ウクライナ侵攻「デジタル鉄のカーテン」を突破する、ロシアに事実を知らせるこれだけの方法

04/25/2022 by kaztaira

ウクライナ侵攻をめぐって、ロシア政府は国外からの情報を遮断する「デジタル鉄のカーテン」を下ろした。だが、それを突破する方法が、国内外から次々と提供されている。
 
 
ロシア政府によってブロックされたサイトはすでに1,000件を超す。だが「デジタル鉄のカーテン」のほころびを通じて、情報は今も、ロシア国内に流れ込み続ける。
 
「プロパガンダバブル」とも呼ばれる、閉じたメディア空間を保持したいロシア政府。そして事実を知りたいロシア国民と、事実を知らせようとするメディアやNGOなどの国内外のグループ。
 
その攻防で展開されている、“抜け穴”を開く方法とは?
 

●ブロックされたサイト

 
ロシアでブロックされたウェブサイトについて、中央レジストリに登録された1万3,500以上のエントリーを分析した結果、2月24日以降、ウクライナ侵攻に関連する1,121件のドメインが禁止されていることがわかった。
 
英国のVPN(仮想プライベートネットワーク)レビューサイト「トップ10VPN」のリサーチ責任者、サイモン・ミリアーノ氏は、4月19日に更新したサイトの投稿で、そう述べている。
 
ミリアーノ氏が取り上げているのは、ロシアのデジタル人権団体「ロスコムスワボーダ」がまとめているロシア政府によるウェブサイトのブロック(禁止)リストだ。
 
ミリア―ノ氏らは、この団体が公開している計約58万件にのぼるブロックリストから、ロシアによるウクライナ侵攻が開始された2月24日以降に国内のアクセスがブロックされたサイトを抽出。その中から、ウクライナ侵攻関連のサイト1,121件の内訳を分析している。
 
ブロックリストは、ロシアの連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁(ロスコムナゾール[Roskomnadzor])が管轄しており、この1,121件については、いずれもロシア検察庁がブロックの判断をしている。
 
サイトの種別で見ると、最も多いのが3分の2(745件)を占めるニュース関連サイトだ。国別ではウクライナが最も多く321件、次いで米国244件、そしてロシアの110件が続く。
 
さらに、インターネットのアクセス(トラフィック)から見たブロックサイトのトップ3はフェイスブック、ツイッター、インスタグラムの順だ。4位以下は、英BBC、独メディア「ビルト」、メッセンジャー(メタ)、米公共メディア「NPR」、ウクライナのポータル「ukr.net」、フィンランドのメディア「イルタサノマ」、独公共メディア「ドイチェ・ヴェレ」。そして11位に「グーグル・ニュース」が入っている。
 
英国の監視団体「ネットブロックス」の指摘では、フェイスブック、ツイッターは、ロシアによるウクライナ侵攻直後からアクセスに厳しい制限がかけられていた。だがこのリストでは、正式にブロックされたのは、いずれも3月4日。EUがロシア国営メディア「RT」「スプートニク」の域内でのコンテンツ配信を禁止した2日後にあたる。
 
ブロックされた日付は、ウクライナのukr.netが最も早く3月1日。次いで、ロシア側のフェイクニュースに対するファクトチェックに力を入れてきたBBC、ドイチェ・ヴェレが3月3日。以下、インスタグラム(3/14)、メッセンジャー(3/16)、グーグル・ニュース(3/24)、ビルト(3/27)、NPR(4/1)、イルタサノマ(4/6)の順だ。
 
このほかにもブロックリストには、米国国営の「ボイス・オブ・アメリカ(VAO)」(3/3)、米国が資金提供をしている「ラジオ・フリー・リバティー」(3/3、3/9など複数サイト)、オランダの調査報道メディア「ベリングキャット」(3/16)、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」(3/10)、「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」(4/17)などが含まれている。
 
ただ、このリストには今のところ、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNといった米大手メディアは含まれていないようだ。
 
ロシア政府は、イスラエル製の機器によるネットワークの監視技術「ディープ・パケット・インスペクション(DPI)」を使い、これらのサイトへのアクセスをブロックしているという。
 
時系列でブロック件数を見てみると、欧州委員会委員長のウァズラ・フォン・デア・ライエン氏が、ロシア国営メディアの「RT」「スプートニク」のEU域内での配信禁止を表明した2日後の3月1日(93件)と、3月27日(94件)が突出している。また、4月(2日[60件]、6日[68件]、9日[57件])に入ってからの、大量のブロック指定が相次ぐことも目を引く。
 
これに加えてロシア政府は3月4日に、軍の活動について「虚偽の情報」を拡散させた場合、最大で禁固15年の罰則が科せられる刑法の条文を新設し、内外のメディアの弾圧に乗り出している。
 

●VPN需要、2,692%の急増

 
独データ調査会社「スタティスタ」は3月29日、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどのロシア国内でのブロック前後(2月24日と3月15日)の1日当たりのユーザー数の変化をまとめている。
 
それによると、ロシア最大のソーシャルメディアでブロック対象ではない「フコンタクテ」は、4,651万人から5,034万人へと8.2%増加。そして、やはりブロック対象ではないメッセージサービス「テレグラム」は、3,124万人から4,552万人へと45.7%の急増となっている。
 
分析会社「センサータワー」の調査によると、「テレグラム」は侵攻開始以来、ロシアで最もダウンロードされたアプリで、その数は440万回に上るという。「テレグラム」はロシア国内だけでなく、ウクライナでも広く使われており、コンテンツ管理が緩やかなことから、両国の情報戦の舞台ともなっている。また、ニューヨーク・タイムズなどのメディアが、新たにアカウントを開設するなど、様々な情報の流入口となっている。
 
ブロック対象ではない動画共有の「ティックトック」は、3,317万人から3,343万人とほぼ変わらず(0.8%増)。
 
一方、ブロック対象となったインスタグラムは、3,903万人から3,418万人へと12.4%の減少。さらに同じくブロック対象のフェイスブックは963万人から551万人(42.8%減)、ツイッターは261万人から127万人(51.3%減)、と半減前後の大きな落ち込みを見せている。
 
インスタグラムやフェイスブック、ツイッターなどを、ロシア政府によるブロック後もユーザーが使い続けられるのは、「デジタル鉄のカーテン」の回避策があるためだ。
 
その回避策の一つが、VPNの利用だ。VPNを使うことで通信を暗号化し、政府によるブロックを潜り抜けることが可能になる。
 
「トップ10VPN」のミリア―ノ氏は4月15日の記事で、ロシア国内の検索ボリュームの調査結果から、VPNへの需要が高まっている状況を紹介している。
 
それによると、ウクライナ侵攻開始の2月24日からVPNへの需要は増え続け、フェイスブック、ツイッターが正式にブロックされた3月4日と翌5日には連続して、侵攻前と比べて1,000%を超えている。また、インスタグラムがブロックされた3月14日にVPN需要はピークに達し、2,692%の急増を示している。
 
その後はやや沈静化し、3月31日時点でのVPN需要は243%増。3月15日から31日までの平均では617%増だという。
 
ただし、ロシア政府もウクライナ侵攻以前から、VPNによるブロック回避への規制策を取り続けている。
 
ロシア政府は、2021年6月に2つのVPNをブロックしたのを手始めに、9月に6つ、さらに12月にも6つのVPNのブロックが追加するなどし、2022年3月半ばまでに、約20のVPNがブロック対象になっているという。
 
これに対して、前述のロシアのデジタル人権団体「ロスコムスワボーダ」や米国などに拠点を持つ人権団体「アクセスナウ」などは、ブラウザ(閲覧ソフト)の拡張機能の提供や、なおブロックリストに入っていないサービスを含めたVPNの利用方法を紹介するなど、「デジタル鉄のカーテン」への“抜け穴”の開け方を指南している。
 

●Torで回避する

 
通信保護ソフト「トーア(Tor)」も、「デジタル鉄のカーテン」回避の手段として挙げられている。
 
「トーア」は米海軍の研究所発祥のソフトで、現在はNPO「トーア・プロジェクト」が運営する。ウェブサイトへのアクセスの経路(ルーティング)を暗号化することで匿名化し、検閲をしにくくする。
 
※参照:米軍製の匿名ネット「Tor」はテロリストの道具か、プライバシーの味方か(12/12/2015 新聞紙学的
 
「トーア・プロジェクト」の統計によると、ロシアでのユーザー数は、ウクライナ侵攻以降、1日当たり12万388人で、国別ユーザー数では米国、ドイツに次ぐ第3位(全体の5.11 %)だ。
 
また、検閲防止を強化する「ブリッジ」と呼ばれる保護機能を使って「トーア」を利用するロシアのユーザー数は4万1,080人で、こちらは世界の約半数(51.27%)を占める。
 
トーア」は2021年12月にロシアのブロック対象となっているが、米デジタル人権団体「電子フロンティア財団(EFF)」や「ロスコムスワボーダ」がダウンロードのためのミラーサイトを開設。引き続き、国内からの利用はできているようだ。
 
サイト側からのアプローチもある。「トーア」を実装した専用ブラウザ(トーアプラウザ)経由でないとアクセスできない、通常のアドレスとは異なる専用サイト「ダークウェブ」を開設することで、検閲を回避するという取り組みだ(※以下で紹介する各専用サイトは通常のブラウザでは閲覧できない)。
 
BBCは今回のロシアによるブロックに先立つ2019年ウクライナ語ロシア語英語による国際版の専用サイトを立ち上げている。
 
ロシア政府によるサイトのブロックが行われた翌日の3月4日には、この専用サイトへのアクセスをツイッターで呼びかけている。BBCの3月2日のまとめでは、ロシア語サイトのアクセスは前週の310万人から1,070万人へと3倍以上に急増していた。
 
ブロック対象となった「ドイチェ・ヴェレ」も、2020年10月に専用サイトを開設していた。
 
またフェイクスブックも、ロシアによるクリミア併合があった2014年に、すでに専用サイトを立ち上げている。
 
ニューヨーク・タイムズは今のところ、ロシアのブロック対象にはなっていないが、2017年専用サイトを開設している。
 
ツイッターは、今回のロシアによるブロックを受けて3月初め、専用サイトを新たに開設した
 

●短波ラジオ、電話そしてマッチングアプリ

 
BBCなどのメディアは、短波ラジオという昔ながらの手法で、ニュースを届けるというアプローチにも取り組んでいる。
 
BBCはロシアにブロックされる前日の3月2日、ウクライナを中心に、ロシアにかけて2つの周波数で夕方から夜の毎日4時間、短波ラジオによる英語でのニュース放送を行うことを明らかにしている
 
さらに、電話によってロシア国内に事実を伝える「コールロシア」というリトアニアのプロジェクトもある。このプロジェクトでは、ドイツ、英国、ポーランド、米国などのボランティアが、4,000万件に上るロシア国内の電話番号のデータベースを使い、電話で直接、ウクライナ侵攻の事実を伝えるという。
 
BBCによれば、スパム(迷惑)メールのシステムを使い、ロシア国内にウクライナ侵攻に反対するよう呼びかける大量のメールを送信するノルウェーのIT関係者の取り組みもあるという。
 
また、オーストラリアのSBSニュースなどによると、マッチングアプリ「ティンダー」を使った、ロシアへの情報発信の取り組みも展開されている。
 
3月初めには、グーグルマップやトラベルサイト「トリップアドバイザー」などのロシア国内のレビュー欄を舞台に、ウクライナ侵攻に反対するメッセージを投稿する動きもあっあった。だがその後、グーグル、トリップアドバイザーはこれらの動きを禁止した
 

●ロシア国内の世論感情とは

 
「スタティスタ」の調査では、ロシア政府によるブロック後も、インスタグラムでは8割以上、フェイスブック、ツイッターでは半数近いユーザーが引き続きサービスを利用している。
 
つまり、ロシア国内のユーザーも、VPNや「トーア」などを経由して、これまで通り国外の情報に接することができるメディア環境を確保していることになる。
 
「デジタル鉄のカーテン」をめぐる攻防は、なお継続中だ。
 
3月6日には、反戦デモに参加した4,500人が身柄を拘束された、と報じられている。3月14日には、ロシア国営「第1チャンネル」の編集者、マリーナ・オフシャンニコワ氏が番組中に「戦争反対」の手書きのメッセージを掲げ、3万ルーブル(約3万2千円)の罰金を受けている。同チャンネルのパリ特派員だったジャンナ・アガラコワ氏も3月22日に抗議の辞職をしている。
 
「トップ10VPN」のミリアーノ氏が分析したロシア政府によるブロックリスト1,121件の中には、反戦の主張をするサイト141件が含まれている。このうちロシア国内のサイトが46件に上る。
 
だが今のところ、ロシア国内の世論に大きな変化があるようには見えない。
 
ロシアの世論調査機関「レバダセンター」の調べでは、プーチン大統領の支持率は、2月の71%からウクライナ侵攻後の3月には83%に急増。ロシア政府への支持率も、2月の55%から3月には70%へと上昇している。
 
米国のデータ分析会社「フィルターラボ」は、ロシア国内のソーシャルメディアなどの投稿から、AIを使ってその「感情」の変化を分析している。
 
それによると、ウクライナ人への感情に比べて、ウクライナ侵攻への感情はネガティブな状態が続いているという。また、ロシア政府の徴兵に関する反応は3月初め以降、下降線の傾向をたどっているという。プーチン大統領は3月末、13万4,500人の新たな徴兵を命じる法令に署名をしている。
 
ロシア世論に変化があることを、期待したい。

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