「Twitterのボットは何%?」マスク氏の質問が的外れなわけとは
05/30/2022 by kaztaira
「ツイッターにはボットがどれだけいるのか?」。その質問はそもそも的外れだ――。
10年以上にわたって研究を続ける専門家が、そんな指摘をしている。
質問をしているのは、ツイッター買収に合意したテスラCEOのイーロン・マスク氏だ。
ツイッターは、ユーザーのアカウントのうち、ボットなどの不正アカウントの割合は「5%未満」と発表している。これに対し、マスク氏は同社の説明が不十分だとして、買収手続きを棚上げにした。
システムが操るボットの不正アカウントは、フェイクニュースを拡散し、世論操作をしかける。ウクライナ侵攻をめぐるロシアの情報戦でも、ボットによるフェイクニュース拡散が指摘されている。
ボット対策は、マスク氏がツイッター買収にあたって掲げてきた柱でもある。
では、人間とボットの見分け方とは? 専門家はこう述べている。「それは簡単ではない」。そのわけとは?
そして皮肉なことに、「5%」について説明を求めるマスク氏は、一方で、「5%」についての説明義務を負う立場にも立たされていた。
●ボット数の推定
最近の議論では、ツイッターのボットの数の推計に焦点が当てられているが、この問題は単純化されすぎており、不正なアカウントによるオンラインの不正使用や操作が与える悪影響を明確化する、という観点を見逃している。(中略)最近の証拠によると、誤情報、ヘイトスピーチ、分極化、過激化コンテンツの拡散の原因は、不正アカウントだけではない可能性がある。これらの問題には、通常、多くの人間のユーザーが関わっている。
米インディアナ大学教授のフィリッポ・メンツァー氏と、同大博士課程の楊凱程氏は5月23日、アカデミックメディア「ザ・カンバセーション」に掲載した記事で、そう指摘している。
メンツァー氏は、ソーシャルメディア研究の専門家として、10年以上もボットなどの不正アカウントの問題を研究。ボット診断ソフトとして広く知られる「ボット・オー・メーター」の提供も行っている。
その知見をもとに、マスク氏が主張するツイッターの「表現の自由」の問題点が、実態とは異なる、との指摘もしてきた。
※参照:「イーロン・リスク」がTwitterの「表現の自由」を損なう、これだけの理由(05/13/2022 新聞紙学的)
この「5%未満」という推計値は、同社が2013年に上場した時から変わっていない。
ツイッターの440億ドル(約5兆7000億円)での買収に合意していたイーロン・マスク氏が5月13日、これにかみつき、「5%未満」の詳細が明らかにされるまでは、「買収を一時的に保留する」とツイートで表明する。
2日後の15日、米分析会社「スパークトロ」と「フォロワーウォンク」が共同で4万4,000件のツイッターアカウントを調査し、偽・スパムアカウントは19.42%、ツイッターの公表値の約4倍に上るとの調査結果を公表する。
翌16日、ツイッターCEOのパラグ・アグラワル氏は15本の連続ツイートで、1日あたり50万件を超すスパムアカウントを一時停止している、などと説明したが、マスク氏は「うんこ」の絵文字を返信するという対応だった。
●ボットかどうか
不正アカウントは、ハンドル名を入れ替えたり、大量のコンテンツを自動的に投稿・削除したりするなどの手法で、検知を回避できる。不正アカウントと本物のアカウントの区別は、ますます曖昧になってきている。アカウントはハッキングされたり、購入されたり、レンタルされたりすることがあり、また、自分の代わりに投稿する組織に認証情報を「寄付」するユーザーもいる。その結果、いわゆる「サイボーグ」アカウントは、アルゴリズムと人間の両方によってコントロールされている。同様に、スパムの投稿者は、その活動をわかりにくくするために、まともなコンテンツを投稿することもある。
メンツァー氏らは、上述の記事の中で、ボットの実態と「進化」について、そう述べている。ボットの運用を請け負うビジネスも存在する。ツイッター側もボット対策は行っているが、それ潜り抜ける様々な手法があるのだという。
米ニューヨーク・タイムズは2018年1月、フェイクアカウントの実態をまとめた調査報道で、仲介業者にテストアカウントへのフォロワー購入を依頼したところ、フォロワー2万5,000人で225ドルを支払い、その多くがボットの疑いのあるものだった、としている。
ツイッターによるボット排除への、回避策の一つが、複数のアカウントで複数のハンドル名(@マークのついたアカウント名)を次々に使い回していく、という手法だ。これによって、ボットとして特定しにくくしているようだ。
メンツァー氏らの調査では、722のアカウントで181のハンドル名を使い回し、最大で33回のハンドル名変更をしているケースもあった、という。
このほか、自動投稿したツイートの自動削除を行うボットも確認されているという。ツイッターでは1アカウントの1日あたりの投稿数に、2,400件の上限を設けている(30分あたり50件)。この上限の回避を狙った機能と見られ、投稿と削除を繰り返すことで、1日あたり2万6,000件を超すツイートを行っていたボットアカウントもあったという。
さらに米ワシントン・ポストの報道によれば、人間が運用するアカウントで、一部の投稿にボットを使う「サイボーグ」アカウントがあることもわかっている。
●ボットは何をしてきたのか?
ただ、世界的な注目を集めてきたフェイクニュースの問題には、ボットの存在が常につきまとっていた。
2016年米大統領選へのロシアによる介入問題をめぐり、ツイッターは米連邦議会にフェイクアカウントなどのデータを報告している。
それによると、同年9月から11月にかけて、米大統領選について投稿していたロシア関連のボットの数は5万258件。当時のアカウント総数の0.016%に相当するという。
また、米大統領選介入を手がけた「トロール(荒らし)工場」といわれるロシア・サンクトペテルブルクの業者「インターネット・リサーチ・エージェンシー」関連の3,841件のアカウントが、17万5,993件のツイートを投稿していた。これは大統領選関連の全ツイートの約8.4%に相当するという。
※参照:なぜフェイクニュースはリアルニュースよりも早く広まるのか(03/11/2018 新聞紙学的)
※参照:ソーシャル有名人「ジェナ」はロシアからの“腹話術”(11/04/2017 新聞紙学的)
また、英オックスフォード大学教授のフィリップ・ハワード氏は、やはり同年の米大統領選で、1日50回以上、調査期間中の9日間で450回以上ツイートしていたアカウントをボットと見なして調査した。
すると、日中の時間帯では、大統領選関連ハッシュタグのあるツイートの20~25%がボットによるもの、と認定された。ツイート数の多かった上位20アカウントでは、それぞれ1日平均1,300件、9日間で計23万4,000件を投稿。上位100アカウントでは、1日平均500件、計45万件で大統領選関連の2%を占めていた。
※参照:「ボット」が民主主義に忍び込む:オックスフォード大ハワード教授に聞く(10/28/2017 新聞紙学的)
※参照:虚偽と報じても、さらに広まる…トランプ氏のツイートを、メディアはどう扱うべきか(12/04/2016 新聞紙学的)
また、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっても、ボットを使ったフェイクニュースの拡散が確認されている。
※参照:ウクライナ侵攻「見えない情報戦」でロシアが勝っている? その理由とは(05/23/2022 新聞紙学的)
このほか、暗号資産(仮想通貨)詐欺に大規模なボットネットワークが使われるケースもあるという。
●決着しない議論
実際にボットはどれぐらいあるのか。
メンツァー氏らインディアナ大学と南カリフォルニア大学の研究チームは2017年に発表した調査で、アクティブなツイッターアカウントの9%から15%の間、との推計を示している。
だが、外部の研究者は、ツイッターが持つIPアドレスや電話番号などの情報にアクセスできないため、正確な特定は困難だとメンツァー氏らは指摘する。
ツイッターも、実際の割合が「5%未満」を上回る可能性についても認めている。その一方、ボット特定に必要なIPアドレスや電話番号などの個人情報については、外部には公開できない、としている。
つまり、どこまでいっても、この議論は決着しそうにない。
メンツァー氏らはその点を踏まえて、ボットの数ではなく、それが社会に与える害悪について、しっかり把握し、対策を立てるべきだと訴えている。
だが、そもそもの議論を投げかけたマスク氏はどうなのか。この議論が決着しないことは、初めから織り込み済みなのかもしれない。
マスク氏は1株54.20ドルで買収合意している。株価下落に応じた買収金額の値下げ交渉には、前向きなようだ。
そしてもう一つ、「5%」という数字は、マスク氏と縁がある。
米証券取引委員会(SEC)は5月27日、マスク氏によるツイッター株取得の開示時期について調査を始めたことを明らかにし、マスク氏に宛てた書簡を公開している。
この調査で問題となっているのは、投資家が企業の株式の5%超を取得した際には、10日以内に報告する義務が課せられているという点だ。マスク氏は、その義務を果たしていなかった、として説明を求められている。
「5%未満」についての説明を求めてツイッターを揺さぶり、SECからは「5%超」についての説明で、揺さぶりをかけられているわけだ。
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