AOLの「地域サイト」失敗から何が学べるのか
コメントする12/18/2013 by kaztaira
低迷が指摘され続けてきたAOLのハイパーローカルサイト「パッチ」に、ニューヨーク・タイムズの名物メディアコラムニスト、デビッド・カーさんが、痛烈な引導の渡し方をした。
「地方の潤沢な広告市場を手に入れようとした試み、つまりアームストロング氏の〝白鯨〟の追跡は、終わった」
15日付けのコラムで、カーさんはそう断じた。
AOL Chief’s White Whale Finally Slips His Grasp (New York Times/ David Carr)
●900サイト、1400人のスタッフ
AOLのCEO、ティム・アームストロングさんが、まだグーグル在籍中の2007年に立ち上げに関わったハイパーローカルサイト「パッチ」。2009年、アームストロングさんがAOLに移籍すると、ほどなく推定700万ドルで「パッチ」を買収した。
各ローカルサイトにはライター1人、広告営業1人を配置し、年間予算10万ドルで回す、というモデルで、最盛期に全米900サイト、1400人のスタッフを抱えた。
結果的に3億ドル(AOLは200億ドル以上と説明しているようだが)をつぎ込んだが、売り上げは一向に上向かず、今夏には350人以上を解雇、数百という単位でサイトを閉鎖していった。
AOL Starts Patch Cuts, and Up to 500 People May Lose Their Jobs (All Things D/ Peter Kafka)
ただ、カーさんの取材に対し、アームストロングさん自身は、なお提携を模索しながら収益化を目指す、と説明しているようだ。
そして、社内向けのメモでも、提携についての協議は続いている、と述べている。
ただ、提携模索とはすなわち、自力での収益化は不可能、との判断だとカーさんは見る。
「パッチは、その断末魔の中でも、なお初々しく、さらに成長し、創設者にのみ見える未来へと向かっている」
コラムはそう締めくくられている。
●パッチの間違い
著名ブロガーのジェフ・ジャービスさんも手厳しい。
「デビッド・カーは今日、パッチの死亡記事とでもいうべきものを書いていた」という書き出しで、「パッチの事実上の死体解剖」というこれも強烈なタイトルのブログを書いている。
The almost-post mortem for Patch (Buzz Machine/ Jeff Jarvis)
パッチを立ち上げる前、アームストロングさんはジャービスさんのところに、アドバイスを求めにきた、と明かす。
ハイパーローカルのビジョン自体は間違っていないし、ジャービスさん自身、教鞭をとるニューヨーク市立大の起業家ジャーナリズムセンターのプロジェクトとして取り組んでいる、という。
そして、問題は、パッチがジャービスさんのアドバイスを全く実践できていないことだ、と指摘する。
ジャービスさんは、パッチの5つの間違いをあげる。
1.ビジネスモデルをつくりあげる前に、900サイトという規模にスケールしてしまった。つまり、間違いを900倍に拡大してしまった。
2.地方の独立サイトのネットワークになることもできたのに、旧メディアの発想で、サイトを所有しようとした。
3.外部サイトとの協働によって、コンテンツとユーザーの共有も可能だったが、秘密主義、自前主義にこだわった。
4.広告販売も旧メディアのモデル。高い値付けで地方の広告主には手が出なかった。ハイパーローカルが読者サービスであると同時に、地方の広告主へのデジタルサービスであることを考慮していなかった。
5.編集の指導、コントロールができておらず、クオリティのばらつきがありすぎた。成功のカギは自社のコンテンツ・マネージメント・システムだと勘違いしていた。だが、ハイパーローカルの成功のカギは地域を思うパッションだ。パッチにはそれが欠けていた。
南カリフォルニア大デジタルメディアセンターのミッシェル・マクレランさんも、4つのポイントをあげる。
・早くスケールしすぎた。
・地域の広告主ときちんと関係づくりをしなかった。
・市場の収益性に比べて目指す利益水準が高すぎた。
・ライターの多くは地域の人間ではなく、「ローカルもどき」のサイトだった。
Patch: Learning the hard way in local news (Michele McLellan)
●職人芸と工場生産
人気サイト「ギガオム」のマシュー・イングラムさんも、「パッチの失敗は明らか」と指摘する。
ハイパーローカルなジャーナリズムとは、そもそも工場生産のようにスケールするものではなく、職人芸の世界なのだ、と。
フォーブスのメディアライター、ジェフ・ベルコビッチさんも、ベンチャーのスモールスタートとは真逆の急拡大を敗因にあげる。
The Fatal Error That Doomed AOL’s Patch (Forbes/ Jeff Bercovici)
●エブリーブロックの復活
ハイパーローカルそのものの可能性が消えたわけではなさそうだ。
ハイパーローカル、オープンデータの代名詞だった「エブリーブロック」が復活の見通し、とのニュースがあった。
EveryBlock Is Back From The Dead (Chicago Grid)
犯罪発生情報や行政情報などのローカル情報を、マップ上に落とし込み、それをソーシャルに共有する。2007年に起業したこのサイトは、メディア・イノベーションの先駆的な存在だった。
エブリーブロックは2009年にmsnbc.comに買収された。そして昨年、NBCがmsnbc.comを統合。そして、今年2月に閉鎖が公表されていた。
その経緯については、「イノベーションの先駆者の閉鎖」でも紹介した。
だが、この事業を引き継いだ米CATV大手のコムキャストが、まずはシカゴ版から復活する計画だという。
●ローカル紙を買収する
著名な投資家、ウォレン・バフェットさんは、この2年で28のローカル紙を買収している。
投じた総額は3億4400万ドル。AOLがパッチに使った総額と同規模だ。
「ローカルニュースの伝達では、なお新聞の一人勝ちだ」とバフェットさんは指摘している。結びつきの強いローカルコミュニティーは、きちんと収益化できる、との立場だ。
Buffett Explains Why He Paid $344 Million For 28 Newspapers, And Thinks The Industry Still Has A Future (Business Insider)
http://www.businessinsider.com/warren-buffett-buying-newspapers-2013-3
敗因と勝因。共通するポイントは、「結びつき」なのだろう。
———————————–