2万件超すフェイク記事・サイトの6割で、Google広告が収益を支える 初の大規模国際調査

11/01/2022 by kaztaira

2万件超すフェイク記事・サイトの6割で、グーグルの広告配信が収益を支えていた――。
 
 
米メディア「プロパブリカ」は10月29日、グーグル広告とフェイクサイトについての国際調査報道を公開した。
 
「プロパブリカ」が調査対象としたフェイク記事は1万2,000件超、フェイクサイトは約8,000件。このうち、6割近くがグーグルからの広告配信を受け、収益を上げていた。
 
中でもトルコやバルカン半島、ブラジル、アフリカなどの非英語圏で、フェイク記事・サイトにグーグルが広告配信をしている割合が高く、6割超から9割に上っていた。
 
フェイク記事・サイトへの広告配信は、広告主のブランド毀損につながる。
 
広告主は、このようなコンテンツへの広告配信を避ける「ブランドセーフティ」への関心が高い。
 

●欧州、ラテンアメリカ、アフリカで

 
グーグルは、欧州、ラテンアメリカ、アフリカの偽情報を最も多く提供するウェブサイトに収益を流入させていることが、プロパブリカの調査によって明らかになった。
 
「プロパブリカ」は10月29日に公開した調査報道の中で、そう指摘している。
 
国際調査報道を行ったのは、同サイトの記者、クレイグ・シルバーマン氏らのチーム。シルバーマン氏は、ファクトチェックの第一人者として知られ、ソーシャルメディア上の偽情報の拡散をいち早く「フェイクニュース」と指摘したジャーナリストだ。
 
シルバーマン氏らは、記事の中でさらにこう述べている。
 
同社(グーグル)は世界中で偽情報と戦うと公言しているが、プロパブリカによる初の大規模分析では、グーグルの肥大化した自動デジタル広告のオペレーションが、ワクチン、新型コロナ、気候変動、選挙といった話題について誤った主張を広げる世界中のウェブサイトに、主要ブランドの広告を掲載していることが判明している。
 
シルバーマン氏らは、ファクトチェック団体の連携組織「国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)」やサイトの信頼度判定に取り組むベンチャー「ニュースガード」といった米国を拠点にしたグループや、欧州のNPO「EUディスインフォラボ」、南アフリカのNPO「アフリカチェック」など各国のファクトチェック団体を含む9団体から、1万3,000件を超す偽情報発信と判定した記事のアドレスと、8,000を超すサイトのドメインのデータの提供を受けた。
 
8月23日から9月13日までの期間に、このうち1万2,594件のフェイク記事と、7,960件のフェイクサイトの計2万554件の広告配信状況を検証。記事では7,520件(59.7%)、サイトでは4,324件(54.3%)、合わせて1万1,844件(57.6%)で、グーグルからの広告配信を受けていた。
 

●グローバルと非英語圏

 
検証データの中でグローバルなものは、ニュースガードによるフェイクサイトの7,739件と、「国際ファクトチェックネットワーク」による新型コロナに関するフェイク記事814件、フランスのファクトチェックNPO「サイエンス・フィードバック」による気候変動に関するフェイク記事427件。
 
検証の結果、フェイクサイトでは4,186件(54.1%)、新型コロナのフェイク記事では338件(41.5%)、気候変動のフェイク記事では86件(20.1%)で、グーグルの広告配信を受けていた。
 
シルバーマン氏らの検証で特徴的だったのは、英語以外の言語によるフェイク記事やフェイクサイトでの、グーグル広告の配信割合の高さだ。
 
トルコのファクトチェック団体「テイット」の提供データの検証によると、1,035件のフェイク記事のうち、756件(73.0%)、フェイクサイトでは50件のうち45件(90.0%)でグーグルが広告配信をしていた。
 
強権政治で知られるエルドアン大統領のトルコでは、政権によるメディア支配も指摘される。
 
ボスニア・ヘルツェゴビナのファクトチェック団体「ラスクリンカバネ」のセルビア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナのデータによると、フェイク記事9,973件のうち6,216件(62.3%)、フェイクサイト30件のうち26件(86.7%)でグーグルによる広告配信が確認された。
 
また、リオデジャネイロ連邦大学(UFRJ)ネットラボのデータでは、フェイクサイト30件のうち24件(80.0%)でグーグル広告が配信されていた。
 
さらに、南アフリカのファクトチェック団体「アフリカチェック」のデータでは、セネガル、ギニア、マリ、コートジボワール、カメルーンといったフランス語圏でのフェイクサイト44件のうち、グーグル広告が配信されていたのは29件(65.9%)。これに対して、ナイジェリア、南アフリカ、ケニアといった英語圏では、フェイクサイト66件のうち、グーグルの広告配信があったのは38件(57.6%)だった。
 
アフリカの中でも、英語圏よりフランス語圏の方が高い割合で、偽情報サイトにグーグル広告が配信されていたことになる。
 
広告配信をめぐるグーグルのフェイクニュース対策は、英語圏に片寄っている、とシルバーマン氏らは指摘する。
 
「プロパブリカ」のインタビューに対し、グーグルで信頼性と安全性担当の責任者だった元社員は、英語以外の言語におけるフェイクニュース対策が手薄であることを認める。その理由として、グーグルが嫌う三つの懸念事項「悪評」「当局の規制」「収益への影響」を挙げる。
 
この3点について、最も影響が大きいのが主に英語圏の市場だ。そのため、ほとんどの努力がそこに注がれている。
 

●著名ブランドの広告配信

 
シルバーマン氏らの調査では、グーグルが偽情報記事やサイトに配信していた広告には、世界的な著名ブランドも含まれている。
 
セルビアでは、「猫の飼い主は新型コロナに感染しない」とするフェイク記事に、米国のファッションブランド「セントジョン」の広告が配信されていた。「新型コロナワクチンはDNAを改変させる」とのセルビアのフェイク記事には、米国のファッションブランド「コーチ」の広告が掲載されていたという。また、「新型コロナの危険度はインフルエンザ並み」と主張するドイツの極右サイトには米国赤十字の広告が掲載されていた。
 
シルバーマン氏らはこの他にも、フェイクサイトに「サックス・フィフス・アベニュー」「イーベイ」「ニューバランス」「ゲス」「アマゾン・プライム・ビデオ」「スポティファイ」などのブランドの広告が配信されていることも確認したという。
 
グーグルをめぐっては2017年、ユーチューブのヘイトスピーチ動画などに広告が掲載されている、として英国政府などが広告引き上げに動いたことが発端となり、同様の動きがAT&Tやジョンソン・エンド・ジョンソンといった米国の大手広告主にも飛び火する騒動になった。
 
この騒動では、ブランド毀損になるようなコンテンツへの広告配信を避け、安全性を確保する「ブランドセーフティ」に、大きな注目が集まった。
 
※参照:グーグルからの広告引き上げ騒動、広がり続けるその背景(03/25/2017 新聞紙学的
 

●年間26億ドルの推計

 
ニュースガードは2021年8月、コムスコアとの共同調査で、年間26億ドルがフェイクサイトの広告収入になっているとの推計を明らかにしている。
 
ただし、この調査にはグーグルの名前は出てこない。
 
グーグルはコンテンツポリシーの中で、「ワクチン接種反対運動」「新型コロナウイルス否定」「気候変動に関する科学的コンセンサスと矛盾」などの「信頼性がなく有害な文言」を、具体的に例示して禁じている
 
今回の調査は、それらのポリシーが特に非英語圏で十分に機能していないことを示す。
 
グーグルは2011年から毎年、「広告安全性レポート」を公開している。
 
2021年のレポートでは、17億サイトで広告配信をブロック・制限したとしている。
 
「プロパブリカ」の取材に対して、グーグルの広報担当者はこう述べている。
 
当社は選挙、新型コロナ、気候変動を対象としたポリシーなど、プラットフォーム上の誤情報に取り組むための広範な施策を行い、50以上の言語でポリシー執行に取り組んでいる。2021年には世界で17億超のメディアページと6万3,000のサイトから広告を削除した。この取り組みが完全でないことは承知しており、信頼できない主張をさらにしっかりと検知し、世界中のユーザーを保護するためにシステムに投資し続ける。
 
「ブランドセーフティ」に、引き続き広告主は敏感だろう。

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