みんながメディア、ではジャーナリストはだれ?

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07/07/2013 by kaztaira

エドワード・スノーデンさんの告発をめぐって、こんな問いかけがネットで話題になっていた。「ジャーナリストとはだれのこと?」

目新しい議論ではない。10年ぐらい前から繰り返しいわれてきたことだ。ブロガーはジャーナリストか、といった形で。

今回、注目を集めているのは、英ガーディアンで米の情報収集をめぐる一連のスクープを放っているグレン・グリーンワールドさんだ。グリーンワールドさんはジャーナリストなのか、と。

greenwaldガーディアンのスクープを受けて、ニューヨーク・タイムズがグリーンワールドさんを紹介した記事の見出しは「監視問題を追うブロガー、議論の渦中に」、記事の中でも「弁護士でベテランブロガー」とあり、「グリーンワールドさんのジャーナリストとしての経歴は異色」と説明していた。

Blogger, With Focus on Surveillance, Is at Center of a Debate (New York Times)

つまり、ブロガーとして注目を集め、ウェブメディアのサロンのコラムニスト、さらには昨年8月からはガーディアン米国版のコラムニストとして活動してきたグリーンワールドさんは、職業ジャーナリストとしての訓練は受けていない、ということだ。

Who’s a Journalist? A Question With Many Facets and One Sure Answer (New York Times)

そして、これについて同じニューヨーク・タイムズのパブリック・エディター、マーガレット・サリバンさんは、「差別的表現ではないか」と指摘する。既存メディアが「ブロガー」という表現を使う場合、そこには「われわれとは違う人種」というニュアンスがある、と。

ジャーナリストとは、のサリバンさんの定義はこうだ。「真のジャーナリストとは、政府と報道機関との対峙関係を、細胞レベルで理解し、尻込みすることのない人々だ――この緊張関係は、米建国の父たちが、表現の自由を保障した修正憲法第1条に込めた思いでもある」

この議論は、そのような意識の問題とは別に、現実的な問題としても提起されている。ジャーナリストの取材活動において、情報源の秘匿を保護するいわゆる「シールド法」によって守られるかどうか、にかかわってくるからだ。

そして、グリーンワールドさんをジャーナリストと見なさず、機密暴露で起訴せよとの声は米政府だけでなく、メディアの中にもあるようだ。

やはりニューヨーク・タイムズのメディアライター、デビッド・カーさんは、アクティビストとジャーナリストをめぐる議論を取り上げる。

Journalism, Even When It’s Tilted (New York Times)

そして、グリーンワールドさんは明らかに政府の情報収集に疑念を抱き、プライバシーと人権擁護の立場に立つアクディビストだと。この場合の「アクティビスト」とは、公益のための取材というレベルを超えた、ある信念に動機づけられた人々、と定義している。その立場はジャーナリストの立場と両立するだろうか、と。

『極秘収集』をスクープしたアカデミー賞候補」でも紹介したが、グリーンワールドさんは、「ペンタゴン・ペーパーズ」の告発者、ダニエル・エルズバーグさんや、グレイトフル・デッドの作詞家で電子フロンティア財団(EFF)の共同創設者、ジョン・ペリー・バーロウさん、俳優のジョン・キューザックさん、人気サイト「ボインボイン」のシェニー・ジョーダンさんらとともに、昨年12月に設立された「報道の自由財団」の理事も務める。

政府に対する調査報道活動を擁護する同財団は、告発サイト「ウィキリークス」や調査報道NPO「センター・フォー・パブリック・インテグリティ(CPI)」などの団体を支援している。

だが、ガーディアン米国版サイトの編集長、ジャニン・ギブソンさんは「グリーンワールドさんをアクティビストと呼ぶのは、彼を孤立させ、その業績を矮小化するための目くらましだと思う」と指摘する。

「アクティビストかジャーナリストかという問題ではない。それは間違った二分法だ」「公正かどうかが問題なんだ。すべてのアクティビストがジャーナリストというわけではないが、すべての真のジャーナリストはアクティビストだ。ジャーナリズムには価値と目的がある――権力の監視に奉仕するという」

これはグリーンワールドさん自身の見解だ。

「その文章の一つひとつにあらゆる想定を盛り込む、そんないわゆる客観報道のジャーナリストたちをずいぶん見てきた。彼らは権力への対峙者としての役割を果たすより、権力者の信任を取り付けたいんだ。これはこれで、昔からあるある種のアクティビズムといえるだろう」と皮肉ってもいる。

客観報道とアクティビズム、グリーンワールドさんの立ち位置は明快だ。

そして、カーさんはこう結ぶ。「アクティビストはしばしば真実を暴き出す。しかし彼らのそもそもの目的は、なお議論の的であり続ける。ジャーナリズムを担う記者は、政治的、イデオロギー的に中立であるべきかどうか、という議論もその一つだ」

この議論を受けて、「ジャーナリストというものは存在しない。あるのはジャーナリズムの機能だけだ」と指摘するのが、ニューヨーク市立大ジャーナリズムスクール准教授でブロガーのジェフ・ジャービスさん。

There are no journalists (BuzzMachine)

ジャービスさんの立場は一貫していて、2005年にはすでに「ジャーナリズムは動詞であって、名詞ではない」とも述べている。

Journalism is a verb, not a noun (BuzzMachine)

つまり、「だれもがジャーナリズムを実践できる時代に、誰かがジャーナリストかどうかという設問自体が間違いだ」と。「そしてジャーナリズムを、コンテンツの製造業から、世の中に情報を伝えるためのサービスへと再定義していく時代には、なおのこと」

そして、「ジャーナリスト対ブロガー」という相も変わらぬ対立構図に仕立てたがる人々にため息をつく。

電話、入退出記録、電子メール・・・『スパイ共謀者』としてのジャーナリスト」でも紹介したが、既存メディアのジャーナリストであっても、情報のリークにより、スパイ防止法の「共犯者」とされ、メールが押収される事例が明らかになっている。

ブログサイト「ボインボイン」では、グリーンワールドさんと同じ「報道の自由財団」の理事でもあるジョシュ・スターンズさんが、ジャーナリズムとスパイ防止法、という視点で記事をまとめている。

Acts of Journalism and the Espionage Act (BoingBoing)

きちんとフォローしておきたい議論だ。

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