー数(MAU)は23億8000万人で、いずれも前年比の8%増となっている。

さらにこの結果を受けて株価も、翌朝には198.48ドルと8.7%の上昇となった。

fb_stock

●「足りないのは制裁金」

フェイスブックのプライバシー問題をめぐっては、ケンブリッジ・アナリティカ問題の発覚後、米上下両院で計10時間、100人の議員が質問を浴びせるマラソン公聴会など、様々な追及が行われてきた。

※参照:「個人情報は売っていない」ザッカーバーグ氏がビジネスモデルを死守する:10時間100人質問の公聴会(04/12/2018)

だが、各国の規制当局を満足させる状況には至っていないようだ。

論点の一つに上がっているのは、制裁金の額だ。

民主党下院議員で反トラスト法小委員会委員長のデビッド・シシリーニ氏は、フェイスブックの決算発表を受けて、こんなツイートをしている。

先月、私は制裁金が20億~30億ドル程度なら、フェイスブックにとっては手ぬるいお仕置き程度にしかならないといった。

今晩、我々はウォールも同じ見方をしていることがわかった――やはり手ぬるいお仕置き程度のものだ、と。

もしFTCがやらないなら、議会がやらざるを得ない。

シシリーニ氏は3月、ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、フェイスブックに対する反トラスト法違反の調査の必要性を訴えていた。

連邦議会では、民主党上院議員で、大統領選への出馬も表明しているエリザベス・ウォーレン氏のように、フェイスブックを含め、グーグル、アマゾンの解体まで主張する強硬派もいる。

テックメディア「リコード」の共同創設者で、シリコンバレーのご意見番的存在のジャーナリスト、カーラ・スウィッシャー氏は、外部コラムニストを務めるニューヨーク・タイムズで、やはり制裁金の金額の問題を指摘する。

スウィッシャー氏は、230憶ドルの手持ちキャッシュのあるフェイスブックにとって、50憶ドル規模の制裁金では制裁の役目を果たしておらず、「ビジネスコスト程度にしか映らない」と指摘。

ニューヨーク大学教授でベストセラー『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者、スコット・ギャロウェイ氏のこんな言葉を紹介する。

それ(制裁金)にゼロをもう一つ加えれば、そこから議論が始められる。

そして、24日の決算発表でザッカーバーグ氏もこう話しているのだし、とスウィッシャー氏は付け加えている。

どんな規制であろうと、我々のビジネスに悪影響を及ぼしかねないということは理解している。しかし、それは必要なことなのだと考えている。

さらに、スウィッシャー氏はこうくぎを刺す。

この(フェイスブックにとっては)ささやかな制裁金は始まりにすぎない。フェイスブックには駐車違反切符の違反金程度とはいえ、支払ってくれるものなら、納税者としてはそれには感謝すると思う。だが、あらかじめ警告しておこう:この金額にゼロを二つつけさせるようなことは、ないように。

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