「ニュースポータルとの契約に不満」6割、なのにメディアが配信を止められないこれだけの理由

09/25/2023 by kaztaira

メディアはニュース提供をやめられない(筆者撮影)

「ニュースポータルとの契約に不満」6割、それでもニュースメディアが配信を止められない――。

公正取引委員会が9月21日に公表した「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」は、圧倒的な勢いを持つプラットフォームと、地盤沈下に押されるニュースメディアの現状を浮き彫りにしている。

「ヤフーは優越的地位の可能性」「(ニュース使用料)算定方法を可能な限り開示を」といった公取委の認定・提言に加え、独自調査が描き出すプラットフォームとニュースメディアの、金銭を介した生々しい関係が目を引く。

報告書は、プラットフォームの課題だけでなく、「プラットフォーム依存」から抜けきれないニュースメディアの実態にも光を当てる。

それは、ニュースメディアの生き残りにかかわる重い課題だ。

●メディアの不満の中身

契約締結時の認識と比べると、(中略)「不満(問題)がある」とする回答の割合が、43.8%から 62.9%と大幅に増加している。

公取委が2日に発表した「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」は、ニュースポータルが支払うニュース使用料(許諾料)についてのニュースメディアの反応を、契約締結時と現在とを比較しながら、そうまとめている

ニュース配信に大きな存在感を持つニュースポータルなどのプラットフォームに対して、交渉力に格差のあるニュースメディアには根強い不満が以前からあった。

公取委はすでに2021年2月にまとめた「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査報告書―デジタル広告分野の取引実態に関する最終報告書」の中で、ニュース使用料について、「算定に関する基準や根拠等について明確にされることが望ましい」などと提言を行っていた。

だが2022年11月、「同報告書で指摘した課題について改善が見られない」として調査開始を公表した経緯がある。

公取委は今回の調査にあたって、2022年11月から12月にかけて、日本新聞協会、日本雑誌協会、日本民間放送連盟の加盟社319社を対象にアンケートを実施、220社から回答を得ている。

回答をしたニュースメディアの62.9%が、ニュース使用料に不満を持っているというその内訳は、使用料の安さ(86.4%)、そして算定基準の不明確さ(70.1%)などだ。

●「使用料は不可欠」4割

4割程度のニュースメディア事業者は、ニュースポータル事業者と取引をする理由として、ニュースポータル事業者から支払われる許諾料が、現在のニュースメディア事業の継続上不可欠となっている又は今後の事業戦略上不可欠であることを挙げている。

公取委は、ニュースメディアにおけるニュース使用料収入の位置づけについて、そう述べている

公取委の調査によると、ニュースメディアにおけるデジタル収入は、2017年度を1とすると2021年度は1.42に増加。

その内訳は、2017年度がニュース使用料収入16.7%、自社サイトでのデジタル広告収入56.1%、デジタル有料購読などの消費者向け販売収入が27.2%だった。

ところが2021年度にはニュース使用料が22.2%に拡大し、デジタル有料購読収入など(21.6%)を上回っている。デジタル広告収入は56.2%でほぼ同じだ。

デジタル広告収入を左右するサイト流入元は、ニュースポータルが57.5%、ネット検索が27.5%の計85.0%をプラットフォームが占めている。

全体の売上げが増加する中、その内訳として消費者向け販売収入の割合は減少傾向にある一方で、許諾料収入の割合は増加傾向にあり、デジタル広告収入の割合は横ばい傾向にある。これらの傾向から、電子データでのニュースコンテンツの流通において、ニュースプラットフォームを介した流通の重要性が年々増加していることがうかがわれる。

さらに、その傾向は新聞、雑誌で顕著だという。

このうち、ニュースプラットフォーム事業者に直接的又は間接的に依存する売上げの割合(許諾料収入及びデジタル広告収入の割合)を見ると、新聞は 81.3%、雑誌は 85.0%であり、インターネットを介したニュースコンテンツの流通においてニュースプラットフォーム事業者に依存する程度が高い。

ここから見えてくるのは、デジタル有料購読が頭打ちのままで、プラットフォームからのニュース使用料と、やはりプラットフォームからの流入に依存する広告収入の比重が増していく、という傾向だ。

つまり、プラットフォーム依存から抜けられないのだ。

●不満に黙る理由

ニュースメディアは、ニュースポータルからの使用料に不満があっても、黙って契約を続ける

交渉を申し入れたことがあるとの回答が 24.0%にとどまり、ないと回答したニュースメディア事業者が 76.0%と多数を占めた。

不満を、すでに契約締結時に感じていたニュースメディアは43.8%に上る。それでも契約をしている。なぜか。

取引額の上位3者に係る回答結果の合計をみると、自社ニュースメディアサイトへの送客等の許諾料以外の対価を得ることが目的だった(選択肢a)との回答が59.1%、具体的な交渉材料がなかった(選択肢b)との回答が50.2%と、ニュースメディア事業者側の事情を理由とする回答が高い割合を占めている。他方で、契約内容を変更不可能なものとして一方的に提示され、交渉の余地がなかった(選択肢c)とのニュースポータル事業者側の交渉姿勢を理由に挙げる回答も52.8%と同程度に高い割合を占めている。

交渉力の圧倒的な格差によって、そもそも対等な契約交渉ができていないことがわかる。

それは、公取委がニュースポータル6社から聞き取り調査をしたニュース使用料のばらつきにも表れている。

2021年度についてみると、平均値は約124円であり、また、最大値は約251円である一方、最小値は約49円と、最大値の約5分の1となっている。

そして、ニュースメディア各社のニュース使用料収入トップの事業者の中の割合では58.7%、トップ3の事業者の中では89.8%とそれぞれ1位を占め、流入元としても大きな存在感を持つのが、ヤフーだ

ニュースメディア事業者にとって、Yahoo!ニュースを提供するヤフーとの取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、ヤフーが著しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ない場合があると考えられることから、ヤフーは、取引先であるニュースメディア事業者との関係で優越的地位にある可能性がある。また、事業規模の比較的小さなニュースメディア事業者に対しては、優越的地位にある可能性が相対的に高いと考えられる。

公取委は、そう指摘する。

ニュース使用料収入トップ事業者で2位(14.3%)、トップ3事業者の中ではスマートニュース(60.7%)に次いで3位(51.5%)となっているのがLINEニュースだ。

ヤフーとLINEは2023年10月1日付で統合され、「LINEヤフー株式会社」となる。優越的地位の可能性は、さらに高まる。

●デジタルファーストの明暗

各ニュースメディアが初めてニュースポータルと契約を結んだ時期についての設問がある。

196社の回答は、2010年代に入って徐々に増加傾向が見られ、2017年に30社とピークを迎える。

さらに各メディアが使用料収入トップ3の事業者と契約を締結した時期を見ると、やはり2010年代に入って漸増傾向にあり、特に後半に急増。のべ537件の回答のうち、2018年には69件、さらに2021年には84件に上っている。

2021年は、メディア業界からのニュース使用料適正化要求の世界的な高まりの中で、グーグルが懐柔策として打ち出したサービス「グーグル・ニュースショーケース」の、日本版が開設された年だ。全国紙、地方紙、通信社など40社以上が契約を締結したという。

2010年代は、「デジタルファースト」と「バイラルメディア」がメディア業界を席巻し、ニュースメディアもデジタル移行に大きく舵を切った時期だ。

「デジタルファースト」は2011年にガーディアンが旗印として掲げ、ニューヨーク・タイムズが2014年にまとめた改革レポート「イノベーション」でも大きく取り上げられた。GAFAの一角を占めるアマゾンの創業者、ジェフ・ベゾス氏がワシントン・ポストを買収したのは2013年だった。

※参照:「読者を開発せよ」とNYタイムズのサラブレッドが言う(05/12/2014 新聞紙学的
※参照:ニューヨーク・タイムズが「紙」の編集会議を廃止し、デジタルに専念する(02/21/2015 新聞紙学的
※参照:ワシントン・ポストと1万年を刻む時計(08/12/2013 新聞紙学的

グーグル、フェイスブック、ツイッターなどのプラットフォームの急成長と、特にソーシャルメディアでの拡散に長けたハフィントン・ポストバズフィードなどの「バイラルメディア」の台頭もこの時期の特徴だった。

「デジタルファースト」の旗を振ったニューヨーク・タイムズは、その旗を掲げたまま2022年2月にはデジタル有料購読1,000万件突破を公表する。

ニューヨーク・タイムズが「デジタルファースト」とともに掲げたのが、デジタル有料購読者の獲得「読者開発」だった。

だが公取委の調査が示すように、日本ではデジタル有料購読が伸び悩み、プラットフォーム依存の比重が増している。

メディアが不満を抱えながら、身動きが取れない事情の一端がここにある。

●「読者開発」の必要性

「ニュースコンテンツが国民に適切に提供されることは、民主主義の発展において必要不可欠」と公取委は指摘している。

その背景には、プラットフォームの拡大とニュースメディアの地盤沈下が、フェイクニュース拡散などの情報環境汚染とともに、社会に深刻な影響を及ぼすというグローバルな認識がある。

オーストラリアやカナダで、相次いでプラットフォームとニュースメディアのニュース使用料契約締結を後押しする法律が成立し、米国でも法案審議が続いていることと、地続きの問題だ。

※参照:Google、Facebook「支払い義務化法」が各国に飛び火する(03/01/2021 新聞紙学的
※参照:Facebook、Instagram「ニュース停止」の衝撃、生成AIで複雑化する攻防とは?(06/25/2023 新聞紙学的

公取委は2022年6月には、ニュース使用料をめぐるデータ開示について、複数のニュースメディアで要請を行うことなどは、独占禁止法に抵触しない、とする見解も公開している。

※参照:巨大プラットフォームとメディア 公取委がニュース使用料をめぐる「共同要請」を認めた背景とは?(07/25/2022 民放online

日本でも、ニュース使用料の算定基準の透明化と金額の適正化の交渉は、早急に進める必要があるだろう。

ただ、持続可能なジャーナリズムを目指すニュースメディアにとって、「読者開発」はさらに重要で、喫緊の課題だ。


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