クビになったソーシャルエディター: ボストン爆破テロ、メディアその後

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04/28/2013 by kaztaira

誤報のツイートをしたロイターのソーシャルメディアエディターは、クビになっていた。

matthew_keys

支援・犯人捜し・誤報:ボストン爆破テロ、(ソーシャル)メディアで起きたこと」で、ソーシャルブックマークサイト「レディット」でのボストン爆破テロ事件の「犯人捜しのクラウドソース」について紹介した。

犯人捜しが過熱して、行方不明になっていたブラウン大学の学生を犯人扱いし、ロイターのソーシャルメディアエディターがツイート。学生の行方を捜すために家族が立ち上げたフェイスブックページに誹謗中傷が殺到する事態になった、と。

「通信指令:容疑者2は行方不明のブラウン大学生スニル・トリパシ(Dispatcher: Suspect 2 is missing Brown University student Sunil Tripathi)」

ロイターのソーシャルメディアエディター代理(デスク)によるこのツイートは現在削除されているが、情報源は警察無線、としている。

そして、このデスク、マシュー・キースさんは、まったく別の事件で有名な人だった。

3月、米司法省がこんなリリースを出して騒ぎになった。ロイターのソーシャルメディアデスク、マシュー・キースさんが、ロサンゼルス・タイムズのウェブサイトをアノニマスのメンバーが改ざんしたとされる事件で、ログイン用のID、パスワードを渡すなどして共謀したとして、FBIが捜査し、起訴にいたったという内容だ。

ただし、本人はこれを否定しているようだ。

Matthew Keys denies charges in ‘Anonymous’ case (Politico)

これを受け、ロイターはキースさんを停職処分としていたという。

Reuters Fired Its Indicted Social Media Editor After Bad Social Media Editing (The Atlantic)

停職中だったキースさんだが、ツイッターはやめていなかった。そして15日のボストン爆破テロの発生後は、その数も急増。1日あたり300~400程度のライブツイートを続けていた。だが中には、ブラウン大生の一見以外にも、様々な不確かな情報や誤報が混ざっていたようだ。

3万5000人という少なからぬフォロワーを持つソーシャルメディアエディター、キースさんの、その「報道姿勢」に対してメディアからも批判の声が上がっていた。

例えば、ニュースサイト「オール」のエディター、コワール・サイチャさんのこんな記事。キースさんを含む、メディアによるソーシャルメディア発信の情報の確度が低く、内容にも乏しいと批判している。

「そのソーシャルメディアエディターは報道機関を台無しにしていないか?(Is Your Social Media Editor Destroying Your News Organization Today?)」

キースさんは、4月22日、こんなツイートをしている。

「いま電話を切ったところだ。ロイターは私をクビにした。本日付だ。組合から不服申し立てをすることになるだろう。詳細は後ほど」

ポリティコのメディア記者、ディラン・バイヤーズさんによるインタビューが掲載されている。

Matthew Keys on Reuters firing: ‘I assume they were looking for an out’

これによると、解雇通告の中ではアノニマスの件についての言及は全くなかったという。

「今日の電話で彼らは起訴のことは一切触れなかった。しかし一方で、私が停職中なんだということを繰り返し指摘していた」

ただ、キースさんはこうも見ている。「彼らは口実を探していたんだと思う」。厄介払いの、ということだろう。

キースさんのその後のツイートによると、今回の件以前にも、グーグルのラリ・ペイジCEOのパロディーアカウントをつくるなどの「前科」があったようで、昨年10月に「最終警告書」なる文書をロイターから突きつけられていたという

直接の解雇理由は、今回の停職中の一連のツイートが、その「最終警告」に違反した、ということのようだ。

そして、メディアからの批判に対して、フェイスブックでこんな反論をしている。

警察無線の内容をツイートしていたソーシャルジャーナリストはほかにも大勢いた

それはうそではない。キースさんのインタビュー記事を書いているポリティコのディラン・バイヤーズさん本人も、「スニル・トリパシ」さんの名前を含むリツイートが残っている

誤報なら、「犯人逮捕」の誤報を流したCNN、人違いの「犯人」の写真を載せたニューヨークポストなど、ほかにもいくらでもあった。

最終的にキースさんが受け取った解雇通知書にあった解雇理由は「目に余る職務怠慢」だった、と本人のフェイスブックページに書き込んでいる

「犯人捜し」の舞台になったレディットでは、ゼネラルマネージャー、エリック・マーチンさんが、容疑者逮捕後の4月22日に、スニル・トリパシさんの家族に対する謝罪文をブログに公開している。

「ネットの魔女狩りと危険な臆測が、無実の第三者に極めてマイナスの結果をもたらしてしまった」

「レディットでは数年前から、サイトでの個人情報の公開を禁じている。『これは誰だか探し出せ』というイベントは、往々にして魔女狩りに行き着き、しばしば無実の人々を取り違え、その人たちの暮らしをメチャクチャにしてしまうからだ。あらたな情報探しのクラウドソースが、その種の魔女狩りを引き起こさなければいいが、と願っていたが、私たちは間違っていた」

Reflections on the Recent Boston Crisis (Reddit blog)

一連の動きをまとめたロサンゼルス・タイムズのこんな記事も。

Reddit’s apology, Matthew Keys’ firing and lessons from Boston

そして、先月から行方がわからなくなっていたというトリパシさん本人は・・・4月23日、大学にほど近い公園の池で、遺体で発見されたという。

Body found in water that of missing Brown student (AP)

事件の余波にも、一応の決着がついたことにはなるが、これで何が終わるのかは、よくわからない。

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