コロナ接触アプリはなぜ各国で行き詰まっているのか
コメントする02/08/2021 by kaztaira
新型コロナの接触検知アプリの普及が、各国で行き詰っている。
陽性者との接触を検知して通知するアプリは新型コロナ対策の要のひとつとされ、すでに70カ国以上で運用されている。
だが、カタールやシンガポールなど、ダウンロードに強制力を持たせる国以外では、普及率はほぼ2~3割止まりだ。
普及率が上がらない背景には、断続的に起きる動作の不具合、プライバシーへの懸念に加えて、具体的なアプリの効果を示せていない、といった点もあるようだ。
ただ、新たに接触検知に取り組む国や州では、グーグル・アップル方式の仕組みを使うことで、アプリなしで対応できる、という選択肢もある。
その一方、当初はプライバシーへの配慮をうたい、高い普及率も達成しているシンガポールのアプリは、そのデータを犯罪捜査にも流用するという。アプリの位置づけが揺らぐ展開だ。
新型コロナの当面の課題はワクチン接種だが、濃厚接触の検知も引き続き必要だろう。
コロナ対策の中でアプリを今後どう扱っていくのか。
各国の行き詰まりの中で、そのことを改めて考える必要がありそうだ。
●アイルランドの停滞
アプリ公開から半年で、人口の26%にあたる130万アクティブユーザー。陽性者との濃厚接触の通知は2万298件。
※参照:新型コロナ接触アプリの効果は測定できるか? このアプリはできるらしい(07/28/2020 新聞紙学)
だがアクティブユーザー数は130万。その差、70万件(35%)はダウンロード後にアンインストール(削除)、もしくは使用をやめてしまっているということになる。ユーザーのリテンション(維持)が大きな課題だ。
タイムズによれば、2020年12月23日からのアプリの新規ダウンロード数は9万4,804件、アンインストール数は4万7,798件。アンインストール率は50%だ。
●アプリの効果を可視化する
このシステムの特徴は、位置情報は使わず、匿名の接触データがすべてスマートフォンの端末内に保存される、という点だ。陽性者との濃厚接触の有無は、アプリが陽性者データベースに定期的にアクセスした上で、端末内で接触データと照合して判定する。
後述のシンガポールなどのアプリは、政府が中央サーバーで接触データなどを一括して管理する「集中型」と呼ばれる。これに対し、このグーグル・アップル方式は接触データを端末側で持つため、「分散型」と呼ばれており、プライバシー保護レベルが高い、と言われている。
「COVIDトラッカー」は、「分散型」の中でも「COCOA」など他のアプリと違うのは、その効果がわかる、という点だった。
「COVIDトラッカー」は、ユーザーによるデータ共有への同意をもとにした、様々なオプション機能を備えている。その一つが、陽性者との濃厚接触通知があった場合に、そのデータを、アプリを管理する保健サービス委員会と共有する、というオプションだ。
このデータ共有によって、保健サービス委員会はダウンロード数に加えて、濃厚接触通知数を把握することが可能になっている。
その結果が、前述の2万298件。アクティブユーザーの1.6%に濃厚接触通知が届いた、ということになる。
「COVIDトラッカー」は開発費85万ユーロ(約9,000万円)、年間運用費40万ユーロ(約4,200万円)。
普及の伸び悩みを考え合わせると、このコストが見合うのか、という批判にさらされている。
●71カ国、120の接触アプリ
このうち、「COVIDトラッカー」や「COCOA」と同じ、グーグル・アップルのシステムを使っているのは45種類(37.5%)にのぼるという。
グーグル・アップルのシステムでは近距離無線通信「ブルートゥース」を使い、同じアプリをインストールした他の端末との距離のみを測定。位置情報は使っていない。
また、30種類(25%)では主にGPSで位置情報を取得していた。
同一国内で、最も多種のアプリを運用しているのが米国。トランプ政権が接触アプリへの取り組みをしなかったため、各州独自で対応。国内で23種類の接触アプリが運用されている。
●伸び悩む各国
9月と10月の2カ月間で「コロナヴィルック」から陽性判定の申告があったのは2,846件。これはこの期間に陽性判定を受けた人の34.9%にあたるという。
ただ、多くの国ではむしろアイルランドと同様、接触アプリの普及は伸び悩んでいる。
接触検知アプリの普及率については、オックスフォード大学の研究チームが2020年4月、シミュレーションの中で、スマートフォンユーザーの80%、人口の56%が接触アプリを利用することで、ロックダウン(都市封鎖)と同等の感染対策効果が得られる、との結果を明らかにしている。
シミュレーションでは、普及率に応じて、それ以下でも感染抑制の効果が期待できるとしているが、「普及率6割が必須」との誤解を生み、混乱を招くことにもなった。
※参照:新型コロナ接触確認アプリ、「普及率6割必要は間違い」なぜ?(06/22/2020 新聞紙学的)
●高い普及率と義務化と犯罪捜査
オックスフォード大が示したような「6割」というレベルの普及率に達している国は、極めて限られている。
前述の「MITテクノロジーレビュー」の接触アプリの各国動向によると、普及率が最も高いのはカタールのアプリ「エフテラズ」で91%。
シンガポールのローレンス・ウォン教育相が2021年1月4日に議会で明らかにしたところでは、「トレーストゥギャザー」のユーザーは420万人を超え、人口の78%にのぼるという。ストレーツ・タイムズが報じている。
今後、この「セーフエントリー」の出入りのチェックを、「トレーストゥギャザー」を通して行うことを義務化する予定になっている。
「トークン」はスマートフォンを持たない高齢者向けの施策として9月から配布を開始している。だが、ストレーツ・タイムズによると、420万の「トレーストゥギャザー」のユーザーのうち、スマートフォンのアプリのみを使っているのは半分以下の200万人ほどだという。
「セーフエントリー」と連動した利用義務化の予定に加えて、かねて問題となっていたアプリによるスマートフォンのバッテリー消費を嫌った市民が、専用端末である「トークン」入手に動いているという事情もあるようだ。
そしてシンガポールの場合は、2021年になって「トレーストゥギャザー」をめぐる新たな展開もあった。そのデータを、犯罪捜査に流用することが明らかになったのだ。
「トレーストゥギャザー」はブルートゥースを使った濃厚接触検知の仕組みだが、政府がそのデータを個人情報、電話番号などとともに集中管理しているという点で、データをスマートフォンの端末に保存する「分散型」とは大きく異なる。
その「トレーストゥギャザー」も、当初は新型コロナ対策としてのみデータを利用すると表明してきた。だが、犯罪捜査にも利用できると政府が表明。
対象犯罪は殺人など7類型に限定されるというが、プライバシー保護とは逆方向への展開となっている。
●何が欠けているのか
義務化せず、プライバシー配慮の「分散型」を取っている各国を見ると、やはりおおむね2~3割程度の普及率でとどまっている。なぜ普及率が伸び悩むのか。
バッテリー消費や接触検知・通知の停止など、各国で見られる様々なアプリの不具合は、原因の一つだ。
大規模に展開されていない段階では、デジタル接触検知の効果を評価することは極めて難しい。一方で、デジタル接触検知の効果が証明されるまでは、人口レベルでの大規模な利用は納得を得られない。
ヴェーナ氏らは、その上でこう述べている。
テクノロジーの取り込みとは、社会的学習と社会的信頼の醸成の積み重ねを土台とした、無限のプロセスであることをまず理解すること。そして、効果を検証し、デジタル接触検知アプリの利用動向を見極め、社会の意識をモニタリングし、その上で社会で懸念されるリスクと期待値に沿うテクノロジーデザインを採用する。そのためのメカニズムを作り上げることを、政策担当者への提言として述べておく。
アプリの効果の可視化だけでは、普及率の向上につながらないことは、アイルランドのケースを見てもわかる。
ただ、この提言に実際に取り組むには、ユーザーの利用データが必要になりそうだ。
●接触アプリをどうするのか
日本の「COCOA」は、その不具合が明らかになったことで改めて注目を浴びた。
だがそれまでは、2度目の緊急事態宣言や目前のワクチン接種への準備の中で、ほぼ忘れられたような扱いだった。
ただ、ワクチン接種が始まっても、濃厚接触の検知が引き続き必要であることに変わりはないだろう。
その中で、アプリをどう位置づけるのか。
少なくとも取り組みを前に進める機運はあるようだ。
アプリの不具合を早急に改修するのはもちろんだろうが、このアプリをこれらどうするのかという問題の方が、より重要に思える。
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少なくとも取り組みを前に進める機運はあるようだ。
アプリの不具合を早急に改修するのはもちろんだろうが、このアプリをこれらどうするのかという問題の方が、より重要に思える。